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家族編 第7話 コイツの世話は俺には無理だ

【コイツの世話は俺には無理だ】 ◆本編92『家族で過ごせる夏休み』後日  バラック群の屋根の上で人々の様子を観察していると見覚えのある金髪が歩いていた。 「おい」  試しに真横にいなければ聞こえないハズの、独り言くらいの声量でボソリと言ってみたが、案の定シュートはくるりとこちらを向いた。 「なに」 「えー!ほんとよく聞こえてるよね!」  隣にいたリディアは感心したようにそう言って屋根から飛び降りる。 「こんにちはシュート!」 「……こんにちは」  馬鹿共が交流してる様子をしばらく眺めてたら、不意に二人が揃ってくるりと俺に視線を向けてきた。 「兄さん、あのね!」 「待て、騒ぐな。俺も降りる」  そう言うとリディアが俺を担ぎに戻ってきた。 「奴はなんだって?」 「あのね、シュート兄さんにお願い事があるみたい」  奴が俺に"お願い事"だと?珍しいな。  下に降りて対峙するとシュートは俺と話しやすくする為か地面に膝をつけてペタリと座り込んだ。それ自体は殊勝な心掛けだが、ズボンが汚れると茶太郎に怒られるぞ。 「で、いったい何だ」 「おれちゃたに言わないから」 「……」  出だしから既に意味が分からないが、とりあえず続きを促す。 「シドうれしいことしたい」 「……」 「……」  場に長い沈黙が流れ、リディアは「わあ」と感嘆の息を漏らし、何故かシュートはとても満足げにフスッと鼻を鳴らした。 「おいまさか、今……俺が発言するターンなのか?」 「そうだと思う!」 「お前、こいつの言いたい事が分かったか?」 「ぜーんぜん!」  |通訳者《茶太郎》を呼んできてくれと言いかけた所でシュートがパッと手を突き出してきた。 「だめ」 「ちゃたろーにはナイショにしたいみたい」  ああ「茶太郎に言わない」って、そういう意味か。 「ナイショでシドニーをよろこばせたいの?」 「ん」 「なんで分かるんだ、お前は」  宇宙人との会話は宇宙人に任せた方が良さそうだ。目線でそれを伝えると「私もシュートが言ってることあんまりわかんないよ」と言われた。 「俺よりは分かるだろう。あいにくコイツ相手では俺が身につけてきたあらゆる言語が全く役に立たないようだからな」  そうして俺たちは時間をかけてシュートの言いたい事を読み解いていった。  いったい何十分くらい掛かったのか、何度も脱線を繰り返しながらもなんとか理解できたのは、先日シドに俺が与えた中学の卒業祝いを見て、コイツも何か贈り物をして息子を喜ばせてやりたいと思った……という事だった。 「分かった。つまり、シドにサプライズで贈り物をする為の手伝いを俺に頼みたい……という解釈でいいんだな?」 「なに」 「シュートはシドニーになにかあげたいんだよね!」 「ん」  何故か俺の言葉はシュートに一切届かないようだ。もしかして、リディア並に語彙力を下げればいいのか? 「……茶太郎には秘密……言わないのがいいんだな」 「ん、言わない」  驚いた。なるほど、初めてまともに会話が成り立った。妙な感動を覚える。 「ちゃたろーとシドニーがビックリして、ありがとうって笑うのがいいんだよね!」 「ん」 「ほらほらぁ」  サプライズプレゼントがしたい……たったそれだけの話に何故ここまで時間がかかるのか。 「はあ……分かった。何かお前でも出来る仕事を探して、その対価として贈り物を用意してやる」 「?」 「もういい。俺に任せておけ」  この馬鹿でも出来る仕事を探す事にも骨が折れそうだが、|息子《シドニー》の為と言われては協力しない訳にはいかない。とはいえ窓拭き一回で叶えてやるつもりもない。俺は|あの親馬鹿《茶太郎》とは違って、コイツを甘やかすつもりはない。  つまり贈り物に見合うだけの量の労働をさせようとなると……数年がかりの長期戦になりそうだな。この貸しは高くつくぞ、茶太郎。  ***  ガタガタと廊下が騒がしくなって、ショットが帰ってきたんだと分かる。念のために腰のスタンガンに手を伸ばしつつ様子を見ていたらショットに続いてリディアとオーサーが入ってきた。 「おかえり。あれ、お前らも一緒なのか」 「あのね、シュートたくさんお話して疲れちゃったの」 「やれやれ……コイツの世話は俺には無理だ」  二人の事なんか忘れてるかのようにショットはドタドタと寝室に飛び込んでった。寝たか、耳栓を取りに行ったか、そのどっちもか。「寝るなら靴は脱げよ」と声をかけたが返事はない。 「連れて帰ってきてくれてありがとな」  メシでも食ってくか?と聞けばオーサーは返事もせずフー……と大きく息を|吐《つ》きながら無言で首を振る。なんかヤケに疲れてんな、コイツも。いったい三人で何してたんだ? 「ほら、じゃあ茶でも飲むか」 「ああ」  まさかかくれんぼをして遊んでたワケじゃねえだろうけど、何を聞いても何故か二人とも教えてくれなかった。

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