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家族編 第15話 コイツをロアだと思えばいい
【コイツをロアだと思えばいい】
◆本編80『退屈しのぎにちょうど良い』後日
毎月28日になると、シュートが|首領《ドン》宅の庭にあるマウロアの墓へやってくる。
「シュート!」
その日もその姿を見かけて、|BB《バイロン》は2階の窓から慌てて声をかけた。
「……」
「そこでちょっと待ってろ」
ここに来たシュートは日が落ちて辺りが真っ暗になり、28日が終わるまでそこにいる。それを知りつつも念の為に「待ってろ」と再び声をかけてBBは階段を昇り、首領の部屋へ向かった。
「失礼します」
「ああ、どうした」
「アレをシュートに」
それを聞いて首領はゴトゴトと机の上にホルスターごと一挺のハンドガンとアサルトライフルを置いた。ハンドガン最強の威力を誇るIMIデザートイーグルと独特なフォルムが特徴のアサルトライフル、FN |HERSTAL《ハースタル》 F2000だ。それはどちらもマウロアが気に入って使っていたものと同モデルの銃だった。
目的もなくただずっと毎日フラフラしてばかりいるシュートの気晴らしにならないかと銃の扱いを教えてみる事をBBが首領に提案したのだった。
庭に向かうために廊下を歩きつつ、すれ違う構成員に食料を持ってくるように言いつけた。この時のシュートは線が細く見るからに不健康で、栄養不足のせいで成長期が遅れていた。
BBがそれらを抱えて庭に出るとシュートはいつも通りマウロアの墓の前で立ち尽くしていた。
「……シュート」
声をかけても反応しない。もし今シュートの意識がここに無いとしたら、下手に触れると混乱させるかもしれないと思ったBBは少し離れた位置から再度声をかけた。
「シュート」
「なに」
返事があった事に安心して、警戒させないようゆっくりと近寄る。
「これをロアだと思え」
そう言いながらホルスターを差し出すがシュートは受け取ろうと手を出すこともなく、ただじっとそれを見つめて「ロアちがう」と言った。
「いやそうなんだけどよ」
厳密には形見という訳では無いが、形見のようなものだとBBは説明した。
「ロアの奴、好きだったんだ。この銃が」
「……」
「ロアが使ってた。わかるか?」
手を掴んでデザートイーグルを持たせると興味が出てきたのかホルスターからそれを抜き出して|引き鉄《トリガー》に指をかける。
「あ、おい」
慌ててBBはその手を掴んで銃口を何もない方向へ向けさせた。まだスライドを引いていないとはいえ、このデザートイーグルはセーフティーレバーを外してあるから下手に触ると危ない。
「……ロア」
恐らくシュートに形見という言葉の意味は理解できていないだろうが、BBの目にはほんの少し嬉しそうにしているように見えなくもなかった。
「バカなテメェでも扱えるよう、セーフティレバーは外してある。暴発には気をつけろよ」
「……」
「また扱い方はゆっくり教えてやる。今日は墓参りだもんな」
そう言ってBBが腰にホルスターを装着してアサルトライフルを背負わせてやる間もシュートは大人しくじっとして、手に持った銃を見つめていた。
「でも、もし失くしてもパニックになって喚くなよ。その時はまた同じモノを用意してやるから」
「……」
「あと退屈にしてると嫌な事ばっか思い出すからな、ヒマな時は筋トレしろ筋トレ。プランク。スクワット」
一見どうも脳筋な発言ではあるが、事実、筋トレをすると脳が活性化して精神が安定するのであながち間違ったアドバイスでもない。
それからシュートは素直にそれらの銃を肌身離さず持ち歩くようになった。
***
後日、BBがシュートを空き地へ連れ出して射撃の仕方を教えてやろうとしたのだが、視力は良くないハズなのにシュートは初めから射撃の腕前が妙に高かった。
「なんでだ、訓練もしてねぇのに」
「野生の勘ってやつか」
不思議がるBBとは対照的に見物に来た首領はなぜか少し誇らしげでさえある。
「猛獣のクセに銃が扱えるなんてチートでしょう」
「アイツにとってはあの銃が爪や牙ってコトだ」
シュートはコレを撃ってみろとBBが置いた缶を正確に射撃していく。通常のマグナム弾の倍以上の威力を誇るデザートイーグルを華奢なシュートが片手で扱うのは自滅行為だ。しかしその反動を持ち前の運動神経で上手く受け流している。
「構えも無茶苦茶だ……おいシュート、しまいに肩が外れるぞ」
「まあ撃ててんだからいいだろう。好きなようにさせてやれ」
缶を全て撃ち終え、こちらへ戻ってきたシュートの耳につけていた射撃用のイヤーマフを回収する。
「……耳、いたい」
「サイズキツかったか?」
イヤーマフの接触による痛みではなく、聴覚過敏による射撃音に対する耳の痛みを訴えていたのだが、この時のBBはそれを知らなかった。
「大丈夫だとは思ってるが、無闇に人を撃つなよ。これは身を守るためのものだ」
首領がそう言うとシュートはその言葉を繰り返した。
「……まもる」
それを聞いていたBBも横から「そうだ。自分の身を守るか、大事なヤツを守る為だけに使え」と言い聞かせる。
「……」
「人を傷つけるために使うなよ。わかったか?」
更に念を押すBBに首領は「そんなに心配すんな」と笑った。
「コイツは優しい奴だ。誰かを傷つけてやろうなんて考えもしねえよ」
「……そうですね」
弾が無くなったら言え、とBBが言うとシュートは素直に頷いてどこかへ立ち去って行った。
「本当にわかってんのかなぁ……」
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