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家族編 第2話 お前もちゃたって呼ぶだろ
【お前もちゃたって呼ぶだろ】
◆本編81『退屈しのぎにちょうど良い』後日
ストリートキッズによる追い剥ぎに遭ってシュートと出会ってから、スラムの奥にあるバラック群……いわゆる|法外地区《ゲートの外》で路上生活を始めてもうすぐ半年くらいになる。それにしても寒さはキツかったけど、最近ようやく冬を越したなって感じがしてきた。
家のない生活ってどんなもんかと思ってたけど、これがなかなか悪くないのが不思議だ。働かず街をウロついて、腹が減ったら適当にメシを食って、夜になったらシュートの体温で暖をとって眠る。
アイツやたら暖かいんだよな。恒温動物かよ。そりゃ俺もだけど。かと思えば夏は夏で俺が暑さでダレててもケロッとしてるし。
「よお茶太郎、なにやってんだ?」
「よお、ガラクタ拾いに行くんだよ」
「お前ほんとそういうの好きな」
気が付けばここでの顔馴染みも増えてきた。金も家も服も学もねえけど、意外と関わってみると気はいい奴らが多い。もちろん気性の荒いやつも多いけど。
「シュートは?お前らちゃんとメシ食えてるか?」
「知らね、どっか行っちまった。食ってるよ」
最初は右も左もわかんねぇし、こんな危険な街で一人になンのが不安でひたすらシュートについて回ってたんだが、少しずつここの空気も掴めてきた。
だから、こうして日中は別行動をして日が落ちるくらいの時間になったら自然と合流して一緒に寝るのがこの頃の通例って感じだ。シュートなりに夜間は俺を一人にしないよう気にかけてくれてンのがなんとなく分かる。
アイツってバカだし粗雑だけど、根が優しいんだと思う……でも、それを誰も知らねえんだよな。
「よし、アイツがいねぇなら安心だな」
「そんな嫌ってやんなよ。アイツ大人しいやつだぜ」
「いきなり突き飛ばされて骨折られても気にしない奴が言う事の説得力はワケが違うな。シュートの話はどうでもいいよ。なあ、コレ直せるか?」
目の前に差し出されたのは古びた腕時計だった。
「んー難しいな……しばらく借りててもいいか?」
「ああ、どうせダメで元々だ。出来ればでいい」
俺はそれを預かって使えそうな工具を探しに"ガラクタ山"に向かった。
ここは謎の機械からバイクや車なんかまで色んなモンが捨てられてて、ガラクタを弄んのが好きな俺にとって割と楽しい場所だ。
「よっ……と」
壊れてるバイクを押し除けて地面にしゃがみ込みしばらく部品の生きてそうな時計を必死になって探してると背中に妙な圧を感じて振り返った。
「あれ?シュート?」
なんだよ見てたなら声かけろよ、と思ったけどコイツに「よお茶太郎」って呼びかけられる想像は全く出来ないな。
「どうした、ハラ減ったか?」
「……」
「あーダメだ、時計なんかねぇよクソッタレ。やめやめ」
ズボンについた砂埃を払いながら近寄って「ハラ減ったのか?」と再度話しかけるが返事はない。ま、コレも慣れたモンだ。
「なあ最近あの噴水広場の辺りに屋台が来てる時あンだよ、行ってみねえ?」
「……」
空いてる方の手で噴水広場の方を指差すけどそっちの方向じゃなくて俺の指先をじっと見つめてくる。コイツ、指差しわかんねーのか?手元のモンを指差してんのは見たコトある気がするけど……まあいいや。
持ってたボロを後ろ手に放り捨ててガシャガシャとガラクタ山を降りる。そのままシュートの横を通り過ぎて「おいさっさと行くぞ」と声をかけたら素直について来た。
***
噴水広場にはケバブとダンプリングの屋台が来てたから適当に買って待たせてる奴の所へ戻った。
「ショット、ほら」
目の前で呼んだがどっか遠くを見てるまま反応が無い。
「おいショット、こっち持てよ。両手いっぱいなんだからさ」
「?」
おれ?と言いたげに首を傾げるから頷く。
「そう。ショット。お前のことだよ、イヤか?」
「……」
隣に腰掛けて右手に持ってたケバブを差し出しても全く受け取る気が無さそうだから、仕方なく自分の分を横に置いてからその手を掴んで持たせてやる。
「お前だって、俺のコトちゃたって呼んだりちゃたろーって呼んだりするだろ?それと一緒だよ。あだ名ってやつ」
深い意味はねーからあんま考えんな。お前はショット。と笑えば「へへ」と返ってきた。なんだコイツ、笑ったりするのか。チラリと覗き見てみたけどいつも通りの無表情だった。
「意味わかってる?」
「……」
「ケバブうまいか?」
「……」
「どこ見てんだ?」
変な奴。俺もなんだかおかしくなってきて、からからと笑った。
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