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家族編 第8話 ちゃたわらうのがいちばんすき

【ちゃたわらうのがいちばんすき】 ◆本編88『成長期って知ってるか』後日  今日はマウロアの12回目の命日だ。  10回目の一昨年は色んな事件の後だったから諸々の報告も兼ねて一緒に行ったし、去年は「自分だけが幸せになってもいいのか」って感じの事でショットが落ち込んでたから付き添って一緒に墓参りしたけど、今年もそんな風に一緒に行っていいのかわからなかったから、とりあえず先日の|首領《ドン》の命日に二人ともの墓参りをしておいた。  でもショットが当然のように出かける支度を済ませたあと「ちゃた」と呼ぶから、どうやら俺はマウロアの命日に一緒に墓参りに行く事をもう毎年の恒例行事と思って良いらしい。  なんか、ソレを許されるってのは……更にまた一歩、ショットの心の中に踏み入れさせてくれてるような気がして、嬉しい。 「じゃあ行くか」 「ん」  夏の暑さがマシになって、冬が来るよりはまだ早い、ちょうど1年で一番過ごしやすいような、そんな時期だ。 「寒くないか?」 「ん」  俺たちは揃ってアパートを出た。  ***  家に帰ってきてリビングでひと息ついてるとショットが水を持ってきてくれた。なんかこういう些細な気遣いがとてつもなく嬉しくなる時がある。 「……でも、シドニーが羨ましいよ」 「なに」 「俺もお前からのプレゼント欲しいなぁ」  半分本気、半分冗談のつもりで言ったんだけど、ショットが隣に座ってきて、思ったより真剣に見つめられて焦った。 「ちゃたなにほしい?」 「えっ」  そう言われると困ったな、欲しいモンか……。しばらく考えて、素直な気持ちを口にしてみた。 「やばい俺、お前が笑ってるのが一番嬉しいかも」  なんかすげー恥ずかしいコト言ってんな。この場面をオーサーに見られたら砂を吐かれそうだし、クレイグに見られたら頭を心配されそうだ。 「おれも」  そんな事を考えて上の空になってたら手に触れられてハッとした。 「ちゃたわらうのがいちばんすき」 「……」  恥ずかしくて顔が熱いんだけど、見つめられて目が逸らせない。そのまま手の甲にキスされてクラクラした。 「ずっとわらってて。おれのよこで」 「……プ、プロポーズ……?」  思わず頭の中が真っ白になって変なコト言っちまった。ショットはキョトンとした顔で首を傾げてる。 「なに」  そもそも、もう同じ名前になって家族だって呼び合ってるっつーのに、今更プロポーズもクソもあるかよ。 「わり、忘れろ」 「プロポーズなに」 「えーとだな」  熱い顔と緩む口元を右手で抑えながら左腕でショットを押し返す。照れがやばい。 「俺とずっと一緒にいてくださいって……家族になってくださいって、お願いする事だよ」 「……」  何か考えてるなと思ったら急に抱きしめられた。 「おれ、ちゃたにする。プロポーズ」 「ちょちょっ、ちょっと待て!」  そういう感じでするモンじゃねーんだ!と言ってもぎゅうぎゅうと抱き潰される。 「ぐええ」 「ちゃた、すき、すき……すき」  好き好きスイッチが入っちまったみたいだ。照れるし苦しいし、色んな意味で死にそう。苦しいって言ってんのに止まりそうにない。 「う、わっ!」  軽々と持ち上げられて寝室に連れ込まれた。  ベッドに落とされて押し倒される。 「ちょ、こらっ」 「ちゃた」  両手で顔を押さえつけられて額をくっつけたまま見つめられて、らしくもなくドキドキした。 「ちゃた、すき」 「お、俺も……好きだよ」  つい目線を逸らすと頬を舐められた。 「いっつも、あした……もっとすきになる」 「……うん」  俺だって毎日どんどん好きになってるよ。これ以上があるのかって思うのに、気持ちが膨らんで止まらないんだ。 「ちゃた、プロポーズ、どうする?」  腕を顔の前に交差して赤い顔を隠してたら問答無用で剥がされた。 「も、もうとっくに家族だろ、俺たちは」 「ちゃた、して、おねがい」  甘えた声を出して抱きつかれて、顔から火が出そうだ。 「……わかったよ、その……」  別に緊張してるワケじゃねえのに心臓がバクバクうるさくて飛び出しそうだった。押し倒された格好のまま、ショットの手を握って甲に口付けた。 「シュート、お、俺と……結婚してください」 「……けっこん」  こんなごっこ遊びで、何やってんだ俺は。バカかよ、せめてずっと一緒にいてくださいって言えばよかったじゃねえか。絶対に伝わってねーし。 「あの、あのな、結婚ってのは……」 「する」 「は、うわっ!」  またガバッと抱き込まれてシュートの温もりに包まれる。 「おれちゃたとけっこんする」 「な、なんで知ってんだよ、そんな言葉」  ただ言葉の音を真似して言ってるだけじゃない。これは意味を知ってる時の反応だ。 「シド言った。けっこんしたら、ほんとうの家族になる。それで、シドもほんとうの子どもになって、それで、おれたちはほんとうの家族だって」 「バカ、だから前から本当の家族だって言ってんだろ」 「でもおれしたかった。ちゃたとけっこん」  どうやってするのか分からなかったし、してもらえるか分からなくて聞くのが怖かった……って感じのことを言いやがるから、ゴツッと額を突き合わせた。結構痛かったんだけど、ショットはビクともしてない。 「バカ!するに決まってんだろ!」 「……うん」  青緑色の綺麗な目を見つめてたらみるみるうちに涙が溢れてきて、俺の頬にポタポタと落ちた。 「バカ、泣くなよ」 「うれしくて」 「笑ってくれ、なあ」  目尻にキスしてその涙を止めようとするけど、次から次へと流れてきて止まらない。なんでか俺まで泣けてきた。 「ちゃた……だいすき」 「俺も、愛してる」  それから俺たちはガキの口約束みたいに何度も「結婚しよう」って言い合って、泣きながら笑い合った。まじで今更何言ってんだと思うし恥ずかしかったけど、まさに" 有頂天"って言葉がピッタリ似合うくらい、嬉しくて幸せで堪らなかった。

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