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家族編 第4話 毎週末の学力テスト

【毎週末の学力テスト】 ◆本編69『生きていく為の力』後日  ご褒美を用意するから毎週末に学力テストをしようか、という話になったのはいいが、毎週末ってのは言いすぎたな。コイツの成長は本当にゆっくりだから、毎回同じような内容のテストにしかならない。 「月イチにすっか、テスト。いや、3ヶ月に一回でいいかもな」 「なに」  それにご褒美なんて言ったってただ"甘やかしてる"だけだ。それなら俺はいつだってコイツを甘やかしてやりたいと思ってんだから、ご褒美というか単なる日常でしかない。 「ご褒美の内容もなぁ……」 「?」  別にいいだろ、望んでんだから望んでるだけ甘やかしてやったって。誰に迷惑をかけるワケでもない……なんて思ってたが、この年の夏にショットの酷い分離不安が発症して、甘やかしまくってた事を反省させられるのはまた別の話だ。  相変わらず算数は優秀、文字は壊滅的。金の話なんかもしてみた事があったが、ボケーっとして聞いてんだか聞いてないんだか。 「……今日はおつかいでもしてみるか?」 「なに」  |こっち側《ゲートの外》には店らしい店はないが、路上で色んなモノを並べたり靴磨きをしたり散髪をしている、いわゆる露天商ってのはいくらでもいる。たまに屋台も来てるし。 「お前に出来ること増えたかなって確かめる方法は机の上でするお勉強ばっかじゃないんだ」  財布から適当に札を出してショットのポケットに突っ込みながら窓の所へ誘導する。 「じゃあ、こっから見えるあのオレンジの屋根の小屋の角曲がったとこ、何か売ってる人とかいるの覚えてるか?」 「……」 「よし、全然ダメそうだな」  それに外に出したら縄張りのパトロールに行っちまって夜まで帰ってこなくなるだろうから、とりあえず店の前までは付き添おう。 「出かける準備しろ」  もうそんなに寒くないから上着はなくてもいいか。さて行こうと思って足元を見ると何故かショットは裸足のままだったから「おい靴履けよ」と言えばモタモタと履いて戻ってきた。靴紐結べて偉いな。 「裸足で外行くつもりだったのか?」 「わすれてた」 「忘れてたのか。そんじゃ行くぞ、はじめてのおつかい」  他に忘れモンねえな?と言うと玄関を出る前にキスされた。どこで覚えてきた?  ***  露天商たちがいる通りに辿り着くと結構人がたくさんいて、ガラの悪い奴や明らかに薬物中毒っぽい奴も路上に座り込んでいる。 「おう茶太郎」 「よお」  顔見知りが声をかけてくれるが、今日はショットも一緒だから遠巻きだ。 「……」 「そんな心配すンなよ」  人が多い場所で俺と一緒にいるとあちこち気を配らないといけないのか、ショットはピリピリした空気を纏って周囲を警戒してる。 「ちゃた」 「分かったよ、早く帰ろうな」  イヤで仕方ないみたいだ。困ったな。 「よし、じゃあアレ買ってきてくれよ」 「なに」  適当な屋台を指差すが全く違う方を向いてるから頭を掴んで「あれ!」と教えた。 「ハラルフードの屋台みたいだ。チキンオーバーライスでも売ってんじゃないかな」  俺アレ好きなんだよ、ターメリックライスがさ……と話しながら屋台の近くまで一緒に歩く。 「さっきポケットに5ドル入れてやったろ?コレくださいって言って、それ渡せばいいから」  ショットは「ポケット……」と言いながらしばらくゴソゴソして、いつのか分からないクッキーを取り出した。 「なんだそりゃ。おい食うのかよ」  このズボンを洗ってやったのはいつが最後だったか……そんなに前じゃないハズだから大丈夫だとは思うけど。またリディアにもらったのかな。 「で、金は?」 「ない」 「落としちゃったのか?」  ここで押し問答しても仕方ねえから改めてよく探させるのは家に帰った後にするとして、俺は財布からまた5ドル札を出してその手に持たせた。 「ほら、あの人に『チキンください』って言ってな」 「……」 「どうした?」 「おれ……ちゃたつくるごはんがいい」  ワガママを言ってるつもりなのか、少し申し訳なさそうな雰囲気を|醸《かも》し出しながらそんな事を言われて笑っちまった。 「ちゃたのごはん」 「ンな可愛いこと言うなよ……もう帰ろうか」 「ん」  手を繋ぎたいような気持ちになったけど、人目があるから我慢した。いい時間だったからそのままゲートまで二人でシドニーのお迎えに行くと「とともいる!」と喜んでくれた。  ***  結局おつかいは出来なかったけど、まあいいや。ゆっくりでいいんだ。キッチンで作業しながら妙に大人しいなと思って覗くとショットはリビングの机に突っ伏して寝てた。 「ごめんな、疲れたよな」  寝室のサイドボードから耳栓を取ってきてやって頭をそっと撫でる。人の多い場所に俺と行くとコイツは必要以上に警戒するから疲れちまうみたいだ。次はやっぱりひとりで行かせよう。 「ん、ん……」  モゾモゾと俺の手を捕まえて、手のひらにキスされる。 「ショット、今日は頑張ってくれたから"ご褒美"やるよ」  だから早くメシ食おうなと誘えば嬉しそうに頷いてくれた。愛しい瞼にキスを落とす。 「シド、そろそろメシにしようか」 「はーい!」  学校での出来事を楽しそうに話してくれるシドニーの声をBGMに、俺の特製チキンオーバーライスを皆で食べた。

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