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第56話 親しき仲にも礼儀あり ※R18
【親しき仲にも礼儀あり】
――無性にムラムラする。
朝からシドニーを送った帰り道、コインランドリーで洗濯を済ませて帰路を歩きながらそんな事を悶々と考えた。
あいつとそういう行為に及んだのは確か先々週くらいか……俺がやけどをした後に仲直りと称して抱き合ったのが最後だ。
25だろ?真っ盛りなハズだろ?ほとんど毎日のように同じベッドで寝てて、2週間なにもナシってありえんのか?やっぱ"あの事件"から調子狂ってんのかな。あの事件の後は3週間くらいパッタリで、割と本気で不安になった。
理由はどうあれ、俺は健全な成人男性なんだから、ンな頻度で耐えられるワケがねえだろ。
「んー……」
もちろん、ヤリたいなら俺から誘ったっていいんだけどさ。なんていうか、あいつが俺に好きだとか言い始めた頃にこっちから誘って|悉《ことごと》く空振りした思い出が蘇っちまって。
つまりビビってんだよな。誘いを断られるってのはめちゃくちゃ自信なくす出来事なんだよ……。いや、俺だって断る日はあるんだけど。悪いとは思ってる。
「……」
とりあえず、虚しくセルフで抜くか。
***
シドニーを迎えに行くまで余裕があるし、そんなワケで俺は昼間っから自分の寝室で"コト"に勤しんでた。ショットは昨日からどっか行ってるし。
「はっ、はぁ……う……っくぅ……」
でも完全に油断してたその時、不意に扉が開かれた。
「ちゃた?」
「うわーっ!!」
「ちゃたなにしてる」
せっかくもうすぐってトコだったのに。まさかこんなタイミングで帰ってくるとは。つい夢中になって帰ってきた物音に気付かなかったらしい。
「なにしてる?」
「……っ見りゃわかんだろ!抜いてんだよ、出てけよ!」
出て行けっつったのに、ショットは当然のような顔で部屋に入ってこっちに近寄って来る。
「出てけ!」
「なんで」
「恥ずかしいから!」
「もうおれちゃたぜんぶ見た」
「全部見られた仲でも見られたくない事はあんの!」
「なんで!」
「これは完全なプライベートタイムなんだよ!」
「わかんない!」
「出てけ!!」
すっかり気の削がれた可愛いムスコは可哀想にションボリしちまって、俺は吐き出せなかった欲求不満をぶつけるように馬鹿の頭をスパンと叩いた。
てか、俺が何してるのか分からないってことはコイツ、やっぱヤッてない間に自分で処理したりしてないって事だよな。
「なんでおこる」
「あーもー落ち込むなよ……俺、今すげー間抜けな状態だから」
全然出て行かないショットに笑っちまいながらとりあえず下着とズボンを拾い上げようと手を伸ばす。
「ちゃた……」
「なんだよ、お前ぜんっぜん出て行かないじゃん」
俺が笑ったから安心したのか、少しずつにじり寄って来るので「もういいよ」と言えば抱きつかれた。
「ちゃたなにしてた?」
「ムラムラしたから抜いてたんだよ」
「なに」
「一人でヤッてたの!」
膝立ちになって下着を履こうとしたら唐突にそれを奪われて驚く。
「おい返せ」
「これちゃたのちょーだい」
「何を欲しがってんだテメーは!おいおい嗅ぐな!!」
今朝履き替えたからそんなに臭くないとは思うが、自分のパンツを嗅がれて良い気分のする人間はいないだろう。いないよな。いない。
「おい……お、わっ」
奪い返そうとしたらその手を掴まれてじっと見つめられた。
「ショット?」
よくわからねぇけど、どうやら俺のニオイで興奮した……のか?視線を落とすと明らかにズボンが膨らんでやがる。
「なんだよ、お前ってどこにスイッチあんの?」
まあいいか、コイツがその気になったなら俺も願ったり叶ったり。反対にちょっと俺の気分は萎えてるけど、なんとか盛り上げよう。
俺の下着を返すつもりは無さそうだからもう好きにしろよと投げやりに言ってショットのズボンに手を伸ばした。
「ちゃたしてたのみたい」
「はあ?」
「みせて」
まさか、俺がオナってんのを見たいって言ってんのかコイツは?俺のパンツ嗅ぎながら?
「何バカな事を言ってんだお前は?」
引き続きショットのズボンのジッパーに手を伸ばしたが問答無用で抱え上げられて、向かい合わせになるように座らされた。
「みたい」
「……まじ?」
「まじ」
こんな状況で勃たせんのも一苦労だったが、かつてない圧に負けて俺は何をやってんだと思いながらもブツを|扱《しご》く。
「はっ、はぁ……、なあ、そんな見んなってば」
穴が開くんじゃねえかって思うくらい見つめられて、羞恥でまた萎えかける。
「見てんなら触ってくれよ……っ」
コイツの方がめちゃくちゃに興奮してるクセに、一切触ってこない。相変わらず手には俺の下着を掴んだまま、ふぅふぅと鼻息を荒くしてる。
「あ、くっ……はぁっ、なあって……」
「だめ」
文句を言ってても仕方がねえ。我慢できなくなるくらい、コイツをその気にさせるしか。せめて俺ももっと入り込めたら良いんだけど……。
「はぁ、分かったよ、じゃあ俺には触らなくていいから……お前もやれよ」
キツいんだろ、お前も。そう言えば思ったより素直に前を寛がせてギンギンになってるブツを取り出す。向き合って自慰を見せ合うって、それこそ何のプレイなんだよ。
「んん」
「へえ、そこが好きなのか?」
もどかしそうに自分のを弄るショットの様子を見てたらようやく俺もちょっと気分が上がってきた。
「ちゃた、ちゃた……っおれ……」
「っん、ふ……ふぅっ……」
コイツって、これから一人でしたりする時があるとしたらオカズも俺になんのかな……そうだよな、俺しか知らねぇんだし。俺は普段一人で処理する時はなんとなく女体を思い浮かべちまうんだけど。
「はぁ……っ、ショット、気持ちいいか?」
「ん、ちゃたは?」
「やばい、意外と……」
視線を上げるといつの間にか手に持ってた俺の下着をまた嗅いでやがって、でも今は俺もスイッチが入ってるから、そんなショットの姿にまで興奮できちまう。
目が合うとようやくショットは手に持ったモンを放り投げて、俺の頭を掴んでキスしてきた。俺も応えるように舌を絡めながら手を動かす。
「なあっ……このまま終わんのか?それとも」
「?」
「"入りたい"のか?俺ン中……」
前に言われた言葉を借りて挑発してみると早速押し倒されそうになって、ヤリ部屋でちょっと待ってろと立ち上がった。
「用意してくるから、良い子にしてろ」
とんだ変態じみた前戯に我ながら呆れつつ、一旦落ち着かせて準備をする。まあ世の中には野外フェラを楽しんでからホテルに行ったり|スワッピング《パートナー交換》してから更に本番をするような"上級者"たちもまだまだいるわけだし、俺たちのやってる事くらい至ってノーマルの範囲内だよな。
「……ノーマルではないか。男同士の時点で」
いや、そこを今更気にする必要あるか?と思いながらヤリ部屋に行くとショットはご機嫌そうに銃の手入れをしてた。
「さて」
ベッドに乗っかってその頬にキスをするとサイドボードに銃を置いてすぐ抱きしめられる。
「仕切り直すか。ノーマルなプレイで」
「なに」
シャツを引っ張って脱がせると自主的にズボンも脱ぎ始めたから、これってほんと大した成長だよな。
ようやくお互いに触れ合って、すぐにデカくなったショットのモンにゴムとローションを着けさせると背を向けてうつ伏せになる。
「ちゃた、こっち」
「え?っうわ」
でもひっくり返されて、正常位で挿入された。今回はしっかり準備しておいたから、久々だけど抵抗もなく簡単に先が入り込んでくる。
「あ、あっ、ぅあ」
「ふ……っ」
「あっ、あ」
久しぶりに感じる腹の奥を押し広げられる感覚に足が勝手にビクビク痙攣して、不意に掴まれたかと思うとガバッと開かされた。
「待っ!あ……ぁあっ!」
体重をかけて更に深くまで侵される。
「う……ちゃた、せまい」
「はっ、あっ、わり……力、抜けね……」
必死でふぅふぅ息を整えてると頬にキスされて、指を絡められた。こんな風に優しく抱かれると安心するのと同時に、あんま慣れてないからすげぇ恥ずかしくなる。
「あ……う、ん……」
「へいき?」
「ん、気持ち、い」
俺の反応を確認するようにゆっくり揺すられて、コイツは満足できてんのかなって心配になってきた。別に前後不覚になるくらい激しくされんのが好きってわけじゃ全くないんだけど。
「ショット、い……からっ、好きに、動けよ……っ」
「いい。ちゃたがきもちいのうれしい」
そんなん、俺だって一緒だっつーのに。
「ぅあ、あっあ……!」
「ちゃた、もっと声ききたい」
「っんぅ……んっ、あ!」
大切そうに触れられて、いつもよりずっと穏やかなのに声が勝手に出て止まらないくらい気持ちよくて。
「シュート、あっ、きもちい、きもち、いいっ」
「うん」
本当に今日はそのまま俺がイくまでとにかく丁寧に大事に抱かれて……こういう事をする関係になってからもうすぐ1年経つ今更、俺たちは流血も失神もしない至って健全なノーマルプレイを経験する事になったのだった。
***
そろそろシドニーを迎えに行く準備を始めねぇとな……と思ってたら「なにこれ」と背後から声が聞こえたので視線を向けた。
「ん?ああちょっと前に|首領《ドン》に渡されたんだよ。助けてって伝えるボタンなんだ」
ベッド脇の壁に貼り付けておいたそれは緊急信号の発信が出来るボタンだった。
「こんなモン使わねぇでいれたらそれが一番なんだけどさ」
ショットが無意識の時に動き回ったり、凶暴化してしまう時がある事を首領も把握していた。もしセーフワードも効かず、本当に手もつけられないような危険な状況になっちまったら……これを押せばあのファミリーのとこにSOSが送られる事になっている。
「やっぱ設置しとくならこの部屋かなって……」
もちろん|それ《暴走》以外にも緊急事態が起きれば遠慮なく押せと言われて、有り難く受け取っておいた。
「お前もさ、俺のこと傷つけたくねえだろ?」
「……うん」
「でも、もしお前が上手く自分をコントロール出来なくなって本当に危なくなっちまった時はこれで対処な」
なんとなくシュンとしているショットの気分が良くならねえかなとなるべく明るく話してみる。
「ほら、ウチにはシドだっているし、強盗対策も兼ねてな!親として安全策は用意しておかねぇと」
「……」
でもダメだったようで、しょぼ……と下を向いちまった。
「ショット、あのな、これはあくまで……」
「おれ、しってる」
「ん?」
「ねてるとき、うごくこと」
意識のない時に自分が動いている自覚は既になんとなくあったらしい。そりゃそうか、気がつくと全然違う場所にいたりするんだから、さすがのコイツでも分かってたはずだ。
「ちゃた、いっぱいケガさせた……おれが」
その手が俺の右鎖骨に触れる。一緒に俺の実家に行った時、色んなトラウマが蘇ったストレスのせいか凶暴化させちまって、噛み砕かれたんだった。
あの時のショットは完全な無意識では無かったけど、やっぱり本人の記憶は曖昧になってたみたいで、後から自分がやったって事に気付いたらしい。
「こン時は俺も悪かったんだよ、お前にたくさん嫌な思いさせちまって……」
「……」
「お前だけのせいじゃない。わかるか?」
自分なりに調べてみたけど、夢遊病は精神的なストレスが引き鉄になってる場合が多いらしい。つまり一緒に生きるって決めて、面倒を見ている俺にもその責任の一端はあるって事だ。
こんな風に落ち込ませない為にも、いざとなればこのボタンは遠慮なくキチンと使おうと思う。
「な。これはお前と一緒にいるためのモノだから」
「ん」
でもこれからずっと今日みたいな、文字通り"愛し合う"だとか"確認し合う"ようなセックスが出来るなら……こんなモンはきっと永遠に使わなくて済む。そう思った。
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