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第53話 誘拐だなんてとんでもない 2
【誘拐だなんてとんでもない 2】
深夜、ごそごそと何かが動いてる気配に目を覚ますと背後からショットの腕が回されて股間を|弄《まさぐ》られてた。片腕は俺の頭の下にあったから、イタズラしてやがった方の腕を慌てて両手で掴む。
「ちょ……こら!何してんだ!」
外はよく晴れているみたいで、窓から差し込む月明かりでぼんやりと部屋の中は薄明るい。
「あ、やめっ、おい!」
けど俺が反応したからか仰向けに転がされて、馬乗りになってもう片方の手も服の中に突っ込まれた。
「こら、ストップ。寝込みを襲うのはやめろ」
「?」
「たとえパートナー同士でも、相手の同意なく性行為に及ぶのはマナー違反なんだぞ」
「……」
目を見てキッパリとNOを示すとショットはちゃんと止まってくれた。多分意味は分かってないけど、俺がノリ気じゃない事は伝わってると思う。
「今日は気分じゃないんだ」
「……ちゃた、いや?」
「えっとな……」
嫌だと言うと、またコイツは極端に捉えて「嫌われた」とか言い出さないかな……って心配だったし、別に嫌ってわけではない。
「シドの件で頭がいっぱいなんだ……疲れてるんだよ」
「つかれた?」
「うん。だから今日は寝よう」
手繋ぐだけでもいいか?と聞けば素直に頷いてくれた。でも、コイツもコイツなりに心配や不安があって、俺と肌を触れ合わせたかったのかもしれないな。
「……ごめんな」
「なに」
「応えてやれなくて」
やっぱりなんとなく気になってきて「手で抜いてやろうか?」と聞けば首を振る。
「遠慮すんなよ」
「ちがう」
「ん?」
何か言いたげに見えたから、言葉が出てくるのをじっと待った。
「きょう、あったこと、はなすって言った」
「……あ!」
確かに、昨日リディアとの出来事をたくさん話してくれたのが嬉しくて「明日も聞かせてくれ」って頼んだんだった。
「え、覚えててくれたのか?」
さっきまで眠かったのに、眠気なんかすっ飛んじまった。
「でもきょう、シドとちゃたといろいろはなして、シドとあそんで、ねて、それでおわったから、なにもなくて」
「うん、うん」
「ずっと考えた、ちゃたにはなすこと」
「そうか、それなのに俺が先に寝ちゃったんだな」
繋いだ手に少し力を込めるとショットも握り返してくれる。それから額にキスされて、妙に照れ臭くなった。
「ちゃたのこと、ずっと考えて、さわりたくなった」
「そ、そうか……」
「ここに」
そう言いながら空いてる方の手でスルリと腹を撫でられる。
「はいりたくて」
「……っ!」
本人はただ素直な気持ちを話してるだけなんだろうが……今サラッととんでもない事を言われた気が。
「ねる」
それだけ言い残してあっさり目を閉じちまったショットに今度は俺の方がムラムラしてしまったけど、夜這いを|嗜《たしな》めて手を繋いで寝ようなと言った手前、今更やっぱりヤろうなんて言えもせず。
それに、明日のことを考えれば何もせずに寝るのが一番なんだ。全部解決するまでおあずけだ。
「うぅ……くそっ……」
俺は誰にともなく小さく悪態を|吐《つ》いてショットの胸元に頭を寄せると、とにかく目を閉じて無理やり眠るしかなかった。
***
翌日、俺は早めの時間にシドニーを中学の入り口まで見送り、それらしき女を探した。ひとまず朝の時間に見つからなければ、オーサーに情報をもらいに行こうかと。
でもどうやらその必要は無かったらしく、しばらく西門と東門を行き来してみた所で怪しい動きをしている同年代の女を見つけることができた。
他にも子供を見送りに来た親たちはいくらでもいるが、無事に到着し別れた後はさっさと帰って行く。しかしその女だけはひとりで門の付近をウロつき、まるで誰かを探すように生徒の顔をチラチラと眺めている。
「アンタ、ジェニーか?」
「っ!」
警察だとでも思ったのか、強い警戒を感じた。
「突然だが俺はシドニーを保護してるモンだ、今日は……」
「他人が首を突っ込まないでよ!早くあの子を返して!!」
シドニーから手紙を預かってる……そう言おうとした矢先に怒鳴り散らされて続ける言葉を忘れちまった。
「あ、あのなぁ、俺は」
「この誘拐犯!あの子は私の子なの!ちょっと留守にしてただけなのに、勝手になんなの!?警察に言うわよ!!」
「落ち着いてくれ」
まともに話が出来そうにない。だがここは中学校の目の前だ。周囲の視線が俺たちに突き刺さる。
「ここじゃ目立つ。お互いの為に移動しよう」
「……」
「アンタの|育児放棄《ネグレクト》も把握してる。本当に警察が来たら、困るのはお互い様だろ」
そうして俺たちは無言のままゲートの近くにあるコーヒースタンドへやって来た。別に秀でてコーヒーが美味いわけでも無いんだが、なんとなく俺は誰かと会話をするというとこの店を選びがちだ。
その事を|アイツ《ショット》は知らないと思っていたんだが……誰かから聞いたのか、本当にたまたまか、俺たちが「じゃあ改めて話そうか」とコーヒーを注文し終えて店の前のテラスに出たタイミングで唐突に現れて、同じテーブルにバンと手をついた。
「……っ!?」
ジェニーはその正体にすぐ気が付いたみたいで、悲鳴を上げかけた。
「騒がないでくれ!」
慌てて制止してショットへ向き直る。
「おい馬鹿!何やってんだ|こんなトコ《ゲートの内側》でっ……!」
「ちゃた、きのう変だったから」
「心配しなくていいから、早く帰るぞ」
慌てて腕を引いてもショットは動かなかった。混乱してるわけでも興奮してるわけでもないのに俺の言う事を素直に聞かないなんて珍しくて驚く。
「ショット……?」
振り返るとジェニーに対峙してて、何をするつもりかと一瞬慌てたけど、落ち着いた様子で「シドはうちのこだから」とハッキリと言い放った。
「お、おい」
「うちでそだてます」
別に銃を向けられてるわけでもないのに、ジェニーは怯えた様子で静かに何度も頷いた。殺人鬼に息子が攫われた……なんて警察に飛び込まれたらたまったモンじゃないなと思ったが、もうやっちまったもんは仕方がない。
「あー……そういう事なんで、シドが独り立ちして、自分でアンタとの事をどうするのか決断するまではうちで預かります」
投げやりにそう伝えつつ、シドニーの書いた手紙を差し出せば引ったくられた。
「わ、分かったわよ!あんなクソガキくらい……あんたたちにくれてやる!!」
「言うに事欠いてそれか……」
早足で立ち去る背中を睨みつけて、女だろうが一発殴ってやれば良かったと思った。
***
ショットとアパートまで帰って来て、むしゃくしゃした気分で昼飯のパンを食う。
「時々お前って、どこで覚えてくんの?ってコト喋るよな」
「なに」
「さっきの『うちのこ』とか『うちで育てます』とか」
「ロアが言う」
「おい、おい怖い話すんなよ、苦手なんだよ」
いつも通りに笑ったつもりだったけど、困ったような顔をしたショットに抱きしめられて驚いた。
「なん……どうした?」
「ちゃた、おこってる……おれが行ったから?」
「……っ違う、それは違うから!」
悲しそうな声音に慌てて背中に手を回して撫でる。
「腹が立ったんだ、あの身勝手な女に……お前に対して怒ってんじゃねーよ」
「……」
「ごめんな、嫌だよな」
お前のせいじゃないのに、ずっと怒った顔しててごめんな、ともう一度言えばショットはおずおずと体を離して不安そうに見つめてきた。
「キスしていい?」
「いいよ」
心配させて、不安にさせて、悪かったな……と首に腕を回してキスに応える。そしたら苛立ちに加えて昨晩我慢した分のムラムラが急激に舞い戻ってくるのを感じた。
「ちゃた……?」
「あー……悪い、こんな……お前が不安そうにしてんのに」
落ち着かせてくる、と便所に向かいかけるとその手を取られた。
***
帰ってきてそのまま"準備"もしてない俺たちは一緒にシャワーを浴びながら互いに触れた。
「ん、ん……もうちょい、ゆっくり……」
「こう?」
「はぁ、あっ」
最近の俺はショットに触られてるとすぐ堪んなくなっちまうから、その手を掴んで一旦離させる。
「ちゃた?」
「イッたら……疲れちまうから……」
若いお前とは違うんだよ、と言いながらショットの胸元にキスをして、舌を這わしながら床に膝をついた。
「ん……ぅ」
「はぁっ、ちゃた……っ」
まだ多少持ち上がってる程度のそれを掴んで丁寧に舐める。昨日してやれなかった分も可愛がってやりたいと思いながら。
「ちゃた、う……きもちい……」
手の中でどんどん太くなってくのが分かって嬉しい。今更だけど、コイツ、俺に欲情してんだよな……。
「んっ、ん」
口を大きく開けてすっかり大きくなったモンを迎え入れると待ちきれないようにグッと突き入れられた。
「ん、ぐ……っ、う……」
でもグイグイ押されても角度的に上手く奥まで飲み込めなくて、以前のショットなら無遠慮に引き倒されてたハズだが、俺が苦しんでるのを見てすぐ動きを止めた。
「っぷぁ、あ……っわり、うまくできな」
「ちゃた」
もう一度と口を近付けたが腕を掴んで立たされる。
「ぉわっ……どうした、良くなかったか?」
「んん、きもちかった」
「あ……っはぁ、あっショット……っ」
そのままショットは掴んだ俺の左手の指や甲に甘えるように噛みついてきて、お互いのモノを合わせるように腰を擦り付けてきた。
壁に追いやられて背中が一瞬冷たかったけど、喰らいつくようにキスされて一緒に|扱《しご》かれて、すぐそれどころじゃなくなった。
「んっ!んん……っふう、ぅ」
「ちゃた、きもちい?」
「ああ、きもち……あ、すぐいきそ……っ」
立ったまま全身に快感が駆け巡って仰け反り、思わず爪先立ちになる。覆い被さるように首筋に噛みつかれて、ショットの背中に腕を回した。
「はっぁ、あっ!あ、くっ……」
ショットもイキそうなのか、首に歯が食い込む。
「ふっ……ふぅ……っ」
「遠慮、すんなっ……思い、きり……噛んでい、から」
グルルと少しだけ唸る声が耳元で聞こえて、ああこいつも気持ちいいんだなって思うと下腹部にズンときて歯止めも効かずその手の中に吐き出しちまった。
「あ、ぁあっ、はぁ……っクソ」
コイツより後にって思ってんのに。でもそのすぐ後にショットの体もビクッと震えて、腹にぬるい精液がかかる。
「はぁ……、はぁ、ちゃた」
「んん」
腹をモゾモゾ触られてると思って視線を落とすと、お互いのソレをショットが指で絡めてた。
「なにして……」
「くち、あけて」
「あ、ちょっ」
片手で顎を押さえられて、精液のついた指を突っ込まれた。ショットのはともかく自分のは舐めたくない……と思いつつキスされて舌を絡められて、もういいか、単なるタンパク質だと思うことにした。
「ちゃた……もうおこってない?」
「すっかり忘れちまったよ」
風邪ひくから、とサッと汚れたところを流してから脱衣所に出てタオルを巻きつけてやると嬉しそうにキスしてきたから、好きなようにさせながら体を拭いてやった。
「お前がいて、シドもいて、みんなで暮らせて……不機嫌にしてる時間が勿体ねえよな」
あんな女のことなんか忘れちまおう……と言いたいとこだが、それでもやっぱり、シドニーにとっては唯一の肉親なんだ。
今日あったことの全ては伝えず、成人するまでは俺たちの庇護下にいてくれと話すに留めよう。俺はそれ以上、踏み込めはしない。もどかしいけど……。
左手についた噛み痕が目に入ると少しだけ気持ちがホッとするような気がした。今も|M《マゾ》になったつもりはねえけど、これもショットとの繋がりだとか、あいつなりの愛情表現かと思えば、まあ悪くないって思えちまうんだから仕方がない。
「……シドを迎えに行ってくるよ。今日の晩メシは豪華にするからな」
「ん」
眠そうなショットをベッドに寝かせて、その頬にキスすると部屋の電気を落としておいた。
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