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第69話
しばらく、食事を楽しんでいるとバートがあっと声をあげた。
「どうした、バート?」
「いや、食事中に失礼なんだけど……神奈氏がいるよ」
食事を楽しむ他の客を見回すのは、申し訳ないがつい探してしまった。
見つけて、すぐに見なければよかったと後悔した。
かわいい色のドレスを着た女の人が社長と席についている。
後ろ姿だから顔は見えないけど、髪はふわふわしてて、背筋がきれいだ。
あれだけ彼女がいたんだから、今もいると考えていいだろう。
「へぇ、神奈氏って彼女とデートとかするタイプなんだ。でも、何人とも付き合ってそうだよね」
何人とも?
この人以外にもたくさん?
仕方ないよな。
俺は男だから胸もないし、セックスだっていちいち大変だ。
あんなに可愛くないし、社長のあんな顔を引き出すこともできない。
さっきまであんなに美味しかった食事が、今は何も感じられない。
分かってた、はずなのに。
目の前にすると、泣いてしまいそうになる。
「魅弥、どうかした?」
「あっ、いや、何でもない。それより、これ美味しいな」
「うん、美味しいね」
バートは関わって欲しくない心境を読み取ってくれたのか、突っ込まないでくれた。
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