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番外編◆もしもの世界のBOX 9

【もしもの世界のBOX 9】 茶太郎(12) テッド(7) ▼ボールあそびをする話 「早く行こ!!」 「そんなに慌てたって、待ち合わせは11時なんだからね」 「はーやーく!」  今日はデルソーンパークでテッドと遊ぶ約束があって、俺は7時に目が覚めて、9時には出かける準備万端でジタバタしてた。  テッドと出会ってからバースデーパーティーをしたり、一緒に買い物をしたり、お互いの家でごはんをするようになって、最近はこうして公園であそぶことも増えた。だから大体1週間に1回は会えてる。それでも早く会いたくて。 「テッドも早めに来てるかも!」 「サッカーボールは?」 「いい。砂遊び用のスコップ持って行くから」  ナップサックの口を広げて中身を見せると「またそんな昔の引っ張り出してきたの」って笑われた。 「かたいボールでテッドがケガしたら大変だから」 「お兄ちゃんになっちゃって」  なんでか、俺はテッドの"お兄ちゃん"って言われるとうれしいようなイヤなような、変なきもちになる。 「大事にしてるだけだもん」 「からかったんじゃないわよ」  頭を撫でられて「ガキ扱いすんな」って振り解いた。もう俺12歳なんだから。  ***  母さんは俺を入り口の前で降ろして、買い物に出かけて行った。待ち合わせの芝生エリアに向かうと背の高いテッドのお父さんが木の近くに立ってるのが見えたから、手をふりながら走って行く。 「テッド、おはよ!」 「ん」  小さい体を抱き上げてほっぺにキスすると、同じようにキスし返してくれた。 「今日は何してあそぶ?」 「今日はボール持ってきたよ。な、テッド」 「ボール?」  そう聞くと降ろしてほしいみたいにテッドがモゾモゾ動いたからしゃがんで足をつけてあげる。そしたら草に足を取られながら歩いてって、少し離れた場所に落ちてる大きいゴムボールを拾い上げて戻ってきた。 「これ」 「これであそぶの?」 「……」  珍しくはりきってるみたいに見えて、口から勝手に「かわいいね」って言葉がこぼれでた。  テッドとゴムボールを転がしあってあそんでるとイヤーマフがズレちゃったから、直してあげてると不意にお父さんが何か思い出したみたいな声を出した。 「どうしたの?」 「車から飲み物を持ってくるよ。少しだけ二人で遊んでられる?」 「うん、わかった」  お父さんが駐車場に歩いて行くのをなんとなく見送ってから、またテッドとボールを転がしてあそぶことにした。  テッドの顔より大きいゴムボールは風に流されやすくて、思ったよりパスするのがむずかしい。 「大丈夫?」 「……」  横にそれちゃったボールを拾いに行くテッドの背中を見守る。転ばないかなって心配だけど、危なげない足取りだ。最近は家であそんでたりしてもこんな感じで、「あんた心配しすぎ、赤ちゃんじゃないんだから」って姉ちゃんにバカにされる。 「んっ」  気合いを入れてボールを転がす時にもれる声が可愛い。投げていいよって言ったけど、加減がむずかしくて俺の顔にぶつけちゃってから二度と投げなくなっちゃった。テッドって優しいんだろうな。 「あ……ごめん、待ってて」  なんて考えてたら受け止められなくて、風に流されたボールが俺の後ろの方に転がっちゃった。  そんな大した距離じゃなかったのに、ボールを拾って振り返るとテッドが見えなくて、血の気が引いた。 「……テッド?」  慌てて辺りを見回すけどいない。 「テッド、テッド!?」  どうしよう、なんで?あんなに素直で可愛いから誘拐されちゃった? 「テッド!!」  探さなきゃって走り出そうとしたら、近くの木の影にしゃがんでるテッドがいて、俺の大声がイヤだったのか耳をふさいでた。 「て……テッド、ここにいたの」 「んん」 「何か見てたの?」  その足元には木のウロがあって、虫でもいたのかもしれない。「大きい声を出してごめん」って言いながら俺はホッとして、涙が出てきちゃった。 「よかった……俺、テッドがいなくなっちゃったら、どうしようかと思った」  さっきの一瞬で色んなコトを想像した。テッドがこのまま見つからなくて、一生会えなくなるなんておそろしいコトまで。 「……う」  俺が泣いてると心配するみたいにテッドが寄ってきて、よじのぼってきたから抱っこすると涙を舐められた。 「わっ」 「……」 「テッド……」  もう大丈夫だよって言ったけど、俺が泣き止むまでずっとなぐさめられた。 「見えないところに行かないで」  そう言って抱きしめると、テッドも俺の首元にぎゅうってしてくれた。  ***  その後はお父さんが飲み物とランチボックスを持ってきてくれたから、みんなでピクニックを楽しんだ。それから芝生に寝転んでウトウトしてるとお父さんが腕時計を確認して荷物を片付けだした。 「そろそろ時間だね。帰ろうか」 「うん」  手を差し出したらテッドが握り返してくれる。どこにも行かないって言うみたいに、しっかりと。  駐車場に行くと俺の母さんの車がちょうど入ってきて、テッドにアニメキャラクターのキャンディをプレゼントしてた。 「じゃあまたね、テッド」 「う」  お父さんが車を出しに行ってる間、俺はそっとテッドを抱き上げて耳元でこっそり「大好きだよ」って言った。 「……ん」  そしたらテッドがほっぺをスリッてしてくれて、うれしかった。

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