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家族編 第20話 こう眠いとやってらんねーな

【こう眠いとやってらんねーな】 ◆本編終了後 シュート35歳の年の秋  カタンと物音がしたから視線を上げた。 「……あれ、もう帰って来たのか」 「ん」 「何かあったのか?」  今日はマウロアの命日だから一緒に出かけて、|首領《ドン》の墓にも併せて挨拶を済ませてから俺だけ先に帰って来た。最近は大体いつもこういう流れだ。二人きりで話したい事もあるかなと思って。  でも俺が一旦帰宅して一息ついてから、そろそろ買い出しと洗濯にでも行くか……とまた出かける準備をしてた時、まだ夕方だってのにショットがもう帰って来たからビックリした。だって普段ならそのまま夜まで帰ってこないのが普通だったのに。 「……ねむい」 「なんだ、昨日あんま寝れてなかったのか?」  機嫌が悪いとかじゃなさそうだけど、俺のコトをチラリと見もせずにまっすぐ寝室に入って行っちまった。こういうのは珍しいな。  なんとなく心配で後を追って寝室に入り、ベッド脇に脱ぎ散らかされてる靴を整えて布団を被せてやる。もう目を閉じて半分寝てるみたいだった。こんな状態でよく帰ってきてくれたな。 「なんか食べたいモンあるか?」 「ん……ちゃたつくったの、たべる」  つまり俺が用意したモンならなんでもいいってコトだろう。いじらしい奴だな。 「分かった」  まあそんな心配しなくても、眠くて仕方ない日くらい誰にだってあるか。ちょっと風邪気味とかなのかもな。 「マウロアとは話せたか?また明日もっかい行くか」 「……いい、もう……だいじょうぶ」 「そっか」  瞼にかかってる前髪をそっと退けてやって、額にキスをしてから寝室を後にした。  ***  片手じゃ硬い食材を切るのは一苦労だから、割高だけど皮剥きや切り分け加工済みのモノを買うコトになる。でも別にいいや。今日は金額の問題より、ショットに栄養のあるモンを食べさせてやりたい。別に不調とかじゃないのかもしんねーけど。  買い出しから帰って来てもショットはまだ寝てるみたいだったから起きるまでに作っておいてやろうとメシの準備を進めた。 「……ふわ……でもなんか、俺も眠くなってきたな」  スープが良い感じに仕上がったのを確認して、俺もちょっと寝ようかと部屋着に着替えてからベッドに潜り込んだ。 「ん……ちゃた」 「俺も一緒に寝る。いいだろ?」 「うん」  手に触れると寝ぼけてても絶対に握り返してくれる。これからの季節はコイツのこの子供体温がまじで有難いんだよな。 「熱とかは無いんだよな?」 「……」  繋いだ手を解いてそっと頬や額に触れてみる。俺ってマジでいっつもこんなコトばっか言ってる気がする。だってコイツが心配ばっかり掛けやがるんだからよ。  閉じられたままの瞼に指で触れてイタズラにまつ毛をサワサワと弄ってると鬱陶しそうに手を掴まれて指を絡められた。 「ねる」 「ごめんごめん」  でももう少しだけ触れたくなって、また手を解こうとしたけど強く握られて言い聞かせるようにキスされた。ショットに子供扱いされるのなんて、初めてのことでつい笑う。 「はは、俺もなんか今日はやたら眠いよ……寒くなってきたからかな。起きたらメシにしような」 「……」  すうすうと深い呼吸を繰り返すショットの寝息を聞いてると俺も一気に眠気が増してきて、いい歳して甘えるようにその胸元に潜り込んで眠った。  ***  頬に柔らかいモノが当たる感触がして目を開けると先に目を覚ましたらしいショットに顔を舐められてた。いっぱい寝てさすがにスッキリしたのか、すっかりいつも通りの様子で安心する。 「んーおはよ……ってのも変か、もう夜だな。今日はハロウィンの時期だからパンプキンスープにしてみたんだ」  かぼちゃは栄養たっぷりだしこれ食べて今日はさっさと寝よう、と立ち上がりながら言うとショットはコクリと頷いてもそもそ起きてきた。 「そうそう、キャンディコーンも買ってきたぞ。ガキのお菓子だけどさ」  お前、食べた事ないんじゃね?と聞けば首を傾げる。甘いモンは好きだろうけど、キャンディやスナックの類を食べさせてみるのは初めてだから気に入るか分かんねーな。  ハロウィンってのは死んだ人が帰ってくる日だぞ、と教えるとショットはしばらく考えた後にキッチンから小さい皿を2つ持ってきていそいそと向かいの席に置くと「|首領《ドン》とロアの」と言ってスープを注いでやっていた。

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