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家族編 第10話 おい、ズルすんなよ

【おい、ズルすんなよ】 ◆本編92『家族で過ごせる夏休み』内のトランプゲーム  その夜はシドニーの中学卒業祝いでリディアとオーサーが来てくれて皆で晩メシを食った。そして俺がひととおりの片付けを終えてリビングに行くと、誕生日席に座っていたシドニーが嬉しそうに駆け寄ってきた。 「ねえ今日はまだ寝なくてもいいでしょ!?みんなでトランプやりたい!」  せっかく人数いるんだもん!とお願いされて快く許可してやる。 「いいぞ」 「やったー!ねえねえトランプしよ!」  まんざらでも無さそうなオーサーに対してリディアとショットは2人揃ってキョトンとしている。 「トランプ?私やったことないよ」 「なに」  2人の質問に答えるより先にドタドタと自分の部屋からトランプを持ってきたシドニーは嬉しそうにそれを机に置いた。 「これがトランプ!いろんなゲームが出来るんだよ!」 「|ババ抜き《Old Maid》なら皆で出来るかな」  ルールの説明がてらテストプレイすれば良いかと思って適当に配るとリディアは少し悲しそうな顔をする。 「どうした?」 「やぶっちゃうもん、さわれないの」  今のリディアは力の制御も大分出来てるように見えるが、幼少期に色々やらかしてこういうモノには敏感なのかもな。 「兄さんとチームにする」 「俺と組んだらお前が口を挟む余地がないぞ。シュートと組め。お前たち2人でようやく半人前だろう」  失礼な事を言われているのだが気にした様子もなくリディアはイスを持ってきてショットの横に腰掛けた。 「よろしく!」 「……」  うるさいのが来たなと思ってそうなショットに少し笑って5人分に配ったカードのうち1人分を皆に分けた。 「じゃあ説明するけど、まず自分の手札の中からダブってるカードは全部捨てろ」 「あ!コレとコレじゃない?」 「ん」 「ちがうよ、ほらここ!数字ちゃんとみてよ」  前途多難だ。  ようやく手札作りが終わって、遊びながら説明していこうと俺の手札を隣にいるショットに差し出した。 「ほら、この中から1枚取れ」 「どれ」  グイッと手を引かれて俺の手札を強制的に開示させられる。左手で咄嗟に隠したが全然隠せなかった。 「こら人の手札は見ちゃダメなんだってば」  そう言うと今度は自分の手札から1枚抜き取って見せられた。 「おれこれほしい」 「自分のを見せんのもダメ」  押し返すとムッとした顔で「ちゃたなんでもダメ言う」と文句を言ってきた。なんで文句言われなきゃなんねーんだよ。 「いじわるだね」 「うっせーな!早く引けよ!」 「じゃこれ」 「わ!そろったよお」  ショットが引いたのはジョーカーだった。それをリディアが隣からJと合わせて場に捨てさせるからまたストップをかける。 「待て待て待て、これはダブってない。これはJokerでな、Jackとは別なんだ」 「おんなじJだもん!」 「違うんです。はい手札に戻せ」 「ちゃたなんでもダメ言う」 「いじわるだね」  俺が頭を抱えてるのをオーサーとシドニーがケタケタ笑いながら見てるから睨みつけた。 「はい、お前たちのターン終わり。んでオーサーに手札から1枚取らせろ」 「兄さん何もってるの?」 「人のを見るな!」  その後もなんとかゲームを続けてしばらくすると、なぜかシドニーの手元に1枚、俺の手元に2枚、ショットの手元に2枚残った状態になってゲームが一向に進まなくなっちまった。 「おい何が残ってんだよ?俺はスペードのKと8だけど」 「私たちはジョーカーとハートの4!」 「あれ?俺のはクラブの6だよ」 「どうせそいつらが途中で揃ってないのに捨てたんだろう」  なんだよこのババ抜き。 「まあいいや。じゃあこの時点でジョーカー持ってるからお前らの負けな」 「なぁんで!やだっ!」  ムキになったリディアがショットの手からハートの4を場に捨てさせてジョーカーを俺の手札に捩じ込んできた。 「おいやめろ堂々とズルすんな」  オーサーとシドニーはゲラゲラ笑いながら「じゃあとーちゃんの負け!」と言ってきた。マジでなんなんだよこのクソゲー。 「あー面白かった!やっぱりトランプは大人数がいいね」 「お前がコレで笑える心の広い息子でいてくれて嬉しいよ」  全然ゲームにならないじゃん!なんて怒り出したらどうしようかと思ったが、杞憂だったらしい。 「お前らも楽しかったか?」 「うん!勝てたもん。ねー!」 「……」  勝ってねぇよと言いたかったが、また拗ねてキーキー喚くのを知ってるから黙っておいた。 「ショット、もう眠いか?」  どことなくその目がトロンとしてるように見えて聞いてみると「ねる」と呟いて寝室に入ってった。 「俺たちもそろそろ帰るか。茶太郎、世話になった」 「こっちこそ、ここまで来てくれて……あと|プレゼント《卒業祝い》もありがとうな」  アパートの下まで見送りに出ると2人の姿が見えなくなるまでシドニーは嬉しそうにずっと手を振っていた。 「なんか俺、今すっごい幸せかも」 「え?」 「ととととーちゃんがいて、オーサーとリディア姉ちゃんもいて……俺の事をお祝いする為にこんな風に集まってくれてさ……信じられないよ」  随分重くなった体を抱き上げて頬にキスをする。 「俺も、ずっと適当に生きてきて……こんな大切な家族が出来るだなんて正直あんま思ってなかったな」  そう言えば嬉しそうに抱きつかれた。

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