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第37話 用法用量をお守りください ※R18

【用法用量をお守りください】 「料理ぃ?出来んの?」 「する」  晩飯の準備をしてるとショットが珍しく料理してみたいと言ってキッチンを覗き込んできた。いったいどういう風の吹き回しだ。 「シドニーと遊んでろよ」 「……」 「ああもう、危ないから勝手に触んな」  包丁を使ってるってのに、考えナシに手を伸ばしてくるからピシャリと叩き落とした。 「わかったよ、じゃあ……コレの皮剥けるか?」  そう言って適当に玉ねぎを手に持たせると「なんかこういうの違う」とワガママを言いやがる。  他にさせられる事なんかねーし……|ラッサム《スパイススープ》を煮てたから、コレかき混ぜといてくれとレードルを持たせておいた。かき混ぜる事に意味はねえけど。 「な?それ重要だから。頼むよ」 「うん」  そう言っておけば納得して、気合いの入った様子で鍋をかき混ぜ始めた。こいつ、こういうトコほんと可愛いんだよな。次に街に行ったら子供用のケガしない包丁でも買ってやろう……なんて考える。  こいつが気にしないとしても、血液の混ざった料理をシドニーに食わせるわけにはいかねえ。 「とーちゃん、見て見てこれ!」 「ん、どうした?」  呼ばれてリビングに行くとシドニーは何か絵を描いたみたいだった。 「家族の絵を描きなさいって言われたから」 「犬なんか飼ってねえぞ?」 「想像でもいいんだって」 「複雑な家庭環境のガキが多そうだもんな。大した配慮だ」  じゃあ俺は猫が好きだから猫も描いてくれよ、と頼んだりしてるとキッチンから変な匂いがしてきたから慌てて駆け戻った。 「おい火ぃ強くしてんじゃねえよ!焦げてるって!」 「んん」  バカ!と馬鹿の頭を殴って押しのける。鍋の底に焦げついちまったみたいだから、これ以上はかき混ぜずに上の方だけ食えばいいや。 「スープ皿わかるか?3つ取ってくれ」 「おれそっちする」 「料理にはもう触んな!禁止!きーんーし!」 「ちぇ」 「あ?」  ちゃんと深い皿を渡してきたのでそれはちゃんと褒めてやった。  なんかちょっと変なニオイがするけど、焦げたせいかなと思ってスープを一口食べると、やっぱりなんか変な味がした。 「ん?シド、ショット、待て」 「どうしたの?」  二人には食べないよう言って、俺はもう一度スプーンを口に運ぶ。 「悪くないんだけど……なんか妙だな」  もう少し食べてみたところで、やっぱりおかしいと俺はキッチンへ向かった。そこで目にしたのは空になったスパイスの瓶。まさか、ショットの野郎……。 「おいショット!これ全部入れたのか!?」 「うん」 「バカお前……食ってねえだろうな、吐け吐け」  ショットの手からスプーンを奪い取って口に手を突っ込もうとしたら拒否された。 「おれまだたべてない」 「シドニー、悪い今日の晩メシはパンだ」 「それはいいけど、とーちゃん大丈夫?」  シドニーにストックのパンを渡して、水をがぶ飲みした。 「どうだかな、さっき食べた分にどれくらい入ってたんだか……」 「何が入ってたの?」 「ナツメグってスパイスだ。入れすぎると刺激が強すぎる」  まあ食べれるレベルの味だったんだし、大丈夫だろ……なんて思って油断してたのが、間違いなく"死亡フラグ"ってやつだったワケだ。  ***  シドニーにシャワーを浴びさせて、二人に歯を磨かせて、ベッドに入ってからしばらく。あの問題のメシを食ってから3時間くらい経ったか、俺は酷く汗をかいて心臓がバクバクして、とても眠れそうになかった。 「あー……」  今は吐き気はないけど、やっぱ食べてすぐに吐いておけば良かったなと後悔する。そのうちフワフワと妙な高揚感に襲われて、水を飲もうと立ち上がった。 「……あ。あれ?」  キッチンに行くつもりが廊下にいて、部屋に戻ろうとしたけど扉にバカみたいにデカい蜘蛛が張り付いてたから無理だった。  それどころか階段の方から蛇が現れたから、俺はとにかく奥の部屋に駆け込んでベッドに潜り込んだ。 「はぁっ、はぁっ」  息がしにくい、口が渇く。窓の外に何かがいる気がして、カーテンを閉めたかったけど、ウチにはカーテンなんか無い。 「はぁ、はっ、あつ……」  服に火が付いてるみたいで、布が触れるとピリピリしたから脱ぎ捨てた。でもそしたら体に蛇がまとわりついてたから、慌てて引き剥がそうとするけど、うまく掴めない。 「ッくそ」 「ちゃた」  ムキになって自分の腕に爪を立てようとした瞬間、ショットの声が聞こえて手を掴まれてハッとした。俺、いま普通じゃなかったな。 「水が、飲みたいんだ。ここは熱くて」  ともすれば支離滅裂な事を言ってしまいそうで、落ち着いて言葉を選んだ。それにしても酷く熱い。幻覚だとわかってても、肌の上を蛇や虫が這ってるみたいで掻きむしりたくなる。 「あ、う……あ……っ」  それが不快すぎて、俺はほとんど反射的に首に爪を立てた。でもすぐその手を捕まえられて、ベッドに押し倒される。 「ちゃた、やめて」 「うぁ、放せ、ヘビがいる」 「いない」  そのうち気持ち悪い感覚は全身に広がって、皮膚の内側から虫が俺を食い破ってるみたいだった。 「やめろ!放せ!!」  自分の声や激しい呼吸が頭の中でめちゃくちゃに響いてワンワンと思考を埋め尽くす。 「ショット、ショット……!」  今、俺の手を掴んでるショットは本物なのか?これさえも幻覚なのか?分からねえけど、唯一気持ち悪くないのはショットが触れてる所だけだ。 「だっ、抱いて、くれ……っ!!」  無我夢中でそう叫ぶと首元に喰らいつかれて、その一瞬だけ身体中を包む不快感が和らいだ。 「もっと、はっ、はぁっ……強、く」  ブチブチッと首の肉と筋を噛み切られるような感覚がして、体の中に潜り込んだ気持ち悪いモノがそこから溢れ出していく。 「ちゃたケガさせるのいやだ」  ショットが何か言ってるけど、理解できない。 「早く、もっと……!う、ぁ、噛んで、くれ」  夢か幻覚か現実か分からない。とにかくショットに触れられる感覚だけが頼りで、無茶苦茶に抱いてくれと懇願した。  *** 「あ、あっ、あっ!!」  四つん這いで後ろから挿入されて、体の内側に手を突っ込んで内臓を直接触られてるみたいな気分がして鳥肌が立つ。俺が自分で自分を傷つけない為か、腕はずっと頭の上でひとまとめに掴まれて解放してもらえなかった。 「あぁっ、あっ!ショット、いやだ、ひ、うっ」  繋がってる部分に意識が集中できたらいいのに、少し気を抜くとまた全身を蛇が這う。虫が歩く。 「もっ、と、もっと激しく、あっ、はぁっ、奥まで……っ」  腕や背中を引っ掻きたくて、拘束を外そうと必死でもがいたけど痛いくらいに手首を掴まれて膝立ちで後ろから責め立てられる。 「こう?」 「あっあっ、く、うぐ……っ!」  腹が破けそうだ。それでも足りない。もっと、もっと乱暴にしてかき消してほしい。 「シュート……あつ、熱い」  首の後ろに噛みつかれて、背中をぬるい血が伝う。それを舐められるとスッと嫌な感覚が薄らいでいく。 「きもちい、シュート……シュートぉ」 「うん」  なんとか手を放させて仰向けに転がると、泣きながらショットの首に両腕を巻きつけた。 「もっと食ってくれ、俺の体……ぜんぶ」 「ちゃた……っ」  興奮した声で名前を呼ばれて、ギラついた目で睨まれて、また体内にショットのブツが一気に侵入してくる。腹の中で何匹もの蛇が暴れ回ってるみたいで腰が勝手に逃げかけたけど、力任せに引き寄せられてガツガツと滅茶苦茶に揺さぶられた。 「は……あ、ぁあ、あっ、あぐっ……!!」 「ちゃたの中、きょう、あつい」 「ふ、ぅあっ、あぁ!」  肩や腕に次々噛みつかれる度にまるで本当に食われたみたいな気がして、俺は手も足も食い千切られたような幻覚の中で絶頂するのと同時に気をやっちまったらしい。  ***  気が付いたら俺は血と精液だらけで床に寝転がってて、酷い吐き気と眩暈で立ち上がれなかった。  掃除が面倒と思いながらもその場で吐くしかない。吐いても血の混じった胃液しか出ないし、まだ手にウジ虫が這ってて……ああ、若干幻覚も残ってんな。 「うぅぅ……ヤバい……」 「ちゃた、苦しそう」  俺の言いつけを守って事後処理をしようとしてくれてたのか、タオルを持ってきたショットに心配そうに声をかけられる。 「わり……病院、連れてって」 「わかった」  病院に着くまでの間、ショットの背中でもゲーゲー吐いちまったけど、キツすぎて唸るしか出来なかった。 「食中毒。嘔吐による脱水。馬鹿かね君は」 「はい、ばかです……」  点滴を受けながら辺りを見回すとショットの姿がない。 「……あの、あいつは?」 「君の嘔吐物まみれで臭かったから追い出したよ。君の服も全部捨てたからね」 「うぅ……」  そうして俺はペラペラの|病衣《びょうい》を法外な値段で買わされて、まだフラフラしてるのに点滴が終わったら追い出されて、何度も転びながらなんとかアパートへ帰るのだった。

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