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家族編 第17話 起きてる時に言ってくれ

【起きてる時に言ってくれ】 本編91『9回目のさよなら』冒頭と 本編93『あの人、会話できるんだ』冒頭より 本編57『お前が幸せならそれでいい』後日  物音で目が覚めた。まあショットが帰ってきたんだろう。どうにも眠くて俺はそのまま目を閉じてた。しばらくガタンガタンとシャワーを使ったり水を飲んだりしてるんだろうなって物音が聞こえた後、ガチャッと寝室の扉が開かれた。 「ちゃた」  起きてる事、バレてると思う。動かなくても目を閉じたままでも、目を覚ましたらいっつもバレるから。俺の呼吸の具合とかで多分わかるんだろうな。 「……」  でもなんとなく寝たフリを続けてみた。単に眠かったからってのもある。 「ちゃた?」  顔が近寄ってくる気配がして、額の辺りでフンスフンスとニオイを嗅がれた。なんなんだよ。鼻息がくすぐったくて、つい笑いそうになったけど耐える。このままにしてたら、コイツはいったいどんな反応をするんだろう? 「……」  しばらくするとショットはフン、と鼻を鳴らしてモソモソと横に潜り込んできた。あれ、ちょっと拗ねちまったか? 「……ちゃた」  しつこいな。それにしても、俺が起きてたからなんだってんだ。早朝なのにまったく。別にイヤとかじゃないけど、ちょっと面倒になってきてゴロリと寝返りを打った。 「ねてる?」  髪を撫でられて、指が耳に少し触れる。コイツの手は指先までポカポカ暖かくて触られてると心地いい。ウトウトしてきて、まじで寝ちまう前に一応「起きてるよ、おかえり」って言ってやろうかなと思った瞬間、後ろから首元にキスされて驚いた。 「ちゃた、すき」 「……っ」  更にちゅう、と吸いつかれて不意打ちにらしくもなくキュンとしてしまった。なんだその技、どこで覚えてきやがった。 「すき……」  今までにも何回か寝てる時に何か言われた事があった気がするけど、その時はまじで寝ぼけてたから言われた事を覚えてなかった。でももしかして、今までもコイツはこうして寝てる俺に愛を囁いてたんだろうか。 「ちゃたのこと、まもらせて」  耐えきれずガバッと体を起こしてショットの頭を掴むと問答無用でキスしてやった。 「んん」 「はぁ……このバカ」  動揺した様子もなく、すぐショットの腕も俺の腰に回されて強く抱きしめられる。 「ちゃたおきてた」 「分かってたんだろ、ん、んっ……」 「んー」  誤魔化すように甘えた声を出しながら右手に指を絡めてきて、左腕の傷跡を優しく撫でられた。 「っはぁ……俺も、好きだよ」  そう言いながら頬にキスすると嬉しそうに目を細めるから、瞼にも口付けてやる。 「シュート」 「へへ……」  嬉しそうでなによりだ。  しばらくそうしてると、なんでか急に照れたみたいに背中を向けられたから、たまには俺の方からその首筋を甘噛みしてみた。 「なあ、なんで寝てる時に言うんだよ」 「……」 「恥ずかしいのか?」  照れたりして、一丁前だなと笑えば「Beh(んべ)」と言われた。 「なんだこら、おい」 「べ」  最近、リディアの影響かこういうコト言うんだよな。普段どんな会話してんだろ?  くすくす笑いながらベッドの上でごちゃごちゃしてるとすっかり目が覚めちまった。 「ちゃた?」 「ちょっと早いけどもう起きるよ、朝メシ作る」  でも立ちあがろうとしたら腰に巻きつかれた。 「ん?なに……」 「……」 「……分かったよ、一緒に寝ようか」  そんなに一緒に寝たいなら俺が寝るくらいの時間に帰って来りゃいいのに。多分ぼんやりしてたらあっという間に夜中になっちまってんだろうな。 「なあ、たまにでいいからさ、起きてる時に言ってくれよ」 「なに」 「好きだって。そういや最近あんま面と向かって言ってくれねーじゃん」 「……」  普段のコイツなら俺がこんな風に何か頼めば脊髄反射で「うん」って言うハズなのに。まさか思春期でも来たのか? 「俺のこと好きか?」 「うん」 「じゃ好きって言ってくれよ」 「……」 「おい、いやなのかよ」  また背中を向けやがるから俺もついガキみたいにムキになってその腰に腕を回すけど、簡単に剥がされて押し倒された。 「なっ……こら!寝るんだろ!」  そのまま服に手を突っ込まれたからペシリと頭を叩く。 「はー、もー、朝からふざけて汗かいたじゃねえか」 「ちゃた」 「あ?」 「……おなかすいた」  これは好きだって言ってくれる流れかと思ったのに。 「じゃあ寝る前に何か食うか?」 「ん」  まあいいか。コイツが俺の事を好きだなんて、毎日呆れるほど感じてる。それでもたまには言葉にして聞かせてほしいなんて、欲を言えばそうだけど。  今は俺を前にするとうまく「好き」が言えないくらいになってる様子さえも可愛いなと思っちまうんだから、これでいいか。 「スープ作ってやるよ、そろそろ夜はちょっと冷えるし。暖まって寝ろ」  な。と言いながら手を差し出すと素直に繋がれる。寝ぼけた頭で夜明け前に作ったシンプルなスープは少し熱すぎるくらいだった。

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