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第93話
「じゃあ、仕事がんばってね」
「ん、ありがと」
あの後、俺の仕事場まで送っていくというバートに甘え、バートの車に乗せてもらった。
車を出る時、ふざけて抱きしめられる。
「バート、会社の前だから」
「ごめんね?」
いってらっしゃいと手を振るバートに小さく振り返した。
「社長、おはようございます」
「ああ、おはよう。昨日はすまなかったな。偶然、会うとは思わなかった」
社長室でしばらく1人で仕事をしていると、社長が入ってきた。
「いえ。大丈夫です」
今だ、聞け。
昨日の女の人は誰ですかって。
たった1文だ、言え。
「そうか。また、どこかへ一緒に行こうか。昨日はあの後、アイアンズ氏のもとに泊まったのか?」
聞けない。
答えを想像するだけで、嫌になる。
たとえ、あの女の人が社長の彼女でもいいじゃないか。
なら別れようなんて言われるより全然。
「はい、バートの家に。今朝はお送りできず、すみません」
「構わない」
バート、やっぱりそんな勇気でない。
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