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家族編 第18話 上手におつかいできるかな
【上手におつかい出来るかな】
本編82『みんなともだち』後日
ショットがオーサーとリディアに"ともだち"宣言をしてから、リディアは「あそぼー!」とウチへ来る事が増えた。二人が仲良くしてんのを見ると俺はいまだにホロリと泣けてくる。
「……あ、なあリディア。ショットのおつかい手伝ってくれね?俺が付き添ってたら意味ないからさ」
「いいよー!」
算数はもう問題ないし、文字に関しては頭打ちっぽくて点数が伸びないから毎週末とか言ってた学力テストは最近ずっと不定期になってるけど、料理や買い物、生活に関するコトはやっぱり引き続き学ばせていきたい。
「ほら、あっちの露天商たちがいる通りで……そうだな、じゃ、俺の靴を磨いてもらってきてくれ」
前に履いてた靴なんだけど、ボロくなってきたから新しいのを買って、もうそろそろ捨てるか一度くらい磨いてもらうか悩んでたのがあるんだ。
どうだ?と聞いてみるとリディアは「カンタンだよぉ!」と胸を張る。対してショットは昼メシのホットケーキを頬張りながらぼーっとしてた。
***
リディアとショットが元気よく出かけてって1時間くらい経った。そろそろ帰ってきてもいい頃合いだろう。あいつら大丈夫かなぁ……って心配してたら何やら騒ぎが近付いてきたので慌てて迎えに降りた。
「おい、どうしたどうした」
そしたらなぜか|BB《バイロン》に引率されて泣きべそをかいてるリディアと無のままのショットが帰ってきた。何があったんだよ。
「茶太郎テメェ、シュートをパシってんじゃねーぞ」
「パシってねーよ!人聞き悪いな!」
「パシリだろうがどう見ても!」
まあ確かに俺の用事をショットの金で頼んでんだけど。でも家族の場合はパシりとかじゃねーだろ。
「うえぇーん」
「おれこれみつけたから」
「ちがうもんばかぁ」
靴磨いて来てくれって頼んだだけでなんでこんな大騒ぎに発展するんだ。
「んで、なんでリディアは泣いてんだよ。誰が泣かせた?」
「ちゃたこれ」
ショットが差し出してきた1セント硬貨を受け取る。
「お前は俺の靴をどこにやっちゃったの?」
その手はどう見ても空っぽだ。
「誰の弟分だと思ってやがる」
「俺は家族だぞ!もうややこしいから帰ってくれよ」
「なんだとこら、誰がコイツらを連れて帰って来てやったと」
「うぇーん」
「ちゃた」
コイツらがご機嫌に出かけて行ってからこの1時間の間にいったい何が起きたのか、誰か説明できるやつはいねぇのか。
***
とにかくやかましい部外者のBBを追い返してからリディアを落ち着かせてショットに靴を探しに行かせた。グスグス泣きながら話してくれた内容を要約するとこういう事だった。
歩きながらショットがハラハラと金を落とすから拾ってやると破っちまって、半泣きで靴磨き屋に行ってみたものの案の定断られて、責任を感じたリディアがびーびー泣いてるとショットがどこからか1セント硬貨を拾ってきたと。
それで再度店に行ってみたものの「1セントって、ふざけてんのか」と追い返されて、金を落としたショットのせいだとか破ったリディアのせいだとか、ちょっとケンカしたらしい。
「なんで仲良くおつかいに行ってケンカになんだよ」
「だって……」
そこにたまたま通りがかったBBが止めてくれたんだと。ちなみに靴はいつの間にか失くなってたらしい。少なくともケンカになる前からもう無かったらしいから、もはやいつから持ってなかったのか、真相は闇の中だ。
「私、人を叩いちゃダメって言われてるのに、叩いちゃった」
「……」
アイツ、どっか折れてねぇだろうな。
「ショットはやり返したりしなかったんだよな?」
「うん、押しかえされただけ」
それを聞いてとりあえず胸を撫で下ろす。いくら口喧嘩をしたとしても、ショットは自衛以外で誰かを攻撃したり絶対にしない。リディアの事を友達だと思ってるから大丈夫だろうってわかってるけど、ちょっとだけドキッとした。
「リディアだって本気で殴ったんじゃないだろ?」
「うん……肩をポンッてしただけ……」
「そんくらい大丈夫だよ、多分。本気で痛かったらアイツも何か反応すると思うし」
俺は窓を開けて「ショット、靴はもういいから聞こえたら帰って来い」と軽く声をかけた。
「ごめんねぇ」
「もう泣くなよ、らしくねえな。俺は何も気にしてないから」
元気付けてやろうと思ってキッチンを探すけど残念ながら甘いモンは無かったから、ジュースを出してやると大人しく飲んでた。
***
しばらくして帰って来たショットは予想通り靴は持ってなかったけど、何故かまた1セント硬貨を持って帰って来た。
「ん」
「そんなのいらないもんばか」
「なあリディア、許してやってくれねえか?」
俺の想像でしかないけど、目が悪いショットにとってコレを見つけてくんのは簡単なコトじゃないと思う。最初にリディアが泣いた時にも、なんとか慰められないか一生懸命コイツなりに頑張った結果がこの1セントだったんじゃないかなって。
「な、ショット、仲直りしたいんだよな?」
「……」
そう助け舟を出すとショットはこくりと頷いた。仲直りするのに金を渡すってのはあまりにも間違ってるけど。
「……さっき叩いてごめんね」
「そうだお前、骨折れてねえか?」
「なに」
まあ靴は無くなったし10ドルは2セントになっちまったし、おつかいは失敗に終わったけど、ケンカと仲直りを経てガキ二人の友情が少し育まれたような気がしなくもないから、広い目で見たら収穫は充分にあった。
「今日はごめんなリディア、大変だったな」
「いいよぉ。兄さんが夕方にはかえってこいって言うからそろそろかえる」
「ああ。今度メシ作ってやるから元気出せよ。またおつかいチャレンジ付き合ってやってくれるか?」
「うーん……、いいよ!」
「ありがとな」
帰ってったリディアを見送ってから、晩メシの食材切るの手伝ってくれ、とショットに声をかけたらすぐキッチンに来てくれた。
「お前も、今日はありがとうな」
「……なんで」
「なんでって、おつかい行ってくれてさ」
そう答えたらぎゅっと抱きつかれた。
「ありがとうじゃない。おれ、できなかった」
「なんだ……おいどうした?落ち込んでんのか?」
慌てて背中に腕を回して抱きしめ返す。
「いいんだ、初めから全部完璧に出来るとは思ってねぇよ。俺の頼みを引き受けて頑張ってくれた事にありがとうって言ってんだ」
「……」
「わかるか?」
嘘じゃない。本当だ。それなのに俺がショットを慰めるために嘘を吐いてると思ってんのか、その顔は浮かないままだった。
「なあ、落ち込まないでくれよ」
上手くできた時に喜んでくれるのはモチロンいいが、だからって失敗した時に落ち込んでほしくはない。そんな事の為に"テスト"してんじゃねえんだ。
「お前のそんな顔、見たくないよ」
「……」
ああ、参った。もう料理どころじゃない。
「ちょっとこっちで話そう」
腕を引いて寝室へ連れ込みベッドの上に向かい合って座る。手を握ってやると指先が少し冷たい。
「無理させてごめんな……ストレスになるくらいならもうテストはやめよう」
「……」
「何が出来るか、出来ないか、それを知るためにテストってのはあるんだよ。出来るって分かりきってるなら、テストする意味がねえだろ?」
だから出来ない部分があって当たり前なんだ。それでいい。それに俺だって一緒に色々学んでる。次からは落としにくいように財布を用意してやろうとか、リディアでも扱いやすいように|硬貨《コイン》だけにしてやろうとか。
「な、ショット……わかるか?」
「……」
多分あんま分かってないけど、とにかく俺が怒ってない事は伝わったと思う。
「今日は疲れたろ、ハラ減ってなかったらもう寝ようか」
「ん」
腕を広げると抱きつかれた。オーサーがこの場にいたら「甘すぎる」ってイライラされそうだけど、これが俺たちのスピードなんだ。ゆっくり成長していこう。
「ショット、な。今日はありがとうな」
「……ん」
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