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番外編◆初期構想の世界のBOX 10

【初期構想の世界のBOX 10】 ▼水曜日の訪問  シュートは力が強い。リディアみたいな桁外れじゃねーけど、制御できてないって感じだ。だから混乱してる時は近付くなよってオーサーが言うんだよな。  それは分かってるけど、もしアイツにケガをさせられたとしても構わないから、辛い思いをさせたくないって気持ちの方が強いんだ。 「……ん?」  なんてぼんやりと考えながらコーヒーを飲んでた仕事の休憩時間、スマホの通知を確認するとオーサーからメールが入ってた。最近は俺がちょっとしたコトで無闇に騒がないよう、何かあると簡潔なメールを入れておいてくれるようになった。 『風邪気味』 「……」  まじで簡潔だけど、シュートが風邪気味だってコトだろう。それだけしか書いてないから、『来るかどうかはお前に任せる』の意味だな。重症なら『高熱』とか『|ASAP《As Soon As Possible》(可能な限り早く)』とか書くだろうし。  俺の渡したプリペイド携帯は安物で音声入力がねえから、文字を打つ手間を極限まで省いたこんな電報みたいなメールが届く。オーサーの経済力があれば何台でも持てるだろって正直思うけど、意外と機能が削ぎ落とされたアレを気に入って使ってるみたいだ。変なヤツ。  今夜行く、時間がわかれば連絡するって返信して画面を閉じた。まだ水曜だけど、風邪気味だなんて聞いて放っとけるハズもない。今の仕事ならアジトからでも無理なく通えるし、こうして何かあれば平日でも泊まりに行くようになってた。  ***  迎えに来てくれたリディアにシュートの様子を聞くと「ちゃたろーのこと、おむかえに行こうとするから、まっててって言ったよ」って笑う。まあそんくらいの元気があるならよかった。 「シュート」  アジトに着いて地下に続く階段を降りてくとシュートが待ってて、ぎゅうぎゅう抱きつかれた。首や頬に触れると確かにいつも以上に熱い気がする。 「水は飲んでんのか?」 「ごはんも食べたよ」 「そうかそうか」  大人しく寝ような、と寝室に入ったら素直についてきた。 「おやすみ!あしたは朝からおしごと?」 「おう、悪いけど付き添い頼む」 「いいよ!じゃあまたあしたね!」 「おやすみ」  オーサーはもう寝てんのか、興味がないのか、顔を見せなかった。リディアが自分の寝室に行くのを見送ってから扉を閉じる。振り返るとシュートはランタンの明かりの中でゴソゴソと寝床を整えてくれてた。 「なあコレもう捨てようぜ」  コレってのは前冬の終わりにもう着ないからそのうち捨てるつもりでここに置いてた俺のカーディガンだ。気がついたらシュートが寝室に持ち込んでて、どうも最近ずっと一緒に寝てるらしい。  なんかボロボロだし、あんま綺麗じゃないからコレの上で寝たくない。とりあえず回収しようとしても捨てたくないのか握りしめて抵抗された。 「じゃあ次は俺の枕とか持ってくるよ。ほら、ここ枕ねえしさ」  だからこれは捨てようって言っても離さない。なんだよ、俺より服の方がいいのかよ。 「……まあいいか」  もういいや。仕事で疲れてるし、コイツも体調悪いんだし、押し問答する気もない。  隣に潜り込んだら抱きつかれて、頬を寄せてくるから応えてキスした。 「な、風邪なんか俺に|感染《うつ》しちまえよ。そうしたら明日には熱も下がってるからな」  今夜は心配で熟睡できそうにない。きっと俺は30分ごとに目を覚ましてはシュートの熱が上がってねえか、呼吸がおかしくないか確認しながら過ごすんだ。  でもそれでいい。そりゃ元気でいてくれるのが一番だけど、こうして調子悪い時にはせめてそばにいてやれるコトが嬉しい。オーサーが遠慮なくなんでも教えてくれるようになったから、連絡のない日は安心して眠れるし。 「おやすみ」  甘えるみたいに指を絡めてくるから、俺たちは手を繋いだまま眠った。

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