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家族編 第23話 お前、どうしたんだ

【お前、どうしたんだ】 本編終了後 シュート35歳の年の春  雨の日は頭や古傷が痛くて寝込む時がある。その姿を何度か見てきたショットは雨の日に出かけないようになっちまった。 「なあショット」 「なに」  今日は平気だよと言っても心配なのか、俺が床にガラクタを広げて弄ってる様子を横で眺めてるばっかで出かける気がないみたいだ。俺の事を考えてくれるのは嬉しいが、そのせいでコイツの行動に制限が掛かる事は嬉しくない。 「好きなようにしていいんだからな」 「ここにいる」  苦笑しつつ顔を上げるとキスされた。 「ん、う……」 「ちゃた」  足元でガシャガシャとガラクタが踏みつけられる音がする。せっかく修理したってのに、まったくコイツは。 「はぁ、あっ……待て、こら」 「なに。もっかい。ちゅ」  そのまま首を舐められて、シャツのボタンを外されて、鎖骨を甘噛みされる。 「あーもーわかったから、待て待て」  どうせどこにも行けなくて退屈だしな。たまには真昼間からコイツと体温を分かち合うのも悪くない。  ***  使用済みのスキンの口を片手で結ぶのにも慣れた。器用なモンだろ。左腕で汗を拭いながらソレをゴミ箱に投げ捨てて、床に蹴り落とされてる下着とズボンを拾い上げる。 「ふー……そろそろメシでも作るか……」 「ん」  下着に足を通してるとまだベッドでゴロゴロしてたショットが横から手を伸ばしてきて俺の左腕に触れた。 「なんだ?」 「……」 「どこも痛くないよ。大丈夫だから、心配すんな」  額にキスしてやるとガバッと抱きつかれて顔中にキスされた。なんかこの感じ、懐かしいな。 「はは、|擽《くすぐ》ったいよ」  ほらメシ作ろうぜ、と言えばコクリと頷いた。  ……というわけで。仲良く一緒にキッチンに並んで、今日はチキンスープを作る事にしたんだが、芋の皮剥きをしてくれてるショットに「そっちの玉ねぎ取ってくれるか」と言えばすぐ目の前にあるってのに、右手をフラッと伸ばして玉ねぎにぶつけると転がして落としちまった。 「あ、ほらもう落ちたぞ」  ちょうどこっちに転がって来たからしゃがんで拾い上げる。そしたら、なぜかショットもしゃがんで床をぺたりと触った。 「……なにしてんだ」  その様子が妙で心臓の辺りがザワついた。 「なに」 「おい、ショット……」  ――まさか、見えてないのか?  頭の中にそんな言葉がよぎってゾッとした。 「ショット、これ何本だ?」 「……」  しゃがんで向かい合ったまま指を2本立てて右目の前に差し出すがフイと視線を逸らされる。 「なあっ答えてくれ、何本だ?」  左腕でその肩に触れてしつこく尋ねるとどこか違う場所をぼんやり見たまま「……さん」と小さく答えた。 「おい……っお前、どうしたんだよっ!」 「んん」  俺の慌てた声がイヤだったのかグイッと押し返されて尻餅をつく。床に座ったまま何も言えないでいると急に目線が合った。 「……っ」 「はやく作る」  腕を引かれて立ち上がらされて、料理の続きを促されるが当然そんな場合じゃない。 「ショット……ショット!今すぐ病院に行こう!」  包丁を握り直そうとする手を止めさせて言っても「いや」と拒否される。嫌じゃねーよ、お前さっき、その目……完全に見えてなかったじゃねえか。自分の状態がわかってねえのか? 「なあショット、頼むよ……不安なんだ……」  不安で堪らない。手を握って真剣に言うと無言のままだけどこっちに向き直ってくれた。 「……」  動悸が激しくなって少し苦しい。浅く息をしてると優しく頬に触れられた。 「ちゃた、悲しいかお……」 「……見えてんのか?」  目の前で手を動かすと確かに目で見て追従してくれる。さっきのはいったいなんだったんだ? 「本当に見えてるんだな?」 「ん」  ケロリとした態度で平然と芋の皮剥きを続けるショットにひとまず胸を撫で下ろした。俺の考えすぎだったのか?パッとしゃがんだから、例えば……起立性貧血の逆パターンみたいな、なんかそういうモンが起きたりして一瞬目が見えにくかったとか……?  |BB《バイロン》に言えば「この心配症が」って笑われちまうだろうか。 「わかった……病院は嫌なんだな。でも、少しでもなんか変なことがあったらすぐに教えてくれ」 「ん」  だからシドニーがいないって何回も自戒してるってのに、また俺は量を作りすぎちまって……その時に作ったチキンスープは翌日に持ち越すことが確定した。

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