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番外編◆もしもの世界のBOX 6

【もしもの世界のBOX 6】 茶太郎(12) テッド(7)  テッドのおうちからのプレゼントはミニカーのディスプレイケースだった。欲しいミニカーはもう俺の父さん母さんが用意してるって聞いたから、それと合わせて飾れるように相談して選んでくれたんだって。  裏でそんなやり取りがされてたってことが照れくさくて、うれしい。 「ありがとう……部屋にかざってくる!」  サッと俺が立ち上がるとテッドもついてきたから、手を繋いで一緒に部屋に行った。 「うわあ、これサイコー」  さっそく棚の上に赤いカローラを入れたディスプレイケースを置く。微調整して、しっくりくるレイアウトになるまで夢中になってた。 「あれ……テッド?」  ふうと息をついて振り返るとテッドは俺のテントの中で寝てた。 「……」  さっきの出来事を思い出してちょっとドキドキしたけど、俺も隣に潜りこむ。  小さい頃に遊んでたテントは今の俺にはもう小さくて足が外にはみ出るけど、薄暗い空間になんだかホッとして、一緒になってウトウトしてきた。 「茶太郎?テッドくんそろそろ帰るって」 「……えー」  母さんの声に目を開けると扉が開かれて、仲良しねって笑われた。 「んん」 「テッド、帰る時間だってさ」  寝ぼけてるテッドと手を繋いでリビングに戻る。寂しいけど、あんまり遅くなるといけないから。 「今日は来てくれてありがとう、本当にうれしかったよ」  ドーナツは食べる時間がなくなっちゃったから、キャンディのお土産袋と一緒にプレゼントした。 「こちらこそ。また遊んであげてね」 「うん」  けっこう疲れたのか、テッドは車に乗せられてもぼんやりしてて、こっちを見なかった。 「テッド、またね」 「……ん」  それでも返事してくれたから、しつこくしないで見送った。  ***  昨日はうれしすぎて自分で思うより疲れてたのか、俺は晩ごはんの後すぐに寝ちゃった。起きてまず棚の上にある新しいディスプレイケースとミニカーを見つめる。 「……へへ」  顔がニヤけちゃう。 「母さん!テッドのおうちに電話してもいい!?」  そう言いながら階段を降りてリビングに行くと母さんが笑ってた。 「おはよう、こんな朝から?」 「うん、学校行く前にちょっとだけ」  プレゼントのお礼がしたいって言うと「迷惑にならないようにね」って言いながら電話をかけて渡してくれた。出るかな、話せるかな……って思いながら呼び出し音を聞く。 『……はい、茶太郎くん?』 「うん、おはよう!」 『おはよう、昨日はありがとうね』 「こちらこそ……本当にうれしかった」  テッドと話せる?と聞くと少しだけ間があってから謝られた。 『大したことないんだけどね、熱が出ちゃって』 「えっ……」  熱?さっきまでのうれしい気持ちが消え去って、電話を持つ手にイヤな汗がジワジワ出てくる。 『元気になったら電話するね』 「……昨日、疲れさせちゃったから?」 『大丈夫、はしゃぎすぎただけだよ』  とにかくお礼を伝えて電話を切った。 「……」  俺がバースデーパーティーに呼んだりしたから。テッド、苦しいのかな、泣いてないかな。 「どうしたの?」 「テッド、熱が出たんだって……」 「あら、心配ね」  こっちは真剣なのに、母さんは「小さい子はすぐ熱が出るんだから、そんな落ち込まないの」って軽く言う。 「ほら早く学校行く準備しなさい」  ***  もう授業なんかずっと右から左で、テッドのことが心配で、考えすぎてしんどくなってきた。それにテッドのことを考えてるとキスしちゃったことも思い出しちゃって。 「……うー……」  どうしよう、俺……なんか、変。なんか……。 「なあ何してんの?一緒に教室移動しようぜ」  クラスメイトに話しかけられて顔を上げるとビックリされた。 「おい茶太郎お前、熱あんじゃね?」 「え……」  顔が赤いよ、と手が当てられて、ヒヤリとした感覚にちょっとスッとした。 「……そう、かも」 「先生のとこ行こう、付き添ってやるから」  立ち上がるとクラッとした。風邪とかじゃないと思う、これは……知恵熱ってやつなのかな。それとも俺、テッドのことが好きすぎて、同じようになっちゃったのかな……。  ぼーっとしてるウチに気がついたら俺は|保健室《ヘルスオフィス》に連れて来られて、テキパキと熱を測られて、症状を確認されて、ベッドに寝かされた。 「連絡してきたよ。お母さんすぐ来てくれるからね」 「……はい……」  くらくらする。ただの知恵熱なのに、なんだかめちゃくちゃ心細くて、「早く迎えに来てほしい」だなんて、小さい子みたいなことを考える。  授業の開始ベルが鳴ってるのを、世界に取り残されたような気分で聞きながらベッドに潜り込んで目を閉じた。  そのうち寝ちゃってて、迎えに来てくれた母さんの車に乗り込んで「ごめん」と呟く。そしたら母さんは笑いながら車を発進させた。 「いくら仲良しだからって熱まで真似しなくてもいいのに」 「そんなんじゃない……」  今日はあんまり天気が良くなくて、窓から海を見てもなんだかどんよりしてて、水平線も曖昧だ。俺の今の気分をそのまま表してるみたい。 「俺……昨日、テッドとキスしちゃった」  まるで大罪を告白するような気持ちで海を見つめたままそう言うと、母さんはやっぱり笑ったまま「そうなの」としか言わなかった。

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