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第64話

「社長、遅れてしまい申し訳ありません」 社長室に入り、社長の横に立った。 「いや、かまわない。用事は何だった?」 「連絡先を聞かれました。それと、イギリス側のホテルに温泉を作ることが確定したようです」 「そうか」 「あの、何か怒っていますか…?」 「……どうしてそう思う?」 いつもよりも目を見てくれないから。 話す言葉の数が少ないから。 声がどことなく冷たいから。 「いえ、何でもありません。気のせいだったようです」 「いや…怒ってはないが……魅弥、そんな目で見るな。すまん、嫉妬した」 嫉妬って… どこにだろうか。 ただ、嫉妬されるというのは単純にうれしい。 「何に対して、ですか?」 「アイアンズ氏が魅弥の頬にキスをしていただろう?挨拶だとはわかっているんだが、少しな。そこまで態度に出ているとは思わなかった。すまん」 「いえ、あのうれしいです。これからは出来るだけ避けるようにします」 「それはしなくていいが、俺にもしてくれないか?魅弥から、俺に」 「いや、それは…」 「アイアンズ氏にはしていただろう?俺にはしてくれないのか?」 バートは友人だし、何も考えずにできるけど。 社長にするのはわけが違う。 恥ずかしい。 「魅弥?」 「あーはい、目つぶっててくださいね?」 恥ずかしがった方が負けだ。 えいっと社長の頬にキスをすると想像以上に恥ずかしかった。 「頬なのか?まあ、仕方ない」 そういって社長は俺の唇にキスを落とした。 仕事中に何やってんだろとは思いつつも、幸せな気分に浸れた。

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