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おまけの小ネタ集
【おまけの小ネタ集】
◆幸せ期間、ありふれていた日常のひとコマ
01:噛みつき癖
02:寝癖
03:みつめ癖
04:甘やかし癖
05:かしげ癖
***
01:噛みつき癖
「いてっ!こら!」
「んん」
洗濯物を畳んでたらショットが抱きついてきて俺の首に吸いついてたんだけど、不意に歯を立てられた。
「はいもうダメだ、離れろ」
「なんで」
押し退けようとしたら不満げな声を漏らして抵抗するけど、どっちみちそろそろ買い物に行こうと思ってたから甘えん坊タイムは終了だ。
「ちょっと出かけるから」
ほら離れろ、ってもう少し力をこめると手を取って噛みつかれた。
「いでで、こら」
そう言いつつも無理やり引き抜こうとは思わない。コイツがしつこく噛み付いてくるのはただのクセの可能性もあるけど、甘えたい時だったり、ちょっと落ち込んでる時だったりするコトもあるから。
「そうしてると安心すんのか?」
「……」
「わかったよ、じゃあ3時までな。あと15分」
そう言って噛まれてもあんま痛くない右肘の辺りを差し出したけど、「ここ」と言って前腕に|齧《かじ》り付かれた。噛み心地に関するこだわりとかあんのか?
最近、ヤッてる時に興奮しすぎて血が出るほど噛みつかれるようなコトは無くなったものの、その代わりにこうして"俺を吸ったり噛んだりする時間"ってのが生まれた。
理由はよくわかんねぇけど、それでコイツが少しでも今日を元気に生きられるなら、まあ付き合ってやるかと思うわけだ。
「……なあ、もう4時になりますけど」
「まだ」
***
02:寝癖
ショットの金髪は柔らかくて、そのせいか寝癖がつきやすい。手で直すとすぐ戻るけど、たまにハネたままの頭で外から帰ってくるから、そんな時は「一日中それでウロウロしてたのかよ」と呆れながら直してやるんだ。
「たまには違う髪型も試してみるか?」
「なに」
いっつも同じ形で整えてるから、その日はふと好奇心で分け目を変えてみることにした。いつか俺の実家につれてった時にもこんな風に髪型を変えたりしたな、とほんのり思い出す。
「こう、オールバックにして……あとサングラスとかしたらアホほど似合いそうだなあ、お前」
でも髪を洗った後は必然的にオールバックになるから、この姿は見慣れててあんまり新鮮味はなかった。サングラスがあれば変わったかもしんねーけど、この家にはそんなモン無い。
「ほら、あとはセンター分けとか」
「んー」
ウザったそうな声を漏らしつつ、まだ我慢してくれるみたいだ。とはいえもうそろそろ「いや」って言って逃げちまうコトだろう。
「うーん……やっぱいつものが良いな。あの姿がしっくりくるよ」
あとはヒヨコのしっぽみたいな寝癖をつけて歩き回ってる姿もショットらしくてしっくりくる。散々勝手に人の髪を弄っておきながら、グシャグシャとかき乱してリセットした。
「自然体でいるのが一番だよな」
「……」
そう言って笑いかけると頬を擦り寄せられた。
***
03:みつめ癖
最初は簡単な野菜スープしか作れなかったショットが、今では俺好みのメシを作ってくれるまでに成長して、最近の俺の食生活の質は爆上がりしてる。美味いし、楽だし、なによりも嬉しい。
いつか、買い出しや洗濯を済ませて帰ったらショットがメシを作って待っててくれる……なんて想像をして「悪くないな」と呟いたあの時の妄想の生活が実現する日が来るなんて。
「ただいま」
「おかえり」
こんな会話をして、部屋に入ると良い香りがする。これ以上に幸せな瞬間があるかよ?
「あー愛してる……」
「ん」
さっそく食卓にサモサを用意してくれてる背中に抱きつきながら、らしくもなく愛の言葉を囁いたりして。何か作業中のショットは俺が何を話しかけてもあんま聞いてないのが面白い。
メシを食ってると横顔にひしひしと視線を感じてチラリと見るとショットがめちゃくちゃ見てた。
「……なんだよ?」
「なに」
見つめてた自覚がないのか、そっちこそなんだよ、と言いたげな反応だ。
「美味いよ、ありがとな」
「……」
そう伝えると少しだけ口をキュッと閉じるのが分かった。照れてんのか、嬉しいのか、そのどっちもか。
「明日も作ってくれるか?」
「うん」
明日はシドニーの大学入学関係の手続きでオーサーのトコに行って色々しなきゃならねえし、ショットのメシが待ってると思えば張り切って頑張れるってモンだ。
「ほら、お前も食えよ」
「……」
いつまで見てんだ、穴が開くだろと顔を押し返すと手のひらを舐められた。
「ぎゃあ!バカ!」
「んいー」
まだ俺を見つめ足りなかったみたいだけど、口元にサモサを持ってってやると空腹に気がついたのか素直に食べ始めた。
***
04:甘やかし癖
最近、夜は俺を起こさないようにしようっていう、ショットなりの気配りをなんとなく感じる。相変わらず生活音はガタガタうるさいけど。
でも俺はコイツが何かを感じてる時には自然と目が覚めちまうんだよな。それはもう、ずっと前からそうだ。
心が繋がってる……なんて言うと、ファンタジーすぎるか?
「……ん……」
んで、今またふと目が覚めたから必然的に「何かあったかな」って横を見た。そしたらショットはやっぱり起きてて、黙って俺を見てた。
もうここんトコずっと夜中に錯乱する事も泣き出す事もないから、あるとしたら単に眠れないか、不意に嬉しくなって俺に抱きつきたい……ってのが最有力候補かな。自分で言ってて何言ってんだと思うが。
「どうした」
ハグするか?と腕を広げると素直にくっついてきた。
「眠れないのか?」
「……」
背中をトントンと叩いてやると首元に頭を押しつけてくる。
「甘いモンでも飲むか?」
「……」
ん?と言いながら頭を撫でると小さく頷くのがわかった。
「あったかいココア作ってきてやるよ。すぐだからな、待ってろ」
深夜にこうして湯を沸かすのも、すっかり慣れたモンだ。ショットが眠れるまで"あの手紙"の内容を何回でも繰り返してやったり、頭を撫で続けてやることも。
甘やかしすぎてる自覚はある。でもいいんだ。ショットが俺だけにワガママを言って、甘えてくれること……それが俺の幸せなんだ。
***
05:かしげ癖
シドニーから荷物が送られてきたから開封してみると、中にはしばらく使わない私物と俺たちへのちょっとしたプレゼントが入ってた。
「……はは、これが|Chuto《チュータ》か」
聞いてた通り、あんまり可愛くないネズミのキャラクターが描かれたステッカーが現れて思わず笑う。さすがに左腕は千切れてはいない。
あと、"これなら父さんでも鳴らせるよ"ってメモと一緒にカズーって笛が入ってた。これは声を使って鳴らす小さな民族楽器だ。口に咥えて、普通に喋るみたいに声を出すとプワーっと抜けた音が出る。
「はは」
せっかくだからそれをプワプワ鳴らしながらシドニーの荷物を部屋に片付けてやってるとショットが帰ってきた。
「よお、おかえり」
「……」
「ああコレ?カズーっていう笛だよ」
うるさいからちょっとだけな、と言いながら聞かせてやると初めて聞く音なのか、不思議そうに首をかしげる。フルートの音を初めて聞いた時もこんな反応だったな。
「吹いてみるか?」
「いい」
でも興味はあるみたいだから、また吹いてやるとやっぱり首をかしげた。この変な動き、懐かしい。
「お前にはどんな風に聞こえてるんだろうな」
「なに」
「耳痛くないか?」
「ん」
そっと耳に触れると心地よさそうに目を細めるから、吸い寄せられるようにキスをした。
【小ネタ 終】
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