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家族編 第9話 それ全部寝言なの?
【それ全部寝言なの?】
◆本編84『ケンカの後は仲直り』内の発言より
◆家族編05『なんなんだよ、暑いよ(前)』後日
そろそろ起きて溜まってる洗濯物を1階のコインランドリーに持って行こうと体を起こせば、肩に乗せられてたショットの腕がポスッとベッドに落ちた。もう一緒に寝るのが当たり前みたいになってんな。
「ん……ん、ちゃた」
「あ?」
珍しいな、大体昼くらいまで寝てることが多いのに。
「わり、起こしたか?」
「きょ……ごぁん、なに」
何か言ったけどよく聞き取れなかったから、眠そうに目を閉じたままのショットの口元に耳を近づけた。
「なんだって?」
「んん」
「ご飯って言ったか?」
「ん……」
今日のメシのコトか?別に決めてねえけど……。
「何か食いたいモンでもあるのか?」
「くいたい、もん」
「あ、こら悪い言葉遣いすンなよ」
なんとなくだけど、俺はコイツが粗雑な喋り方をするのが嫌だった。真似するから俺が言葉遣いを直すべきなんだけどな。長年のクセってのは簡単には消せないモンだ。
「食べたいもの、あるのか?」
「……へへ」
聞いてんのにふにゃふにゃ笑うから意味不明で俺もつられて笑っちまった。
「はは、お前って何が好きなんだよ?」
何を作っても残さず食べるけど、美味いも不味いも聞いたことがない。とりあえず麺類を食べるのは絶望的に下手だから世話しながら食べさせンのが面倒だし、またスープとパンでいいか。
「すき……すき、なに」
「ん?何が好きだって聞いたんだ」
「……なに」
もしかして"好き"って言葉の意味か?うーん、そういう概念を説明するのって難しいな。コイツの好きそうなモノが分かれば、コレが好きなんだろって教えてやれるけど。
「いったい何が好きなんだろうな、お前は」
"いや"は知ってるのにな。なんか……それって、悲しいな。
「よし、これから色んなモン食べさせて一緒に探してやるよ。お前の好きなモノ。それから好きなコトだって」
シーツの手触りは好きか?と聞いてみたら小さく唸る。意味わかってねえな。すぐにはわからねぇよな。
「じゃ、今日の昼メシは今までに作ったコトないメニューにするよ。な。お前はもうちょい寝てろ」
そう言い聞かせながら寒いかなと思ってシーツで|包《くる》んでやると「いや」と言いながら振り解かれた。暑かったか。
***
少し前にガラクタ山で拾ってきた壁掛け時計が電池さえ入れ替えれば動きそうだったから、これまた見つけてきた何かのリモコンから電池を入れ替えて、歪んでるフレームを叩いて整えてるとショットが起きてきた。
「あー悪い、うるさかったか?」
「……」
手元を覗き込んでくるから危ないぞと押し返す。一応動くようにはなったからコレでいいか。俺はそれを釘で壁に引っ掛けてキッチンへ向かった。
「さっき話してたから、今日の昼メシは珍しいモンにしてみたぞ」
ちょっと手間を掛けて作ったハンバーガーを持ってくるとキョトンとしてやがるから机に置いて「座れ」と向かい側のイスを引いてやった。
「……」
「ほらよ、髪の毛が金色の人間は全員ハンバーガーが好きだろ」
我ながら酷い偏見にカラカラと笑いながら手に持たせてやるとガブリと景気良くかぶりついた。
「あーあー下手だなぁ」
反対側からボロボロと溢れたレタスやトマトを拾って口元へ持っていってやると素直に食べる。
「なんつーか、動物ふれあい広場のエサやり体験って感じだな」
美味いか?と聞いても無反応で、ケチャップで口の周りが汚れてるから拭いてやった。
「もう食ったのか。お前の一口デケェなあ」
体もデカいもんな。と言うとケチャップのついた俺の指をペロリと舐めやがる。
「こらやめろよ。もっと食いたいのか?まだあるぞ」
好きかどうかはわからねえけど、少なくとも嫌いではなさそうだな。
「なあ好きってなんだってさっき聞いたろ?」
「……」
「なあって」
またボロボロこぼしながら食べるから拾って食わせてやる。
「なに」
「好きの意味、さっき聞いてきたろ」
しばらく目が合って沈黙が流れた。なんだこの間は?
「……しらない」
「知らないコトないだろ!珍しく割と会話したぞさっき」
そう言うとショットはしばらく固まった。
「お、なんだ、|now loading《読み込み中》か?」
「しらない」
「え、もしかしてあれ全部寝言だったのかよ?」
お前って寝てる間に喋ったり動いたりする人?と聞いたけど、もう興味が無くなったのかどっか出かけてっちまった。
「……いってらっしゃい」
閉じた扉になんとなく声をかけたけど、もちろん返事は無かった。
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