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家族編 第27話 今年も来年もその先も

【今年も来年もその先も】 ◆本編終了後 シュート33歳の年の年末  ちょうどショットが30歳になった年だったと思うんだけど、アイツが突然「生きてて良かった」って感じの事を聞かせてくれて……あの辺りからこっち、今までのコトが全部悪い夢だったみたいに、本当に毎日がふわふわと平和で幸せで、「こんなに幸せでいいのかなあ」なんて、いつかショットが思い悩んでたような事を考えたりするくらい、浮き足立つような気分で俺は生きてた。  そんな幸せな日ばっかりの思い出の中でも、特に鮮明に思い出せる日がいくつかある。例えばあれは……よく晴れてた年末のコトだったな。  ***  年末が近づいてきたってコトは、まずはクリスマスが先にやってくる。俺の両親はクリスチャンじゃねーし、ウチじゃどっちかというとクリスマスより年末年始の方が一大イベントって感じはしたけど……別に宗教に関係なく、家族に愛を伝える日だと思うのは悪くねえよな。  とはいえ今更ながら、シドニーにはせめてプレゼントくらい用意してやれば良かったな。クリスマスの無い幼少期を過ごさせちまったって後になって反省したりした。  俺はマメじゃねえから、気がついたら祝日なんて通り過ぎてるし、年が明けちまってんだよ。実家にいた頃は主に姉が取り仕切ってくれてたから、冬といえばサンクスギビングもクリスマスも年末年始も、なんとなくやってたのに。  ここに来てからは俺がやらなきゃ誰がやるんだって感じだしな。12月になったって別に街中がクリスマスらしく装飾されるわけでもねえから、まじで気付いたら終わってんだよ。 「……うわ!ってかクリスマス・イヴ今日じゃねーか!」  今日は俺がメシ作るよって宣言したから、何作ろうかなとか思いつつ買い出しに向かいながらスラムのビルの電光掲示板を見上げるとまさに今日がその12月24日だった。 「そーだよお!」 「ぎゃあ!」  単なるデケェ独り言のつもりが会話になってビビる。どっかのバラックの上からリディアとオーサーが降ってきた。 「だから私、きょーはお花屋さんしてるの!」 「だが悪いな、さっき最後の一本が売れてしまった所だ」 「あ、そ……」  今からケーキ屋に行って間に合うかなあ。こんな日は予約分しかねえんだろうか。ま、ダメ元で行ってみるか。  その後、俺はなんとか運良くケーキを入手する事ができて、大満足でそれを冷蔵庫に保管して、ちょっと豪華なメシも用意して、ショット早く帰って来ないかなぁ……と思いながらヒマ潰しにガラクタを弄ってた。  しばらくしてガタガタッと物音がしたから「帰ってきたな」と思いながらも、丁度イイ所だったから「おかえり」と声だけかけてすぐに振り返らなかったんだ。 「ちゃた」 「え……わっ」  そしたら視界に突然にゅっと何かが現れて、驚いて顔を上げると後ろに立ってるショットに抱きしめられた。 「な、あ?花?」  めちゃくちゃ間抜けな声が出たなと思いながら改めて視線を前に戻すとやっぱりそれは一本のバラだった。 「きょう……家族の日だって、リディア言った」 「え、あ、うん」  さっきから俺ずっとカタコトだな。だって、なんかすげぇ動揺しちまって……。 「あいしてるひとに、これわたすって」  そう言いながら右手にバラを持たされた。なんだ、なんなんだこの照れ臭すぎる状況。俺こういうの慣れてねぇんだよ。俺たちって、なんか、こういう感じだったっけ? 「……うん」  オーサーが言ってた最後の一本ってのは、コイツが買ったのかもな。てか、無理やり買わせたような気もする。茶太郎の笑顔が見れるぞ、とか言って。 「ちゃた、おれの……あいしてるひと」 「……」  何も言えないけど俺が嫌がってるワケじゃないのは分かってんのか、ぎゅうと抱きしめられて頬がジワジワ熱くなる。 「ちゃたといられて、うれしい」 「う、うん」  耳にキスされてゾクゾクする。そのまま舐められて情けない声が漏れそうだったから慌てて振り返った。 「ショ……ショット、メシにしよう!今日はそう、家族の日だからさ、ケーキもあるから」  このまま好きにさせてたらメシもケーキもすっ飛ばして"奥の部屋"に雪崩れ込んじまいそうだ。俺がらしくもなくドギマギして目が見れずにいたら顔を掴まれた。 「ちゃた」 「あ……後でな!今日は俺だって、お前にいろいろしてやりたいんだよ、だから、後でっ……」 「ちゃた、かおあつい」  それ以上まじまじ観察されるのが耐え切れなくて、いっそ俺から抱きついた。 「照れてんだよ!嬉しくて……。安心しろ、めちゃくちゃ、喜んでるから」 「……ん」  素直に気持ちを伝えると満足そうな返事が聞こえて、頭にキスされる。  それから、俺たちは俺なりにクリスマスっぽさを意識して作った晩メシとケーキを一緒に食べて、一緒にシャワーを浴びて、ドロドロに溶けるくらい甘い夜を過ごした。  *** 「なあ、今は年末っていう時期なんだ」 「……」  背中から抱きつくように頭を撫でられながら背後のショットに話しかける。 「んで、もうすぐ来年になる。新しい1年が始まるんだよ」 「……」  ゴソゴソ振り返ると正面から腰を抱き寄せられたから、たまには俺からもショットの首元に吸い付いてみる。右手にショットの指が絡められたから握り返した。 「明日も、そのまた明日も……その先もずっと明日が続いてくからさ」 「うん」 「……ずっと一緒にいような」  子供の口約束みたいなコト言ってんなと思ったけど、ショットが心底嬉しそうに「うん」と頷いてくれて、その右目がキラキラ輝いてたから俺も嬉しくなって、俺たちは抱きしめあって眠った。

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