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家族編 第28話 なんでも好きなの作ってやる
【なんでも好きなの作ってやる】
◆本編終了後 シュート35歳の年の冬
昼を過ぎてそろそろ夕方が近くなってるのにショットが起きてこない。さすがに寝すぎなんじゃないか?昨晩は一緒のタイミングでベッドに入ったはずだけどな。
寝室に行って様子を見つめてみるけど、スヤスヤと大人しく寝てる。
「おーい、最近やけに眠いんだな?」
「……んー」
そういえばこの頃は出かけてもすぐ帰って来てるような気もする。元々よく寝る奴だけど、それにしても寝てる姿ばっか目にしてるコトに気がついた。また風邪でも引いたのかと思って額に手を当てるが熱はないし、本人も平気そうだ。
「どうした、しんどいのか?」
「んん」
首を振るからひとまずホッとする。やっぱりただ眠いだけなんだな。まあそんな時もあるか。季節とかも関係あるのかなあ。
「……なあ、今日は俺がメシ作ってやるよ。だから早く元気になれ」
「へへ」
額にキスしてやると嬉しそうに目を細めるから、可愛いなと思って瞼にも頬にも口付けた。
「じゃあ何が食べたい?何でも好きなの食べさせてやる」
「……」
「あれ……ショット?」
また寝たみたいだ。今日は相当眠たいんだな……もしかして夜ちゃんと寝れてないんだろうか。寝る前にホットココアでも作ってやるか?なんて考えつつ、安心しきった寝顔に不覚にも癒される。
「……おやすみ」
ま、いいか。コイツが幸せそうに呑気に寝てる姿を見んの、割と好きなんだよな。
キッチンでモタモタと晩メシの準備をしてると玄関扉がノックされた。
「誰だ」
念のために腰のスタンガンを手にしつつ扉の横に立つ。
「茶太郎さん、クレイグです、久しぶりです」
「えっ、なんだ珍しいな」
久々に聞いた声に嬉しくなって、でもよく眠ってるショットが物音で起きちまわないよう、静かに鍵を開けた。
「どうした、まじで久しぶりじゃねえか」
奥でショットが寝てるんだ、と小さく言いながら廊下に出たらクレイグも声のボリュームを抑えてくれた。
「や、別になんて事もないんスけど、最近またずっとスラムを離れてたんで……茶太郎さん、元気にしてるかなって」
「なんだ、それだけの為にわざわざ寄って来てくれたのか?嬉しいよ」
この後もし時間あるなら一緒にメシ食っていかねえかと誘ったが丁寧に遠慮される。クレイグは未だにショットがちょっと怖いみたいだ。
「だから人畜無害な可愛いやつだってば」
「はいはい」
まじで顔を見せる為だけに来てくれたようで、またゆっくりメシでもしようなと約束をして、もう行くと言うクレイグをアパートの下まで見送ってからまた部屋に戻った。
***
さて、もうメシの支度が出来るって段階になってもまだショットは起きてこないから、こりゃいっそ寝過ぎて眠いパターンなんじゃねえかと思って無理やり起こしてみる事にした。
「ほら、メシにすんぞ」
「んん……」
念のために額や首筋に触れるがやっぱり熱は無さそうだ。
「寝過ぎてだるいんだよ、顔洗ったらスッキリするから」
そう言いながら背中を支えて立ち上がらせるとぼーっとした顔で裸足のままペタペタ歩き出した。まあ外に出かけるわけじゃねえしいいか。
「……」
「あ、おいっ?」
後を追って俺もリビングへ向かおうとしたらショットの体がフラッと傾いて壁にぶつかった。
「ショット!?」
慌てて手を伸ばしたけど支えきれず、一緒にズルズルと床に座り込んじまう。長時間ずっと寝てて急に立ち上がったせいか?
「大丈夫か?クラクラするのか?」
「んー……」
「ショット、お前……|浮腫《むく》んでるな……珍しい」
血の巡りが悪いのかな。やっぱり寝過ぎたんじゃないのか。
「手足は?だるいか?食欲は?」
「ちゃたの……ごはん、たべる」
「……うん、さっさと食べよう」
レモンがあるから水に絞ってやるよ、多少はマシになるかも。そう言うと床に座ったままショットは唇を尖らせた。
「ジュースがいい」
「え、ジュース?」
「……ドーナツも……たべたい」
珍しい具体的なリクエストに驚いた。モチロン好きなのは知ってるけど、こんな風に自分から欲しがるコトはなかなかない。
「うーん……甘いモンは|浮腫《むく》みの原因になるかもしれねえし、そもそも店閉まってる時間だし……また買って来てやるよ。ジュースは明日な」
「……」
「な?」
「ん」
なんでも好きなものを食べさせてやるって言ったのにごめんな、と言えばフルフルと首を振られた。
「立てるか?またフラつくと危ないから急に立つなよ、ゆっくりな」
そう言って肩を貸してやるとどさくさに紛れて横顔にキスされたから思わず笑った。
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