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第96話

「私、そろそろ行きますね!今日は会えて良かったです。やっぱり、玻璃さんのお友達も優しいんですね」 「あ、いえ。私は玻璃の弟ですよ」 久しぶりに自分から玻璃って呼んだな。 言葉にしてみると、自分はそう呼びたかったんだなと感じる。 「そうなんですね。名字が同じだなと思ってたんです。魅弥さんは、玻璃さんとは雰囲気が違いますね」 「私と玻璃は両親が違いますから。 もう暗いですし、家まで送っていきますね。どこら辺ですか?」 両親が違うということに踏み込まれないように、急いで言葉を付け足した。 「あっ、わざわざすみません。今から玻璃さんの家に行こうと思ってて」 それなら私でも分かりますね。と笑いながら、心の底ではドロドロとしたものがうずまいていた。 社長の家までの短い道で、彼女はとても楽しそうに社長との思い出を語っていた。 海に行ったこと、テーマパークに行ったこと、食事をしたこと、ちょっとした喧嘩のこと。 それを穏やかに聞けた俺を褒めて欲しい。 歩むスピードをはやくした。 この時間が少しでも早く終わるように。 やっと、ついた時にはもう疲れきっていたが、ちゃんと笑顔で別れた。

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