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家族編 第5話 なんなんだよ、暑いよ
【なんなんだよ、暑いよ】
◆本編89『もっとちかづきたい(前)』後日
「なんだ、今日も一緒に寝んの?」
「……」
「まあいいけど、あんまくっつくなよ」
寝苦しい時は俺のベッドに来ていいぞと言ってから、ほとんど毎晩コイツはここに来る。来ない夜はそもそもアパートに帰ってない事が多い。せっかく自分の部屋も用意してやったのに、いらなかったのか?俺はプライベートタイムってそんなに無くても平気なタイプだから、まあ別に構わないけど。
とはいえ一人の時間以上にそろそろ夏が近づいてきて暑さの方が限界だ。同じベッドにいてもいいけど、あんまくっつくなってば……と何度も押し退けるんだが、ふと目が覚めたらくっつかれてて汗だくになってる。
暑い。
「う……あち……」
暑すぎてふと目を覚ますとまだ日の出前だった。
「ったく」
水でも飲もうかと体を起こしたらショットの呼吸がおかしい事に気がついた。気のせいかと思ったけど、口元に耳を寄せてみるとやっぱり、吸う時に息の音に混ざってザラザラとした音が聞こえる。まさかこれって喘鳴か?それともただのイビキか?
気になってしばらく見てたけど、肩も動いてるし、やっぱり変だと思う。
「おい、おい大丈夫か」
「ん……」
心配になって揺さぶるとショットは鬱陶しそうに唸って目を開いた。
「起こして悪い、でもなんか……その、お前、大丈夫か?」
「?」
なんかフスフス言ってるし、まだその肩は呼吸に合わせて少し上下してるのに、本人は至ってケロリとしてやがる。
「苦しいワケじゃないのか?」
「なに」
やっぱイビキだったのかな。俺が首を傾げてると「いいから早く寝るぞ」とでも言いたげに抱きつかれたが、マジで暑い。
「なんなんだよ、暑いってば……もぉー勘弁してくれよ……」
腕の中から抜け出してベッドから起き上がるとショットも体を起こすから「まだ早いから寝とけば?」と言ったけどついて来た。
「……お前って割と寂しがりやなの?」
そう言って笑ったらガッと頭を掴まれた。
「いでで、痛いって。なんだよ」
まだ早朝だってのに落ち着きのねえやつ。起こしたのは俺だけどさ。
「ほらお前も水飲んどけ、家の中で熱中症になっちまう」
水分補給してからまたベッドに戻ると当然のようにくっつかれて、もう諦めた。そうして結局俺は毎晩のように暑さに魘されながら夏を乗り越えたのだった。
***
◆本編94『俺の情報は安くない』BBとの会話より
◆本編終了後 シュート29歳の年の夏
夜中、ふと目を覚ますと暑すぎて全身汗だくになってた。真っ暗だったからサイドボードにあるライトを弱くつける。
「まじで暑すぎ……」
この辺りはそんなに季節の変化が厳しくないから今まではアパートに空調がついてなくてもなんとかやってこれたんだけど、最近は異常気象ってヤツなのか、ちょっと危険を感じる日もある。ひとまず水でも飲もうと体を起こして、隣で寝てるショットは大丈夫かなって振り返った。
よく寝てるみたいだけど、寒暖差に強いコイツでもさすがに今夜は暑いのか額に汗が浮かんでる。拭いてやろうと近寄って、密かに呼吸音にザラザラとしたノイズが混ざってる事に気がついた。
――幼い頃に受けた外傷が原因で発声と呼吸に障害が残ってるみたいだ。
「……っ、ショット、ショット」
思わずその頬に右手を当てて何度も名前を呼んじまう。|BB《バイロン》には過剰に心配しなくていいって言われてるけど、その正体を知ってしまったらもう心配しないなんて無理だった。
「ショット、おい」
「……」
しばらく揺すっても一向に起きないから泣きそうになる。大丈夫、よく寝てるだけだ。分かってる。分かってるけど……。
「ショット、早く……早く起きてくれっ」
「う……んん」
小さく声が漏れて薄く瞼が開かれた。青緑色の瞳がチラリと見えて、一気に安堵する。
「はぁ……は……っ、ショット」
「ちゃた、なに……」
その胸元に頭を預けると背中に腕が回された。
「起こしてごめんな……なんでもないんだ」
「ちゃた、大丈夫?」
「……ごめん、もうちょいこうしててくれ……」
まだ動揺してて、気持ちが落ち着かない。抱きしめられながらショットの胸に耳を当てるとまだ息を吸う時の音にノイズが混じってる。でもやっぱり本人は全く気にしてなさそうだ。大丈夫、なんだよな……。
「はは、BBが俺に教えるかどうか悩んだワケだよな」
知らなかった頃は「こりゃイビキかな」なんてバカみてぇに呑気に構えてたくせに、知った途端コレだ。俺が自嘲的に笑うと突然グイッと顔面を掴まれた。
「いでで」
コイツって俺が笑うとなんか反応するよな。いつだったか……「ちゃたと話すのが楽しい」とか言い出したあの日も、シドニーと話しながらケラケラ笑ってる俺のことずっと見てた。
「なあ、お前って、俺の笑ってる顔が見たいの?」
「ん」
なんだよ、可愛い奴だな。
「はぁ……ビックリさせてごめんな。暑くてさ」
冷たいシャワーでも浴びてくるよ、と起き上がればショットは眠そうにしながらもついて来ようとする。
「まだ真夜中だから、寝とけ」
寝かしつけながら起こしちまったことを改めて謝れば頬にキスされた。
「いい。ちゃた、つらいとき……よんで」
「……ああ、ありがとう」
もう大丈夫だから心配すんなとキスし返せば、すぐに眠ったみたいだった。
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