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第77話 冷たくするなんてできねぇよ 3

【冷たくするなんてできねぇよ 3】  何か用を頼むことで気を逸らせて分離不安を治していこうと取り組み始めてしばらく経ち、最近のショットは俺が家にいるとずっと後追いしてるものの、自主的に外へ出て行く分には平気になった。元々は外が好きみたいだから、顔色も良くなった感じがするし、ひと安心だ。  なんとなくだけど、秋が来る前に調子を取り戻せてきて良かったなと思う。アイツが落ち込んだり本調子じゃないと、マウロアに申し訳が立たない気がして。  それでも帰って来た時に俺がいないとふと不安が舞い戻ってくるみたいだから、帰って来そうな時間帯はなるべく在宅するように気をつけている。  そんなある日、家で洗濯物を整理してるとショットが帰って来た。今日は怪我してなさそうだな。 「シドは?」 「先週からサマーキャンプに行ってんだ。サマーキャンプ。言ったろ?忘れたか?」 「……」  サマーキャンプが何なのかは多分あんま分かってなさそうだけど、どこかへ出かけてる事はわかったらしい。 「もうすぐ帰ってくる」 「……」  帰ってくる。もう一度そう言うと何かを真剣に考えているようだった。どこかへ何日も出かける事があっても、ここに帰ってくる。それが家族だから。 「シドニーの家はここだから、帰ってくるよ」 「……うん」  腹減ってるか?と聞いたが返事はなく、黙ったままフラフラとシャワーしに行っちまった。多分ありゃ何かを考えてるな。知恵熱でも出なきゃいいけど。  ***  一緒にベッドに入ると、さも当然のように服に手を突っ込まれて笑う。なんとなく予感がしてたから準備しておいて正解だったな。  それに、今夜はシドニーのいない最後の夜だし、もしそうならなかったとしても、たまには俺の方から誘ってみるか……と思ってた所だ。 「なあ、俺さ……」  首に吸い付いてくるショットの頭を撫でながら話しかけた。 「っん……俺、ずっと前にさ、お前が」  スルスルと服を捲り上げられて素直に脱がされながら話し続ける。 「俺が家にいつもいる事……当たり前じゃないんだぞって、分かればいいと思ったんだ」  あの頃、コイツがあんまり鈍いから焦れて、腹が立って、俺の存在をもっと有り難く思えばいいって……リドルの家に転がり込んだりした。 「でも、今は逆になっちまった」  頬に両手を当てると「邪魔するな」と言いたげに睨まれたから、笑いながら体を起こしてキスをした。 「……なあ」 「なに」  わざと音を立てながら唇を離す。 「俺がここにいる事……当たり前なんだからな」  もう一度引き寄せると今度は噛み付くように口を覆われて、ざらりと唇を舐められた。 「んっ、ん……ぁ」  舌で口をこじ開けられて入り込まれる。もう少し話したかったけど、既にショットは完全に"その気"で抑えが効かないって感じだ。 「ショット」 「なに」  それでも俺がしつこく話しかけるから少し苛ついたように押し倒される。 「ショット、好きだよ」 「……」  あんまり俺の方からこんな風にシラフで好きだなんて言ったことないから、ちょっとビックリしたみたいに見つめられた。 「好きだ。お前の隣を離れないから」 「……ん」  もう一度言ってみると更に苛ついたような声で返事されたけど、これは怒ってるんじゃなさそうだな。 「ちゃた」 「ん、うん」  我慢できないって感じで背中に腕が回されて頬を舐められる。 「ちゃたろ……」  いつもより低い声で何度も呼ばれて背筋がゾクゾクした。  ***  グイッと後ろから頬に手を添えるように顔を支えられる感じがして、しばらく気を失っていた事に遅れて気付く。 「っあ、う……?」 「ちゃた、ちゃんと息して」  四つん這いで繋がったままの下腹部が刺激を求めてジンと疼いたけどショットはそれどころじゃない様子で、めちゃくちゃ心配そうに抱きついてきた。 「はっ……あ、俺……息、止めてたか……?」 「ん」  確かに酸欠になってたみたいで目の前がクラクラする。前にも、乱暴にされてる訳でもねえのにこうして失神しちまった事があったな。 「ちゃた、|しんどい《レッド》?やめる?」  ハラの中に押し沈められてたモンがゆっくり抜けてって、労るように頭を撫でられる。 「いや、違うんだ!その、最近……なんか、すげー気持ち良くて……」  コイツに抱かれるコトに体が慣れてきたのか、この頃は苦しいって思う瞬間がほとんどなくなって、どうにかなりそうなくらい、ただただ気持ち良くて……。  息を殺してないと、バカみたいに感じてる声が出ちまいそうだから、恥ずかしくてつい。 「心配させて悪い。大丈夫だから」 「……」  俺の様子を見ながらじゃないと心配になっちまったのか、仰向けに転がされて足を開く。 「あ……、はぁ、あ……」  そのまま抱き込むような格好でまた挿入されて、俺もその背中にしがみついた。 「へいき?」 「ん、ん」 「きもちい?」 「はぁっ……はぁ、気持ち、いいよ」  今度は息を詰めすぎないように気をつけながら緩いピストンを受け入れる。接合部からニチャニチャと生々しい水音が聞こえて照れ臭い。 「あっ、あ!あっ、ちょっと、待っ……」 「いたい?」 「痛くは……っ、あ、あっ」  息をしようとすると勝手に甘えたような上擦った声が漏れる。俺はそれが恥ずかしいんだけど、俺の声が聞こえてると安心するのかショットは止まりそうにない。 「あっ、はあ、あっ!待……待てって……!」 「なに」  止まるどころか激しさを増して揺さぶられる。 「ん、うっ……あっ、あっ!変、な声、出るっ……」 「いい」 「あ、ぅあ、あ……あっ」  ぎゅうぎゅうと抱きしめられて背中が浮く。首が反って息が苦しいのも今は興奮材料にしかならなくて、大声を出したくないのに止められない。 「あっ、あ!ぁあっ!ま、待て、待っ……!あっ声、が……」 「いい。もっとききたい」  もっと聞かせて、と耳元で囁かれて理性の擦り切れちまってる俺は後で思い出して頭を抱えるくらい、みっともなくひんひん喘がされるハメになった。  ***  汗を流して寝室のベッドへ倒れ込むとショットも隣に寝転がる。喉がカラカラだ。 「……なあ、水……飲みたい」 「ん」  ふと、俺から離れるんじゃなくてコイツから離れさせてみるのはどうかなと思ってそう言ってみると思ったよりあっさりと部屋を出て水を取りに行ってくれた。 「みず」 「ありがとな」  平気そうで安心する。その姿を見てると、ちゃんとまた元通りになれると確信して気が楽になった。持ってきてくれた水を受け取ろうと体を起こしたが何故かヒョイと避けられる。 「ん?」 「ん」  水を口に含んで近寄ってくるから「おいやめろ、自分で飲む!」と言ったが問答無用でキスされた。 「……あっ」  ほとんど眠りかけながら、ふと明日の用事を思い出して隣のショットに話しかけた。 「明日はシドニーを迎えに行くから、夕方まで俺いないけど……大丈夫だよな?お前もどっか行ってるよな」 「ん……なに」  壁の時計を指さして「明日、4時までには帰る」と言えばしばらく考えてからコクリと頷いてくれた。 「シド帰ってくる?」 「そうだよ、ここが俺たちの家なんだから。さっきも言ったろ?俺もシドも、しばらくどっか行ってたとしても、そのうち家に帰ってくるんだ」 「……」 「お前もそうだろ?」 「……うん」  眠そうなショットの頭を撫でて頬にキスすると抱きつかれたから、俺たちはくっついたまま眠った。  ***  一時はいったいどうなる事かと思ったが、それから更に数日が経てばショットは家の中で俺の姿が見えなくても平気になった。  毎日たくさん話して不安な気持ちを聞いてやって、置いて出かける時はどれくらいで戻るかしっかり説明して、調子の悪そうな時は俺のニオイのするモンを持たせてやると取り乱さないで済むようになっていった。  時計の見方を教えておいて良かったと心底思う。過去の自分を大いに褒めたい。  めちゃくちゃに甘い自覚はある。オーサーには「厳しく接してさっさと慣れさせろ」と言われたが、だから俺にそれが出来るわけねえんだって……。もういいんだ。コイツも俺も、ゆっくりでいい。

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