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第41話 新しいおともだち

【新しいおともだち】  目を覚ますとショットのモンが生理現象でデカくなってて、いっつも良いようにされてばっかの俺は驚かせてやろうとそれに手を伸ばす。  でもズボン越しに触れた瞬間、ガバッと抱き込まれてベッドに押し倒されちまった。 「っうわ!!」 「おはよ、ちゃた」 「起きてたのかよ!」 「いまおきた」  昨晩、赤ん坊みたいに俺の指を咥えて寝てた奴とは思えない目でじっと見つめられて俺がマウントを取る作戦は失敗に終わったようだと観念した。 「朝から元気だな?」 「ちゃたがさわるから」 「まだそんな触ってねーよ」  今日もシドニーは帰ってこない。つまり24時間チャレンジだって出来ちまうってわけだ。流石にしねぇけど。とはいえ俺たちはさっそく朝から"喰らい合う"という事で満場一致した。  その後もシャワーを浴びてヤッて、メシを食いながら盛り始めて、すっかり冷めたメシを後で食べて、一緒に昼寝して、目が覚めたらまた体を繋げて。時間も場所も構わず俺たちは夢中になって抱き合った。  こんなの、まるでヤリたい盛りの学生カップルのお泊まりデートだ。でも似たようなもんだろ。なんせ今日は久々に"タガ"が外れちまったんだから。  こんな風に時間を忘れてショットとずっと肌を重ねてると、怠惰すぎる生活に謎の焦燥感を覚える日もあるが「別にいいか、幸せだし」と思えてしまう。  そう、時間も忘れて……。 「やべっ!今日はもうシドニーが帰ってくる日じゃねーか!!今何時だ!?」 「しらない」  ダラダラ巻きついてくるショットをベッドから蹴り落として俺は枕元にある置き時計を確認した。 「うわーっ!お迎え行ってくる!!」 「はぁい」  ***  一方その頃、ゲートで茶太郎を待つのに飽きたシドニーはゲートを覗き込みながら「どうせとととイチャイチャして時間を忘れてるんだ……」と不機嫌そうに名推理を展開していた。 「おい、ガキがこんなトコで何してんだ」  すると知らない二人組に目をつけられてしまった。知らない奴に話しかけられたら、下手に刺激せず黙ったままその場を離れろ、という茶太郎の言いつけを守ってシドニーは返事をせずに足を動かす。  茶太郎が向かって来ているかもしれない……と思うとすれ違いになりたくなくて、少し悩んだがゲートを越えて帰路を歩き出した。だがその後ろを男たちはしつこく付いてくる。 「……」 「肝試しなら早く帰れよ」 「いや、こいつシュートに飼われてるガキだろ」 「あ?」  その言葉にシドニーの心臓がドキリと脈打った。この街にはシュートに恨みを抱いている人間も少なくない。 「なんだそうか……じゃあ」  走って逃げた方がいいかどうか瞬間的に思案していたシドニーの視界に妙な二人組が見えた。 「おいそこ、何をしてる」 「げ、オーサーかよ」 「弱い子イジメちゃダメなんだよー!」  それはリディアとオーサーだった。二人を見たことのなかったシドニーは快活な少女に肩車されている小さな少年の姿に、自身が絡まれていた事もすっかり忘れて頭の中が"?"でいっぱいになる。 「別にイジメてねーよ、な?」 「そうだよ、家まで送ってやろうかと」 「いいから散れ」  肩車されながら随分と尊大な態度だが、男たちは素直に言うことを聞いて立ち去って行った。どうもこの二人組は簡単に逆らえる相手ではないらしいとシドニーも察する。 「……あの」  何故か分からないが助けられたらしい、と遅れて理解したシドニーが礼を言うために話しかけた瞬間、突然オーサーが腰のホルスターから銃を抜き取りほんの一瞬だけ|照準器《サイト》を片目で確認したかと思うと迷いなく撃った。 「わっ」  驚いたシドニーがその方向を見ると、先ほどの男たちの頭上近くの看板から撃たれて割れたガラスが降り注いでいた。 「なんだよオーサー!やめろよ!冗談だろ!」 「どういたしまして」  オーサーはニヤニヤ笑いながら中指を立てて返す。どうやら先に男共が挑発して、それにやり返したらしい。 「……すごい、あんな離れてるのに」 「ガバメントMKⅣ、シリーズ70だ」  自慢げにハンドガンを見せつけるとクルリと回してホルスターに戻す。 「ようやくストック無しでも9mm弾の反動に負けなくなってきたから持ち替えたんだ」 「へえ……」  銃の事はよくわからないシドニーが生返事を返していると茶太郎が大慌てで駆け寄ってきた。 「シドニー!!」 「あ、とーちゃん」 「ちゃたろー、こんにちは!」 「なんだ、どうした、何かあったのか!?」 「呑気な奴だ。お前の世話してるガキが死ぬ所だったぞ」  どうもオーサーたちがシドニーを助けてくれたらしいとすぐ理解した茶太郎は丁寧に礼を伝える。 「ありがとうオーサー、リディア」 「いいよぉ」 「あのクズを甘やかすのは好きにすれば良いが、子供の前ではほどほどにしておけよ」 「う……」  慌ててシャツだけを着て出てきた茶太郎は髪が乱れていて、その首にも腕にも直前までの激しい情事の痕跡が色濃く残っている。 「でも今日は立って歩けてるだけマシだよ」 「お前、保護者って言葉の意味知ってるか?」 「返す言葉もございません」 「丁度いい。おい、アレ今持ってるか?」 「はい兄さん」  そう声をかけられたリディアが腰のポーチから小振りのハンドガンを出し、何の説明もなく茶太郎の手に持たせた。 「は、いや何だよこれ!」 「お前も一応持っておけ」  俺が前に使っていた反動の小さいモデルだ。経口も小さくて殺傷能力は低いが初心者でも扱いやすいよう改造しておいた。と続けて説明され、茶太郎は返そうとする。 「まじで一回も撃ったことねえんだって、どうせ当たらねえよ」 「持ってるだけでも威嚇になる。親なら子供を守れ」  状況的に言われた事があまりに最もすぎて反論できず、後ろのポケットにはナイフが入っているのでズボンと腰の隙間に捩じ込んだ。 「普段から使うつもりでいなくてもいい。だが本当にいざとなった時は撃てる覚悟くらいしておけ」 「……分かったよ」  茶太郎は渋い顔をして、シドニーに「遅れてごめんな、帰ろうか」と声をかけると手を繋ぐ。そしてふと、この生意気なクソガキなら知ってるのでは……と振り返った。 「あのさ、オーサー、カディレって言葉の意味わかるか?カディエレ……って感じだったかもしんねえんだけど」 「死体」 「おっ……落ちるとかもあるだろ!?」 「それくらい分かった上で聞いてるんだろう」 「可愛くねぇガキ!!」 「礼も言えないのかお前は」 「ありがとよ!!」  歩き出してしばらくして、シドニーはハッとしたように振り返るとまだ道の向こうに二人がいる事を確認して声を張り上げた。 「助けてくれてありがとうー!!」 「いいよ。またなシド」  なんで俺の事知ってんの?と不思議そうにするシドニーに対して茶太郎は首を傾げて返した。

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