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第86話 何があっても離さない 2 ※R18

【何があっても離さない 2】  目の前がグラグラする。血が足りてない感じがする。殴られはしたけど、今日はそんなに出血はしてないのに、なんでだ……。 「はっ、はぁっ、はぁっ」  もう身体中が痛くて、自分の状態が分からない。ベッドの上でズボンをズラされた間抜けな状態のまま、息をするので精一杯だ。  指一本動かせずにいると背後でジジ……とジッパーを下ろす音がして、それと同時にケツにぬるりとした液体がかかった。血か唾液だろう。こうなっちまえば、どうせどっちも似たようなモンだ。 「う……っ」  無理やり指を突っ込まれてグイグイ広げられる。 「あ、あっ……ぁ」  腹から押し出されて息が漏れるのと同時に口から血が出た。喉の中が切れちまったかな。呑気にそんな事を考えてると案の定、大して慣らしもせず無理やり押し広げながら突っ込まれた。 「うっ、ぐっう、ぅ」  ふうふうと苛立った息遣いが聞こえて、股関節が外れそうなくらい滅茶苦茶に犯される。さっき服を破かれて引っ掻かれた時に出来た背中の傷にまた爪を立てられて激痛が走った。 「は……っはぁっあ、あっ」  痛い、苦しい、止まれって叫びたいけど、息をするだけでも体の内側がズキズキ痛くて、ただ弱々しい声が情けなく漏れるだけだ。 「シュ、ト……はっ、あ、止ま……」  いつか「その調子で許してたら近々まじで殺されっぞ」ってリドルに言われた事を思い出す。答えは今でも変わらない。「わかってるよ」だ。  そう。ンなコト全部わかって、コイツの隣にいる事を選んでんだ。今もこんな状況になったって、後悔なんかするはずも無い。 「あっ、あ、あっ」  むしろ今では"もしも俺が死ぬ時は、コイツに殺される時"だとすら思ってる。そもそも初対面のあの日、俺は死ぬところだったのをコイツに救われてんだ。だからそれでいい。  だけど、本当に自分の手で俺を殺しちまったら、ショットはきっとダメになっちまうって事も……イヤと言うほど分かってる。 「あ、う……あっ……はっ、あ」  俺はショットになら殺されたって構わないけど、でも、それと同時にできる事ならコイツより1日でも長生きしてやりたいとも思ってんだ。誰に聞かせても矛盾してるって言われるだろうけど、それが紛れもない俺の本心なんだよ。  一人にさせたくない。隣で生きるのは俺がいい。だから殺されるのは今じゃない。まだ死ねない。それに……。 「まだ……っ」  ――俺はまだ、お前の口から「幸せ」だって、一度も聞けてない。 「……っう……ぐっ、い、痛……」  肩が外れてる左腕を力任せに引いて仰向けにされて、足を肩に担がれるような格好で押し潰されながらまた挿入された。 「あっ、あ、あ」  こんな状況でも、いや……こんな状況だからこそなのか、俺のモンも勃ってて笑えてくる。コレが生存本能ってヤツか。 「はぁ……、あ……シュート」  その視線は俺の方を見ているが、俺を突き抜けてもっと遠くを見ているようで目線は交わらない。いったい何を見て、何を考えてるんだろうか。  大丈夫だ。怖がらなくていい。ここは安心できる場所だから。揺さぶられながらなんとか声を絞り出してそう繰り返す。 「……」 「シュート、っあ、く……っ、わか、るか」  聞こえてるだろうか。ふと思いついて、右手を伸ばしてその左耳を塞いだ。左手は動かないから、これが限界だけど……。 「大……丈夫、だ」  今、もしもコイツの中で何か"耐え難い辛い音"がリフレインしてるのだとしたら、それを止めてやりたいと思った。 「シュ……ト」  耳に触れても怒った様子はなく、ピタリと動きが止まった。声が届いたのか? 「っは、はぁ……」  少しでも目を閉じると意識が落ちそうになるが、なんとか気力だけで耐えた。グッと体重がかけられる感覚がしてショットの顔が近付く。そのまま唇を舐められて、薄く口を開くと舌が入り込んできた。 「……ん、ふ……」  俺の事が分かったんだろうか。ほとんど現状を理解はしてねえだろうが……纏う空気の刺々しさが|和《やわ》らいだ気がした。 「ん、ん」 「……ちゃた」  唇が離れてすぐ、ポツリと名前を呼ばれて驚く。正気に戻ったのか? 「シュート……俺、が……わかるか」 「……ん」  触れている俺の右手に甘えるようにスリ、と頬を擦り寄せる。それはさっきまでの激しさが夢かと思うほど幼い子供のような仕草で、これでもう大丈夫そうだな……とホッとした。  ***  少しだけ意識を手放していた気がして、ハッと横を見るとショットは俺の隣で丸くなってスウスウと穏やかな寝息を立ててた。その寝顔には苦痛や不安は無さそうだ。  なにはともあれ、まずは良かった。 「ふ……っ、うぐ……」  左腕は肩が抜けてるせいで動かない。なんとか右手だけで体を起こそうとしても全身がガクガク震えて一苦労だ。前に鎖骨を折られた時もこんな感じだった。懐かしい。 「ふぅ、くそ……っ」  顔も体もあちこち痛いが特に腹が痛い。何回もマジで蹴られたしな……あちこちいろんな骨が折れてる気もするけど、それでも人としての矜持でなんとかズラされたままのズボンだけは履き直す。ビリビリにされちまった服はもうどうでもいい。  ショットは着衣のままだったけど、元々血だらけだった上に俺の血も上塗りされてそりゃ酷い状態だ。今の俺に着替えさせてやるのは無理だが、せめて腕の傷の治療と、血で汚れてる顔や体を拭いてやるだけでもしたくてタオルを取りに行こうとヨロヨロしながら扉へ向かった。  ――あれ、腹の調子がおかしい。  そう思った瞬間に何かが喉の奥から迫り上がってきて、慌てて右手で口を押さえたけど、意思と関係なく大量の血が吐き出された。 「う、うぐっ……ぅぶ……っ」  ビチャビチャと満杯のグラスを倒しちまった時みたいな派手な水音がして、床に血溜まりが出来る。 「ふぅ……っう」  サーッと意識が急激に薄れるのが分かって、さすがにこれはまずったなと思うけど、もはや呻き声のひとつも出せずに自分の倒れる音を聞いた。

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