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第60話
会社に行こうと思ったけれど、もう何もかもめんどくさくなってやめてしまった。
自ら仕事に行かないなんて、以前の自分が知ったらどれほど怒られるだろうか。
いつも社長が使っている枕を抱きしめてベッドに寝転ぶと、安心できた。
しばらくごろごろしていると、がちゃっとドアの開く音がした。
驚いて時計を見るとすでに、7時をまわっていた。
急いで服をきちんと着て、ベッドを整える。
枕を元の位置に置き終えるのと同時に、寝室のドアが開いた。
「ただいま。何も連絡がなかったから、ここへ来たが、大丈夫か?」
「大丈夫です。昨夜は取り乱して、多大な迷惑を掛けてしまい申し訳ありませんでした。」
「兄には迷惑をかけるものだろう」
そういって頭をぽんぽんとたたいた、離れていく手を引き止めたくなる。
「何故、あんなことをしたか、聞いてもいいか。」
会長は素直になれと言っていたが、どこまで正直に話せばいいのだろう。
「あなたが私に何度も好きだなんて言うから…」
「魅弥は俺が嫌いか?」
「そんなわけっ」
社長を嫌いになる日なんて来ないだろう。
素直にならないと。
「社長。私はあなたが好きです。」
早く打ち続ける心臓が痛い中、社長のああと頷く声が聞こえた。
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