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家族編 第14話 お前に俺はこう見えてんの?

【お前に俺はこう見えてんの?】 ◆本編70『お店屋さんごっこ』後日  数日前に俺たちの住んでるアパートの前でリディアとショットは"|モノ屋さん《ガレージセール》"を開業し、半日で"|交換屋さん《わらしべ長者》"に営業方針を切り替え、1日で閉業した。まあそのコト自体はどうでもいいんだけど。 「あーやっぱ無いって……まじかよぉ……」  そういえば……と思って、俺は朝っぱらからサイドボードの中やクローゼットの中やカバンのポケットの中まで念の為に探してる。そしたら"アレ"がやっぱり見つからないんだ。  あの時にショットが勝手に持ち出した俺の"うまく書けてるショットの『茶太郎』コレクション"の中でも特に気に入って保管しておこうと思ってた秘蔵の一枚だけが無いんだ。|首領《ドン》が選んで買って行ったやつがそうだったんだろう。 「くっそー、やっぱアレ上手く書けてたもんなあ……」  首領は"カンジ"なんか読めねえはずなのに。知らない言語でもやっぱ形が良いとかはなんとなくわかるモンなんだろうな。  ***  夕方、お気に入りの"茶太郎"を失ったコトをまだ引きずりながら買い出しと洗濯を済ませてトボトボ帰宅すると、ショットは珍しく出かけてなかったみたいでリビングの真ん中に立ってぼーっとしてた。何もするコトが無いにしても、せめて突っ立ってないで座ればいいのに。立ってる方が好きなのか? 「ただいま……」 「おかえり」  落ち込んだ声を出すと心配そうに顔を覗き込まれた。 「なあショットぉ」 「なに」  両腕が洗濯物で塞がってるから頭を肩にぶつけて甘えるみたいにグリグリすると、反対側の手を伸ばして髪をぐしゃぐしゃと撫でてくれた。コイツのこういう、雑なトコロ、結構好きだ。本人は雑なつもりないのかもしんないけど。 「また書いてほしいんだ、"茶太郎"って」 「いいよ」 「今までで一番上手に書いてくれ」  なんだそりゃって感じの顔をされたけど、俺は至って真剣だぞ。首領が持ってるやつよりイイのが欲しいンだ。  洗濯物をベッドに投げ捨てて紙とペンを持って行けばショットはそれを素直に受け取って、立ったまま机に屈んで書き始めたから「座れば?」と言ったけど聞こえてなさそうだった。  少し経って、俺がベッドの上で洗濯物を畳みながら待ってるとショットが紙を一枚手に持って抱きついてきた。 「靴は脱げ。どうだ、うまく書けたか?」 「これ」 「うう……まじでありがとな……」  そして俺は渡された紙を見てしばらく考えた。リクエスト通り割とトップ3レベルで上手く書いてくれた"茶太郎"の横に謎のマークが書かれてたから。  これは……絵なのか?|歪《いびつ》な楕円の中央に横線、何かゴミみたいな点もいくつか。 「コレ何?」 「……」 「なあ、コレはなんだよ」  毛みたいなのもあるし、動物……顔か?点は目のようにも見えるし。 「なあ」 「……」  何だよって聞いてんのにショットは俺の顔を見つめたまま何故か下唇をモグモグして黙ってやがる。 「その反応もなんなんだよ。どういう感情?」  わけわかんね。その絵らしきモンをもう一度じっくり見てアレコレ考えてると「それ、ちゃた」と小声で言われた。 「ああ、コレ俺だったの?俺の顔?」 「……ん」  その反応はどっちなんだ。自信あるのか?ないのか?褒められ待ちか?なんなんだ? 「ふーん。俺ってこんな感じ?」 「んっ」 「おお……」  あんま聞いた事ない声が出たな。これはおそらく自信あるっぽいぞ。だからつまり……。 「……」 「ありがとな。えーと……凄いな!」  断じて上手くはないけど。気持ちが嬉しい。絵を描いてくれたことを褒めて頭を撫でてやるとショットはちょっと誇らしげにした後、やっぱり黙ったまま俺の足に頭をグリグリ押し付けてきた。 「はは、なんだそれ?」  さっきの変な顔といい、こりゃもしかして照れてんのかな。相変わらず変なやつ。 「お前ってまじ意味わかんなくて可愛いよな」 「なに」 「俺ってそういうフェチなのかな」 「わかんない」 「わかんないな」  いや、原因はフェチっていうかコイツだな。俺はコイツが好きなんだからもうコイツが何やってても可愛く見えちまうんだろう。別にそれでいいや。どうかしてる自覚ならずっとある。  髪を撫でると気持ち良さそうに目を細めるから、しばらくそうしてのんびり過ごした。 「うーん、もしかしてこっちが目で、こう向きか?いや、文字がこうだから……やっぱこうか」  その間にもう一度その絵を理解しようと向き直ってくるくる回してみたものの、どうにも難解だった。 「まあいいや」  膝の上でそのまま寝ちまったショットの頭の上で俺は残りの洗濯物を畳んだ。

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