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番外編◆初期構想の世界のBOX 8

【初期構想の世界のBOX 8】  工場での仕事が始まってからも俺は約束通り、金曜の夜から月曜の朝まで"アジト"で過ごす日々が続いてた。よくよく考えると、もうコイツらと出会ってから1年くらい経つんだな。  そんなある日、予告もなくアジトのキッチンがめちゃくちゃグレードアップされてたからビックリした。 「え……こ、これ、どうしたんだよ!?」  いつも通りシュートに纏わりつかれながら新しいシンクやガスコンロ、オーブンを見て回る。 「ちゃたろーのごはん、おいしいから!」  少し前に2階の奥の扉を開けるとガランとしたキッチンがあるコトを知って、先週コイツらの仕事終わりにオムレツを振る舞ってやった。それがどうも想像以上に喜ばれていたらしい。 「こんな、いいのかよ?」 「ああ」  まじで資金源はどうなってんだ?別に信用がなくて教えてくれないワケじゃなくて、オーサーは自分の背景を語る事に興味がないって感じだ。金ならある。それが事実だからいいだろう……と。 「まじかよ、だったらもっと本格的な材料買ってきたのに……」  俺は料理すンの好きだから、今週も作ってやろうと思って買い出しは済ませてきた。 「明日はなに作ってくれるの!?」 「炒めるだけのパッタイセットがあったから買ってきたよ。お前ら、香草とかスパイスいける?」 「よくわかんない!」 「はは、バカだな」  笑うとシュートが頬ずりしてきた。俺の笑い声には絶対にこうして反応するトコが可愛い。まあ、とりあえず作ってみよう。 「冷蔵庫もちゃんとあるじゃねえか」  それを見てハッとした。甘いモンが好きなシュートにデザートでも作ってやりたいなと。 「シュート、甘いモン食べたいか?」  話しかけると意味わかってンだかどうだか、目を細めて頬を舐められた。 「なあオーサー、ティラミス?とかのレシピ教えてくれよ」 「俺を便利な辞典みたいに扱うな」  そう言いながらもペラペラと材料から作り方まで教えてくれるオーサーはやっぱり優しい。 「待て待て、俺はお前みたいな記憶能力は持ってねぇんだからメモ取らせてくれ」  前にも"本を手に持って読む必要がない"って言った通り、コイツは|瞬間記憶《カメラアイ》の持ち主で、それを自在に使いこなしてる。  更に知識欲の権化みたいな奴だから、この世のありとあらゆる書物には大体目を通したと豪語してた。さすがにウソだろ。ウソだよな? 「それにしてもスイーツのレシピまで記憶してるとは」 「ふん、最終的には暇を持て余して遠い島国のローカル新聞にまで手を出した」 「それ読めるワケ?」 「まだ読めないが、言語取得は後からする。とりあえず"記憶"しておいた」  無茶苦茶だな。読めない言語の新聞記事さえ丸々写真で撮っておくみたいに脳内に保管してあるってコトだろ?  前にそういう話をした時「見える景色の全てが鮮明に記憶されるんだ。俺じゃなければ精神崩壊するだろうな」って言ってた。末恐ろしいガキ。  そうそう、"特殊能力"というと……シュートはどうも耳が異常に良いらしい。俺がスラムを歩いてると寄ってくるのも、足音で察知してるって教えられた。対するオーサーはその"瞬間記憶"に加えて、尋常じゃない視力を持ってる。 「この体がもっと大きい銃の反動に耐えられさえすれば、俺は世界で一番のスナイパーになれた」  なんてグチってたけど、今でも十分に銃の腕前が立つことは知ってる。 「……お前の目、壁の向こうまで見えンじゃねーの」 「性交渉のタイミングには気をつけろよ」 「よせ!バカ!」  ***  さて、そんなこんなで日が明けて土曜。  "射的"に行ってくると出て行った3人を見送ってしっかりと扉の鍵を閉めてから、いそいそとキッチンを覗く。今から取り掛かると早すぎるから下拵えだけして、作ンのはアイツらが帰ってきてからだな。  充実してる設備にワクワクして、食材を買い足しに行きたくて堪らない。けどひとりでウロつくのは禁止されてるから我慢した。   「……ふー」  そんなワケで俺の作業台で先週から作ってるこのアジトのジオラマをチマチマ進めてるとあっという間に時間が過ぎて、オーサーたちが帰ってきた。 「おうおかえり。今日は誰もケガしてねえな?」 「ただいまー!」  なにしてるの!?と覗き込んでくるリディアに「このアジトだよ」と見せてやる。シュートが引っ付いてきたから抱き止めて頭を撫でた。 「おっと……お疲れさま」  テレビのドキュメンタリーで昔助けたトラに再会して抱きつかれるおっさんの映像を見たけど、まさにああいう感じだなと笑う。 「すごーい」 「ああ、器用なものだな」  メシすぐ作れるぜ、と言えばオーサーは先に砂埃を落としてくる、と脱衣所に歩いてった。 「……なあ、シュートって耳が良いんだよな?」 「そうみたい」  ジオラマ作りで固まった体を伸ばしつつソファに座ろうとしたら当然のようにシュートの膝の上に乗せられて、頭頂部のニオイを嗅がれる。前は拒否してたハズなんだけど、今じゃこういう扱いに慣れちまった。 「耳、痛いんじゃねえのか?銃とか撃ったら」 「さあ?」 「……」  それだけ言って、何か続くのかと思ったのにリディアはニコニコしたままイスに座った。 「おい、『さあ?』で会話を終わらせんなよ」 「なあに?」  ダメだこりゃ。とりあえずメシの支度でもしてやるか。  全員が揃ったところで机にメシを並べてるとシュートも手伝ってくれた。リディアもコップを出してきて水を注いでくれる。 「はいちゃたろーの」 「ありがとな」  なんかこういうの、いいな。 「えへ、なんだか、おうち!かぞく!ってかんじ、するね!」  お前にもそういうの分かンの?と聞くとリディアは嬉しそうに頷いた。そりゃそうか、コイツも人の子なんだもんな。 「お前ら"ハシ"使うか?これヌードルだから」 「フォークでいい。正しいのはこっちだぞ」 「え!そうなのか!?」  俺の実家では麺類は当たり前に"ハシ"だったから知らなかった。なんて話しながらシュートの口元にパッタイを運ぶと「自分の手で食べさせろ」と怒られる。 「こういうのは食べにくいから仕方ないだろ」  口の端を拭いてやってると更に呆れた目で見られたけど気にしない。そのまま指を食われたから頭を撫でた。 「明日はもっと凝ったモン作ってやるからな」  朝、買い出しに行きたいから付き添いをリディアに頼むと快諾してくれた。  ***  この頃は夜、ベッドに入ってからランタンを消す前に軽く触れ合う時間を作るのが定番になってきた。まあ触れ合うって言っても、まだキスをしてハグをして、耳や首筋をくすぐりあう程度のこと。  とはいえ俺と肌を合わせることには大分慣れてきたみたいで、いつか弱ってた時みたいに、簡単にグラつくようなコトは無くなった。 「っふ……う」  だから今日も寝る前に抱き合ってキスしてるとシュートの熱い手がちょっと乱暴に後頭部に回されて……この求められてる感じ、正直悪い気はしない。 「ん、ん」  コイツにとってはキスもいつもみたいに俺の顔を舐める延長なんだろう。舌をくっつけ合わせても特に興奮しすぎる様子はないから、俺も安心して刺激を楽しめる。 「はぁ……そろそろ寝るか」  そう言いながらランタンに目を向けると不意に服に手が差し込まれてビビった。 「うわ、ちょっ……?」 「……」  そのまま肌の感触を確かめるみたいに触れられて思わずその手を掴む。 「待て、あっ、こら」  突然どうしたのかと思って焦ったけど取り乱してるワケでもなく、ただ熱のこもった瞳にじっと見つめられて生唾を飲み込んだ。 「……もっと触りたいのか?」  聞くと返事をするみたいに抱きすくめられて、首筋を舐められる。フーフーと荒っぽい息遣いが聞こえるからちょっと心配だったけど、まあこんくらいは仕方ねえよな。 「う、あ……待て、わかったから」 「……」 「あんま興奮しすぎンなよ。ヤバかったら強制終了させるからな」  また前みたいにビリビリに破かれちゃ困る。慌てて服を脱ぎ捨てると次々にあちこち噛みつかれて、ズボンもズリ下ろされた。 「いっ、いてえって、う……ん……っ」  そのまま腰にも吸い付いてくるから体が勝手に反応しちまう。ゆっくり教えようと思って、俺は理性を手放さないよう努めてるってのに。 「あ、あっ、こら、シュート」  下着越しに膨らみかけてるモンを嗅いでくるシュートの頭を押し返してもビクともしない。 「……あんま触んなっ……あ、やばいって」  俺の声に興奮してンのか止まりそうにないから、せめて一緒にと思って体を起こす。抵抗する気じゃないのが伝わったのか、腕を掴んで起き上がらせてくれた。 「はぁ、俺だけとか……恥ずかしい、から」  座って向かい合ってみるとシュートのも多分デカくなってる。なんかちょっと安心した。 「触っていいか?」  聞きながら手を伸ばす。嫌がらないから、そのままズボン越しに擦ってみると気持ちよさそうに眉が寄せられた。 「……直接触るぞ」  その姿を見てるとガマンできなくなってきて、ゆっくり……なんて言ってたくせに、俺はシュートのズボンに手を突っ込んだ。 「……っ」 「平気か?」  呼吸は乱れてるけど混乱してる感じじゃない。お互い素っ裸になってキスしながら触り合ってるとグッと腰を引かれてシュートの足の上に座らされた。 「はっ、あ、あっ……はぁ、やべ……」  首に噛みつかれながらお互いのモンを擦り合わせる。部屋の中には粘性の水音と呼吸の音だけが響いて、頭がクラクラした。 「っん、ぐっ……!」  そのままキツく歯が立てられたと思ったら押し倒されて、腰を押し付けるみたいに動くから犯されてるみたいな気分になる。 「あっ、あ、シュート、出そう……出るっ」  大したコトはしてねえってのに、この状況にめちゃくちゃ興奮して目の前がチカチカしてきて、目の前のシュートの首にしがみついた。 「あ、あ……!っう、く……っ!」  俺の情けねえ声にシュートも昂ったのか、耳元で唸り声がしたと思ったら腹の上にぶちまけられた。熱い。 「っふぅ……ふぅっ……」 「はっ……はぁ……はは、オーサーに見られてなかったかな……」  なんて言って笑いかけると抱きしめられて、シャワーで汗を流してから寝ようか、と俺たちはコソコソと2階へ向かった。

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