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第20話 そんな事もわかんねぇのか
【そんな事もわかんねぇのか】
最近、改めて気がついた事がある。ショットがどれだけバカなのかって事だ。
「茶太郎さん、これ修理できます?」
「見せてみ」
一緒にガラクタを漁って使えるモンを探してたクレイグがほとんど壊れてるように見えない拳銃を渡してきた。
「うん、フツーに直せそう」
「そういうのってどこで覚えるんすか?」
「工業系の授業もある学校だったんだよ。一応、電気系統もそこそこ触れるんだぜ」
「へぇ……」
あんまりピンと来てなさそうな返事に「俺、頭良いんだ」と冗談めかして言えばクレイグも笑った。
「そろそろハラ減りましたね」
「そうだな」
ウチ来るか?と誘ったが、この街のガキ共はどうもショットが怖いらしい。まあ当然っちゃ当然か。あいつワケわかんねーもんな。
「ハラが減ったら、何か食うよな?」
「何当たり前の事言ってんだよ」
スラムのカフェでリドルと一緒にエッグサンドを頬張りながらそんな事を聞く。クレイグと解散した後ウロウロしてたらゲートで他の警察官と談笑してる所を見かけて、一緒にメシでもどうだと誘ったんだ。
「いや……ショットがさ」
「んだよ、せっかく茶太郎から誘ってくれたと思ったら結局あのクソの話かよ」
「まあ聞けって。俺、気が付いたんだけど」
「あ!!てかお前らこの前、電車乗って首都に行ってたんだって!?」
「聞けよ」
「警察は何やってんだよ!捕まえろよ!!」
「おい聞けよ」
コイツが何でこの街に引っ越して来たのか忘れてたけど、そういえばショットを捕まえるためだったな。
「てかなんでそんなあいつに執着してんの?」
「あいつの脱獄事件の時に俺の父親が大怪我して引退を余儀なくされたんだよ、これは復讐だ!」
「へえ」
「へえは無くね?一応3時間くらいは語れるドラマがちゃんとあんだけど」
「いらねえ。てかそれなら何で辞めたんだよ、おまわりさんじゃないと正式に捕まえられねぇじゃん」
食い終わったサンドイッチの包装紙を丸めながらそう尋ねてみる。
「あいつを追いたいって言い続けてたら危険因子扱いされて遠くに転勤させられかけたから辞めてやったんだよ」
「あ、そ」
「茶太郎には悪いけど、俺は絶対あいつを連れて行くからな」
「ふーん」
まあ、警察の方針は理解できる。|ゲートの外《法外地区》にいる奴をわざわざ追う必要なんかないと思う。ここに住んでスラムや都会の方にちょこちょこ顔を出しては犯罪行為をするような奴はすぐ賞金がかけられて、オーサーとリディアの餌食になるだけだし。そう、実はオーサーはどんなに対象が離れてても動いてても絶対に狙いを外さない凄腕のガンマンだ。それがリディアっていう俊敏な足を手に入れて、あいつらは幼いながらに向かうところ敵なしの賞金稼ぎなんだよな。
ショットは過去にデカい事件を起こしはしたものの、突かれない限り爆発しないって事は周知の事実だ。実際、ここでもう何年も大人しく暮らしてるんだからな。たまに血まみれで帰ってくるけど。
「最近、お前が無闇やたらと犯罪者どもを|向こう側《ゲートの内側》に追い出しちまうから商売上がったりだってオーサーがキレてたぜ」
「俺の前に現れるから悪いんだ。それにちょうど今ゲートの見張りが元同期のやつでさ。得点稼がせてやりてーじゃん」
「そのうち後ろから刺されるぜ」
まあ、そんなワケで警察はこのゲートの外側にわざわざ介入してまで犯罪者を追ってくることは基本的に無い。リドルは犯罪者撲滅に対して熱血だから、そんな警察の内情に失望したんだろうな。
「そういや奴にも賞金はかけられてるのに、なんであのガキ二人はブラッドレイを捕まえねえんだ?」
「お前それまじで特大ブーメランだぞ」
「……あれで隙がねぇんだよ」
「理由わかってんじゃねえか。オーサーたちも別に仲良しごっこしてるわけじゃねぇ、単純にあいつに勝てないんだってよ」
「クソ……俺だって仲良しごっこなんかしたくねぇよ!」
ショットはいっつもフラフラしてるけど一応たまにはちゃんと鍛えてるっぽいコトも俺は知ってる。まあそれ以上に生まれ持った野獣性が強すぎるとは思うけど。
どんなに油断してるように見えても、もしあいつに本気で銃口やナイフでも向けようものなら、次の瞬間には殺される自信があった。
「……で?なんなんだよ、あいつの話がしたかったんだろ」
「ああ、そうなんだけど……あいつ、どうも自分の欲求が理解できてねえ気がするんだよな」
「はあ?意味わかんね」
俺は最近のあいつの言動を思い返した。
***
ある日、ショットが「なんかいや」と意味不明な事を言いながら床に寝転がってぐずぐずしてた。
「なんかってなんだよ、イライラしてんのか?」
「うーん」
そういやしばらく何か食べてる姿を見てない気がするし、冷蔵庫の中も全く減ってないなと思って、念のため確認してみた。
「なあショット、お前最近なんか食った?」
「んー……」
俺の知る限りでは3日くらい何も食べてないように見える。外で食ってるなら知らねーけど。
「お前さ、しばらく何も口にしてなくね?」
「……ちゃたの血、のんだ」
「吸血鬼かテメーは」
そんなんで腹が膨れるワケがないだろ。一応人間なんだから。
「なんか食えって。お前多分ハラ減ってんだよ」
冷蔵庫にあったチーズを口に突っ込むと大人しくなる。気分じゃなかったら「いらない」とか言って吐き出しかねないなと思ったけど、どうやらモノが口に入ると空腹を理解したらしい。
「ん、もっと」
「もうすぐシドが帰ってくる時間だから、そしたら晩メシにするよ」
そう答えると珍しく「おれ、おむかえ行く」と出かけて行った。
また別のある日は夜中に帰って来たかと思うと寝てたのにいつもの"ヤリ部屋"へ引きずられて投げ込まれた。
「なんだよぉ寝てたのに、背中擦りむいたし……」
「かえってきた」
「おかえり。いや、なんで今言う……ん、ん……」
起き上がると顔中にキスされて、そのまま覆い被さられてシャツを脱がされてあちこち舐められて、あー朝までに終わるかな……なんて考えてるとズシッと胸元に体重がかけられて、思わぬ衝撃に「ふぐっ」と間抜けな声が出た。
「お、重いって……おい、ショット?」
「んん」
「どした……寝てんのか?」
覗き込むとすぅすぅと安らかな寝息を立てながら爆睡してて、なんだコイツ眠かったのかと。すっかり脱力して重い体をなんとか持ち上げてベッドに寝転がらせてやって……ってのはまぁ、どうでもいいんだけど。
***
「……ハラ減ってイライラしたり、疲れてムラムラしたり?眠るが理解できなくて泣く赤ん坊と同レベルかよ」
「ああ!まさにそういう感じ」
心の中にあったモヤモヤを的確に表現されて頷いた。そうそう、あいつって赤ん坊みたいなんだよな。
「それさぁ……」
「ん?」
「のろけ?」
「……っはは!やべ、そうかも!」
俺、あいつのそういう所を可愛いと思っちまってて、無性に誰かに話したかったんだよな。これって、立派なのろけだ。自覚すると恥ずかしくて涙が出るほど爆笑する。
「くっくっ……あんな奴のコト、のろけるって」
「おい、いい加減にしろよ!お前ここ奢れよな!」
「悪い悪い、自覚なかった」
伝票を手に取って席を立つと憤慨しながらリドルが「いいよ払うよ」と奪い取っていった。
「にしても、茶太郎、ハラ減ってるあいつにあんま近付くなよ」
「なんで」
「もし性欲と取り違えて襲われたらまじで食われんぞ」
「……」
あいつ既に俺の肉片いくらかは食ってるよな……と思うと変な乾いた笑いが出て来た。血と精液から始まり、汗も唾液も、あらゆる体液はすでに飲まれまくってる事だし、この前はとうとう小便まで舐められたしな。
「……はっ」
「おい、黙るなよ」
「なんでもねーよ」
「特殊プレイはほどほどにしろ?まじで」
「俺はいたってノーマルだっつの」
「無自覚なのが余計にホンモノなんだって!」
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