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家族編 第25話 もうすぐ40代だよ、俺

【もう40代だよ、俺】 ◆本編終了後 シュート35歳の年の春  最近、体力がもたない。"夜"の。 「ちゃた、すき……もっかいしたい」 「う……」  ぎゅうと抱きしめられて、まだまだ甘やかしてやりたい気持ちと反比例して体が限界を訴えている。 「はぁ、わり……も、ムリだ……」  グッタリしたまま「口でしてやるから」と言えば、ショットは少し考えた後に大人しく隣に寝転んできた。そのままシーツと一緒に抱き込まれて額にキスされる。 「どうした、まだ満足してねえだろ?」 「いい」  優しく頭を撫でられてむず痒いし、申し訳なくなる。 「ショット、ごめ……」 「いい」  謝ろうとしたら遮られた。 「……ちゃたとこうしてる。おれうれしいから」  そう言いながら頬を擦り寄せられてまんざらでもない。次からはなるべく体力を温存して、もっと満足させてやりたい。……なんて、いっつも同じように考えて全く実現できてねえんだけどさ。 「まじで懐かしいな。血まみれになってたのが」 「なに」 「……いいよ、こっちの話。それに懐かしいってのは別にまたアレがしたいってワケじゃねーからな」  自分で言いながらおかしくて笑うとショットは首を傾げながらも嬉しそうにしてる。こうして俺がほんのちょっと笑うだけで喜ぶんだから、ほんと安上がりで可愛いやつ。 「はぁ、シャワー浴びて寝るか」 「ん」  起こしてくれ、と甘えてみると張り切って抱き上げられた。 「うわ、おいっやめろよ、もう俺いい年なんだからさ」  ジタバタ逃げようともがいてもこのバカ力には敵わない。抱えられたまま顔中にキスされて笑う。 「はは、まじやめろ!こら、バカ!」 「んーすき」  幸いまだ下っ腹は出てきてねえけど、もう39になったんだ。いちゃいちゃしてはしゃぎ合う年齢じゃない。 「いつまで俺のこと若い頃みたいに可愛がるつもりだよ」  もしかしてお前の目には俺がまだ25の姿のままに見えてんの?と聞いてみるとフワリと微笑みかけられて思わず生唾を飲み込んだ。コイツほどじゃないけど、俺だって未だに大抵、その笑顔に弱いよな……。 「ちゃた何もかわってない」 「か……変わったよ!もう40代だぞ」  なかなか立派なモンだ。早く下ろせっつってんのにそのまま風呂場に連れて行かれる。 「なんだよ、そのまま体も洗ってくれんの?」 「うん」 「え、まじ?」 「まじ」  冗談のつもりだったんだけど、懇切丁寧に体の隅々まで洗われちまった。  ***  寝室に戻ってくる頃にはもう夜中の3時になってて、何がそんなに楽しいのやら、俺たちはくすくす笑いながらベッドに潜り込んだ。 「はあ、もうこんな時間じゃねえか」  ベタベタくっつく気分じゃないけど、毛布の中で素足を絡め合う。 「んん」  お互い目が覚めちまってまだ眠れそうになかったから、今日はどこで何してたんだ?と聞いてみると手を取って指を絡められた。 「クレイグ、いた」 「え、珍しいな?最近はスラムを離れてる時も多いのに。元気そうにしてたか?」 「……」  あんま興味ないのか返事する気が無さそうな態度で視線をどこかへ泳がせてる。 「なあ……ちゃんと見えてンのか?」 「なに」 「まじでビビったんだからな……あれから変なコトねえか?」 「うん」  その瞳の色が前より鮮やかじゃないような気がして覗き込んだ。考えすぎだろうか。それとも部屋が薄暗いせいかな。 「んー」 「なあ俺の目、見ろ」 「はずかしい」 「バカ何言ってんだお前」  不満げに唸りながら転がされて背中から抱き込まれた。たまに思い出したように意味不明なトコロで照れ出すのはちょっと面白い。 「なあ、これ分かるか?緑色」  今日のショットのシャツは深緑色だから、袖口を引っ張りながらそう教えてみた。 「お前が好きでよく選んでるのは赤色な」  それから空中に"茶"と書く。 「俺の名前の"茶"は俺の両親の国の言葉で、ブラウンって意味だよ」  で、俺の髪と目の色は……と続けるとショットが「みどり」と呟いた。 「……緑じゃねえよ?茶色だ」  いや、ほぼ黒だけど。光が強く当たると一応は茶色。 「むずかしい」 「難しいか」  ショットの目は青色だぞ、青色と緑のミックスなんだと教えてやると分かってんだかどうだか、ぎゅうぎゅうと抱きしめられる。  特に意味もないようなコトをそうしてグダグダ喋ってたらだんだん窓の外が明るくなってきた。 「やべ、もう朝になってきたな」 「ちゃたねむい?」 「いや……でもなんか目が覚めちまってさ」  振り返るとショットもパッチリ目を開いてて、まだ眠くないみたいだ。なんか今日は元気だな。 「……散歩でもするか?」  早朝散歩。そう言ってみると嬉しそうに起き上がる。 「する」 「まだ朝は冷えるから、上着着ろよ」 「ん」  こんな時間に揃って外をウロつくなんて、路上生活をしてた頃以来だな。なんとなくワクワクするような気持ちで上着の袖に腕を通してるとショットが甲斐甲斐しく靴を履かせてくれた。 「ありがとな」  さっきも抱き上げられたみたいに、こうして頼ったり甘えたりするとコイツがめちゃくちゃ喜ぶのを知ってる。だからガラじゃねえけど、最近は素直に頼るようにしてんだ。お返しに額にキスするとフンフンと鼻息を荒くして喜んでた。  静まり返る早朝のバラック群をただ静かに並んで歩いて、太陽が昇っていくのをぼんやりと眺めながら「こういう時間が堪らなく幸せだなあ」って年寄りくさいコトを思ったりした。

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