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家族編 第24話 決断を下す時

【決断を下す時】 ◆本編終了後 シュート32歳の年の春  今年でシドニーが19歳になる。去年、高校卒業後にオーサーの勧めで2年間シドニーは西の方の国へ留学に行ってた。だから俺たちはなかなか会えない中で手紙や電話を使って少しずつ色んな話をして、やっぱりシドニーの気持ちは"俺たちの家族になる"ってコトで固まったらしかった。 「……よし。そんじゃ、まじで俺も動かねえとな」  動くってのはモチロン、L・KANOAの"法的な効力を持つ"戸籍を手に入れて、シドニーを正式に養子に迎え入れるってこった。  オーサーに頼めば戸籍はすぐにでもどうとでもなるだろうけど、それ以上に必要なのは俺の方の覚悟な気がした。俺の戸籍を作るなら、当然ショットのも作りたい。でもそれは俺の独断ではさすがに出来ねぇ事だし……。  アイツはこの世界に自分の存在が認められる事がどう感じられるのか……重荷にならないか、心配で。たとえ些細なことであったとしても、アイツをネガティブな気持ちにさせたくないんだ。  それから……同じ戸籍になるって事は……それってつまり、いよいよまじで結婚するって事だ。  いやいや、考えすぎか?いや、でもこんな時くらいはさすがの俺でも"マジ"になったって良いだろ。 「……」 『父さんの気持ちの整理がついたタイミングでいいよ』 「あ、嫌とか、そういうのは全くねえから」  電話の向こうでくすくすと笑う声が聞こえた。 『分かってるよ、安心して』  父さんってめちゃくちゃ楽観主義で雑なのに、ととの事になると途端に心配性になるよね、と言われて顎を掻く。ああ仕方ねえだろ、アイツのコトに関してはまじで真剣なんだからよ。  前にも「結婚しよう」なんて小っ恥ずかしいコト言い合ったりはしたけど、改めて話すとなるとタイミングが掴めなくて俺はズルズルと話を切り出せないでいた。  別に、さすがにここにきて断られる心配とかしてるワケじゃねーんだけど、ショットは"変化"が苦手だし、たかが戸籍だけの話といえど……なにか俺たちの間にまた新たな要素が増えること、慎重に伝えたいと思った。まあ、名前を決める時は嬉し過ぎて一気に伝えたんだけどさ。  小難しく考えさせて、不安を煽っちまって、ショットが熱を出したりしたら嫌だなって。 「……」  あとあんな勢いだけじゃないプロポーズも、改めてしたいような気はしてるし。いや、俺たち、そんなガラじゃねぇとは思うけどさ。だってせっかくこんな機会、一生に一度くらいしかねえんだから。 「……あー……」  だからといって「ずっと一緒にいような」なんてコトは既に何度も話してるし、ああ、いったいどう伝えて何を言えばいいんだろう。 「ちゃた」 「ん、どうした」  リビングで腰掛けてそんな風に悶々と悩んでると寝室で寝てたショットが出てきて後ろから抱きつかれた。俺が何やら考え込んでるのが分かってんのか心配そうに頬を舐めてくるから頭を撫でてやる。 「なんでもないんだ、ちょっと考えることがあってさ」 「……」  それに、悩んでる理由はショットのコトだけでもない。これからシドニーは大学生になる。卒業後はインターンでやりたい仕事をゆっくり探してみればいいと話してるけどその一連の流れの中で家族について何か聞かれたり、答える必要があるタイミングがあるかもしれない。  この国は実力主義だから本人の年齢性別や家柄なんか評価基準にはならないとはいえ、さすがに大犯罪者の家族となると肩身は狭い。戸籍という社会との繋がりを介して、いつどこでショットの事が判明してしまうか分からない。  セオドール・A・ブラッドレイが生きている……その事が世間にバレてしまうコトが何よりも一番怖かった。それに、もしそんなコトになっちまったら、その戸籍に自ら望んで入ったシドニーは世間からバッシングを受けるだろう。だからって俺だけが生きた戸籍を手に入れるのは、どうしても嫌なんだ。 「……そりゃさ……俺だって、"なんでもお前と一緒がいい"んだ」 「なに」  振り返ってチラッと覗いてるショットの舌を舐めてやると襲いかかられた。  ***  俺の葛藤をシドニーに話せば、きっと「無理しなくていいんだよ」って言ってくれるだろう。でも俺はショットと同じだけシドニーのコトだって大事なんだ。俺の力で出来る限りの望みは全て叶えてやりたい。当たり前だろ、大切な家族なんだから。  それに、俺だってずっと我慢してきた。本心ではあんな母親の戸籍に居続けさせるのは嫌だったんだ。18を超えたシドニーが自分の意志で、自分の言葉で、自分から俺の籍に入りたいって言ってくれた時、まじで嬉しかった。それを無かったコトには出来ない。 「ショット、寝たのか?」 「……」  俺の隣で裸のまま幸せそうな間抜けヅラで寝てるショットに笑う。"大好きなちゃたろー"がこんなに悩んでるってのによ。平和な顔しやがって。 「シュート」 「んん」  鼻を摘むと鬱陶しそうに眉間にシワを寄せるのが面白くて、イタズラしてからから笑ってたらもっかい襲われた。

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