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第31話 意外と適応力あんだよな、俺

【意外と適応力あんだよな、俺】 「ん」 「なんだよこれ?」  路上で見知らぬヤバい奴と分け合ってパンを食べてたら何かゴソゴソした後に|徐《おもむろ》に金を渡された。メシ代のつもりか? 「いらねーよ、安いパサパサのパンを半分やったくらいで」  そう言ったがそいつは聞いてんのか聞いてないのか、何も返事をせず立ち上がって歩き出した。その背中にはやたらデカい銃を背負ってて、謎の存在感がある。 「変なやつ」  まあくれるモンは貰っとくか……とヨレた金をポケットに突っ込む。これで明日も食えそうだな。  幸いまだギリギリ凍える季節でもねえから、今日の所は適当な軒下に横になってホームレスの真似事をしてた。いや、これって既に立派なホームレスか? 「あー……シャワー浴びてー……」  ボヤいても一人だ。ここどこなんだよ、まじで。あんま無闇にウロつくのも怖いしなあ。とりあえず日が暮れていくのを眺めながら、こんな路上で寝転がりながら意外とリラックスしてる自分に気が付いて「才能あるんじゃね?」とくつくつ笑った。 「なぁアンタ、何やってんすか」 「あ?」  不意に話しかけられて顔を上げるとまだ若そうな野郎が立ってた。 「なんだよ、金ならねーぞ。金目のモンも何にもない」 「見りゃ分かるよ。アンタ都会の人?なんでこんなトコに……」  何も持ってなくてもここで寝るのは危ないっすよ、と言われたが余計なお世話だ。 「帰り道もわかんねーんだよ」 「ゲートまで案内しようか?」 「はぁ?」  なんだこいつ。何が目的だ?と思っても爽やかすぎて裏があるのかどうかわからない。 「気にしなくていいっすよ、俺も行く方向なんで」 「……んじゃ頼む」  この際、どっか攫われて内臓を売られたとしてももう諦めるしかないな……と思考力の低下してる俺はそいつにホイホイついて行く事にした。 「俺、クレイグっていいます」 「茶太郎」  クレイグはマジでただの親切野郎だったみたいで、本当に俺をゲートの近くまで連れて来てくれた。 「ありがとな」  そう言って、さっき貰ったなけなしの金を渡してやろうとすると断られる。 「そんなつもりじゃないんで」 「じゃあコーヒーでも奢るよ、時間あるか?」  ゲートの内側に見えたボロいコーヒースタンドを指せば「お言葉に甘えて」と笑いかけられた。 「ところで、これくらいの身長の金髪のやつ、わかるか?」 「え……他に特徴あります?」 「血まみれで現れて若い奴らに怖がられてた。知ってる?」  そう言うとすぐ「多分シュートでしょうね」と返されて、俺の頭の中で点と点が繋がる。 「あいつが!」 「なんすか?」  こんなトコに知り合いなんかいるハズがねぇのに妙に既視感があったんだが、何回もテレビや張り紙で見た顔だったからだ。ゲートの外にいるって噂はマジだったんだな。 「いや、この金あいつから貰ったから、実質このコーヒーはシュートからの奢りってこった」 「ど、どういう事っすか」  俺の言葉にコーヒーを噴き出しそうになったクレイグに思わず笑う。それから帰りの電車賃が無いことに気がついたけど、この親切なボウヤに言うとコーヒー代を返されそうだったのでにこやかに見送っておいた。 「さて……これからどうすっかな」  ゲートの内側とはいえこの辺りの治安も大して良くは無さそうに見える。見張りをしてるやる気のなさそうな警察官に金を貸してくれなんて言おうモンなら殴られそうな気がしてやめておいた。  夜の歓楽街はギラギラ眩しくて、路地裏は室外機から出てくる臭い空気とゲロと謎の液体や倒れてる人間とネズミで最悪。  結局行くあてもなく、ゲートの外の方が眠れる場所ありそうだなと俺はまたフラフラと足を踏み入れた。案の定、どこか遠くで銃声が鳴ってる事を無視すれば"こっち側"は嫌に静かで、人の気配も無い。  人目につかない場所を探してここで夜を明かしてから、また明日どうするか考えよう、と俺は道に迷わない程度にゲートから離れて物陰を探した。 「ん?」  すると暗闇で何かが動いた気がして、俺の靴がジャリッと音を立てた瞬間に何者かに胸ぐらを掴まれた。 「ぉわ!!」  そのままドッと壁に押し付けられて、爪先立ちになる。気道が狭まって息が苦しい。 「……あ、お前」 「?」  突然襲いかかってきた相手は例の"シュート"だった。俺を覚えてるのか、覚えてないのか、ただ無表情でじっと見つめられる。 「なあ、シャワー浴びれる場所知ってるか?」  こいつ会話できんのかな?と思いながらも、昼間にパンをやると金を渡してきた辺りからして、完全なイカれ野郎ではない想定で聞いてみる。 「……」 「シャワー、浴びたいんだよ」  抵抗せず敵意がない事を示すと思ったよりすんなり手を離してくれて、軽く|咽《む》せたけど歩き出した背中を慌てて追いかけた。 「なぁ、案内してくれんの?」  一応尋ねるが返事はない。でも怒ってるようではなかったからとりあえずついて行く。多分、こいつと一緒にいたら襲われなさそうだなと思ったし。  しばらく歩いてたどり着いたのはどうやらコインランドリーだった。薄暗くて営業時間外のように見えるけど、機械の電源は入ってるみたいだ。 「ん」  声を掛けられて振り返るとシュートは奥の扉を見つめていた。 「あ、これコインシャワーか?」  まじで連れて来てくれたのか、ダメ元だったのに。タオルとかは無さそうだから、濡れたまま元の服を着るしか無さそうなのが嫌だけど。 「やべ……金ある?」  笑いながら聞くとジロッと睨まれる。表情がないから、睨んでるように見えるだけかもしんねーけど。落ち着いて見るとその左目はどうも義眼のようだった。 「いや貰った金でコーヒー飲んじまったんだよ、悪い」  そしたらどういう感情なのかわかんねーけど急に物凄い力で胸元を押されて、バランスを崩した俺はシャワールーム内に転がった。 「ぎゃあ!なんだよ!」  一瞬、怒らせたかなと思って身構えたがカラカラと軽い音が響いて、俺の胸元に何枚かコインが置かれてたのに気が付いた。地面に転がったそれらを拾い上げる。 「くれんの?」  聞いても返事はない。でもシュートは転んだままの俺を跨いでズカズカシャワールームに入ってくると横にある機械を掴んでこっちを向いた。 「それ、入れる」 「ああ……そしたらシャワーが出んのな」 「ここ」 「分かったよ、ありがとう」  なんかお礼にやれるモン無いかなと思ってポケットを漁るとコーヒーについてきた小さいクッキーが出てきた。 「ありがとな、まじで」  それを手に乗せてやるとまたジッと見つめられたけど、シャワー浴びるから出てけと追い出した。

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