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番外編◆もしもの世界のBOX 4
【もしもの世界のBOX 4】
茶太郎(11歳) テッド(7歳)
俺の家からテッドの家までは車で送ってもらわないと行けない距離だから、そう簡単には会えない。来月、俺の12歳の誕生日にはウチでバースデーパーティーを予定してて、来てくれる約束をしてるから会えるんだけど……来月かぁ。
「……はぁ」
今日はまた家族でショッピングモールに来てる。でもテッドと出逢った所じゃなくて、家の近所のプロムナード。例によって俺はまた一人行動。買ってほしいものもないし、適当にメロンソーダを買ってベンチで飲んでた。
「はぁー……」
もうずっとテッドのことばっかり考えてる。この前はせっかく久しぶりに会えたのに、ご飯食べてケーキ食べて、これからプレゼントを開けて、たくさん遊ぼうってタイミングで帰ることになっちゃったんだから。
それに、最後に見たのが泣き顔だなんて最悪だ。だから余計にずっとずっと気になっちゃって。
「うー……」
会いたい。なんでこんなに会いたいんだろう。父さんも母さんも「もうすぐバースデーパーティーで会えるのに」って笑う。全然もうすぐじゃない。たまに電話はしてるけど、そんなんじゃ足りない。
そんな事を悶々と考えてたら目の前にイヤーマフを着けたテッドが現れたから、俺は夢を見てるのかと思った。
「……テッド……?」
「……」
「茶太郎くん!」
あ、テッドしか見えてなかったけどお父さんもいた。
「う……」
「わっ」
急に抱きつかれてメロンソーダを落としちゃったけど、どうでもいい。嫌がらないか様子を見ながら抱き上げて膝の上に座らせてあげた。
太ってるわけじゃないと思うけど、やっぱりテッドの体はモチモチしててポカポカしてる。小さい子ってみんなこうなのかな?
「茶太郎くんこんにちは、お買い物?」
「うん、たまたま……」
「重くない?」
「うん、全然」
なんだかまだ夢みたいで、気持ちが追いついてこない。でもテッドの小さい手が背中に回されて服をキュッと掴むのが分かって、じわじわ嬉しくなってきた。
「少し見ててもらえる?」
「うん」
そう言ってどこかに歩いて行くお父さんの背中をぼんやり見送って、俺はテッドに向き直った。
「テッドも……ここに来てたんだね」
しかもここ、テッドの家から遠いはずなのに。週末はよくプロムナードに行くって前に話したから、もしかして、わざわざこっちまで来てくれたのかな……考えすぎかな。
「……」
「俺のこと、見つけてくれたの?」
遅れて今更めちゃくちゃ嬉しくなってきて、ぎゅうっと抱きしめた。
「会いたかったよ」
「……」
「あれから泣いてない?」
「う」
そんな風に話してるとテッドのお父さんとお母さんが来て、ジュースのお詫びにランチを一緒にどう?って聞いてくれた。
「茶太郎くんのお父さんにも電話してきたよ、一緒にいるって伝えておいたから」
「じゃあ一緒に食べる」
テッドを抱っこしたまま立ち上がるとお母さんが手を伸ばしてきたけど「いいよ」と断った。
「大丈夫?」
「軽いよ、何キロなの?」
「今16キロだったかな」
俺の半分も無い。そりゃ軽いはずだ。
「へえ……ねえ、背は?」
「最近100cmを超えたの。前より色んな物を食べてくれるようになったし、きっとこれからどんどん大きくなるよ」
茶太郎くんに出会ってから元気になったみたい、なんて言われて照れる。
それにしても100cmって、1mってこと?すっごく小さく感じる。人間ってそんなに小さいんだ。でも赤ちゃんの時はきっと、俺ももっと小さかったんだよね。不思議な感じ。
「しばらく抱っこしてると重く感じてくるからね」
「えーほんと?」
疲れたら歩かせるか交代するからねって言われたけど、俺はレストランに着くまで3分くらいずっとテッドを抱っこして歩いた。確かに途中からものすごく腕が痛くなってきたけど、それより嬉しい気持ちが勝ってたから。
ご飯のあと、俺の家族と合流したら母さんも姉ちゃんも「この子かわいいね」ってテッドに興味持ってたけど当の本人はひたすら無関心だった。
「そうだ……あの日、テッド大丈夫だった?」
「うん、起きたらもう泣かなかったよ」
「プレゼントありがとうね」
好きなものがまだよくわからないって言うから、お昼寝用にブランケットをあげたんだけど、気に入って使ってくれてるらしい。
「あんたそんなに子ども好きだったっけ?」
「え?」
姉ちゃんに言われて、ずっと手を繋いでたことを思い出した。
「あ、うん……」
子どもっていうか……と思いつつ、言ったら面倒なことになるだけだから黙っておいた。
「父さん、もう帰る?」
「そうだな、食品売り場に寄ってから帰るよ」
「……」
もう少しだけ、いや……できるだけ長くテッドと一緒にいたい。でもうまく言い出せずに口ごもってるとテッドのお父さんが「ウチもまだ買わなきゃならないものがあるから、二人で待っててもらおうかな」と提案してくれた。
「いいの?」
「ああ、1階のカフェの前にある広場にいてくれる?」
「うん!」
つい勢いでテッドを抱っこしちゃったけど、もう慣れたようにすぐ首に腕を回して抱きやすくしてくれた。
「あんた子守りなんかできんの?」
そう言いながら姉ちゃんがテッドのほっぺに触ろうとしたから避けた。
「うっせーな、ついてくんなよ!」
「なんなの、言われなくても行かないし」
プレイエリアにはちょっとした遊具もある。人が少なかったら一緒にすべり台しよって言いながら、俺はウキウキで歩き出した。
エスカレーターに乗って父さんたちが見えなくなるとテッドの小さい口が首に吸い付いてくるのが分かった。
「ん?」
背中に回してた手を持ち上げて頭を撫でてみると軽く噛みつかれる。また思いっきり噛まれるかと思って少しだけ身構えたけど、全然痛くなかった。
「よしよし」
父さんはテッドが俺を噛むことを「甘えてる」って言ってた。もしそうなら特別に思ってくれてるみたいで正直うれしい。痛いのなんかどうでもいい。
広場について下ろしたけど遊びに行く様子はなくてじっと俺を見つめてるから、地面に膝をついて目線を合わせてみた。
「すべり台しない?」
「……」
「ほら、おいで」
立ってすべり台に向かいつつ手招きしてみると俺がどっか行っちゃうと思ったのか、急いで走ってきて手を掴まれる。
「どこも行かないよ、一緒に行こ」
何人か他にも小さい子がいたから列に並んで、一緒にすべり台をした後はベンチで休んだ。
こんな子ども向けのプレイエリアなんてすっかり卒業したハズなのに、なんだか俺の方がはしゃいじゃったな。
「ありがとう茶太郎くん」
ベンチでいつの間にかぼーっとして無意識にテッドと見つめ合ってたから、不意に話しかけられてビックリした。
「あっ……ううん、楽しかった。じゃあ、また来月だね」
寂しいけど、これ以上はワガママ言えない。
「ほら、帰ろうか」
「う」
早く大きくなって、自分で車が運転できるようになったら好きなだけテッドに会いに行けるのに。なんて……まだ3回しか会った事ないんだけど、俺はどうかしちゃったみたい。
「またね、テッド」
「……」
俺が別れを惜しんでる後ろで親たちは何か話してた。
「じゃあ来月、よろしくお願いします」
なんでか親同士のこういう会話を聞くのって妙に照れくさい。
また泣かないかなって心配だったけどテッドはお母さんに抱っこされてすぐ寝ちゃったから、起きないうちに俺たちは解散した。
「来月楽しみだね、ピニャータは本当に無しでいいの?」
「うん、そんなにパーティーっぽくしないでいいよ、風船も飾りもいらないし。みんなで集まってご飯できたらそれで」
「そんな地味なバースデーパーティーって、変なの!」
「うるせぇ」
姉ちゃんにアレコレ言われるのもめんどくさいし、まじで早く大人になって、親に頼る事なくテッドと二人で遊べるようになりたいって思った。
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