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番外編◆もしもの世界のBOX 12

【もしもの世界のBOX 12】 茶太郎(14) テッド(9) ▼ケンカしちゃう話  冬休みのある日、今日は俺の家の近くのプロムナードでテッドの家族と合流して、二人でぶらぶら色んな店を見て回ってた。でも朝はごきげんって感じだったのに、今はなんだかちょっとムスッとしてるように見える。 「テッド?ちょっと寒い?」 「……」 「ちがう?」  こんなこと初めてで、どうしたらいいのかわからない。しばらく様子を見てたけど、やっぱり変。 「どうかした?」 「……」  立ち止まってしつこく声をかけるとふいと顔ごと視線をそらされてショックだった。知らないうちに俺が何かしちゃったのかな。 「ねえ、テッド」  理由もわからないのに謝るのはきっと違うし、様子を確認したくてそっと手を伸ばすと「いや」って言われた。 「い、いやって……なんで?」  気になる店でもあった?戻る?って聞いてもいや。抱っこしようかって聞いてもいや。なんでだろう、何がイヤなんだろう。 「俺が何かしちゃった?」 「……」  もしかして、帰りたいのかな。俺と一緒にいるの、飽きちゃったのかな。何を聞いても返事をしてくれないから、だんだん悲しくなってきた。 「……今日は、もう……帰る?」  お母さん呼ぼうかって携帯を取り出したらバシッと手に衝撃が走った。テッドが俺の手を叩いたみたいだ。いや、手というか携帯を。 「わ、え……っ、テッド!?」  地面に落ちた携帯を反射的に拾おうとしたけど、テッドの様子が変だから咄嗟にもう片方の手で腕を掴んだ。 「だめだよ、ひとりでどっか行っちゃ」  でもうーうー唸りながら抵抗されて、思いっきり振り解かれた。 「ちゃたいや!」 「うわっ!」  言われた言葉に傷ついたけど、今はそれどころじゃない。見失っちゃまずい。 「テッド、待って!」  体は小さいし普段は何をしてもゆっくりなのに、本気で走るとテッドは足が速い。俺の方が5歳も歳上なのに、本気で追いかけるしかなかった。 「階段があるから!テッド!」  とにかく捕まえなきゃ。半分タックルみたいな勢いで抱きついて、二人揃って階段のすぐ近くに倒れ込んだ。テッドの頭からイヤーマフが外れて床に転がる。 「う……っ、テッド、だめだよ!危ないから!」  グイッと顔を押し返されたけど、掴んだ手だけは絶対に離さないよう強く握り込む。 「なんで?急にいやいやって……わかんないよ!」  何か怒らせるようなことをした覚えもない。いつだってテッドが大事で、大好きで、テッドのことを思ってるのに。「ちゃたいや」なんて言われて……泣きたくなる。 「はぁ……テッド?」  ふと気がついたら、さっきまで俺の腕の中で怒って暴れてたハズのテッドがぐったりしてた。 「テッド、テッド?」  息が荒くて、目がとろんとしてる。テッドはいっつもポカポカしてるけど、それにしても頬も首も熱すぎる。熱だ。 「テッド、しっかりして」 「う、う」  慌てて頭を支えて抱き上げると、力の入ってない体はいつもよりズッシリ重く感じた。 「どうしよう……」  近くにあった空いてるベンチにテッドを寝かせて、すぐに親とテッドのお母さんたちに連絡する。 「すぐ来てくれるって。怒ってごめん……しんどかったんだね」  親切な人がイヤーマフを拾って来てくれた。 「テッド、マフ着ける?」  ぼんやりして反応は無いけど、なんとなくイヤそうに見えたからテッドの頭を抱き抱えるようにして耳をふさいで、親たちが来てくれるのを待った。  ***  しばらくして迎えに来てくれたお母さんに抱っこされても、テッドは俺の手を離そうとしなかったから、ひとまず一緒に車まで行くことになった。 「じゃあ俺行くよ。早く帰って、あったかくして寝て」  後部座席にテッドを寝転がらせて、心配だけど早く帰らせなきゃって思って、繋がれてる手を離そうとしたら必死にしがみつかれてビックリした。 「テッド?」  顔を見たらぐしゃぐしゃに泣いてて、俺と離れるのが寂しいのかなって思ったけど、今まで聞いたことない大声で泣き始めたからお母さんたちも何事かと覗き込んできた。 「テッド、どうしたの?しんどい?」  しゃくり上げながら何か言ってるからよく聞いてみると「ちゃたいやじゃない」って一生懸命に繰り返してた。さっき俺に向かって「いや」って言っちゃったから、俺が怒ってると思ったみたいだ。 「大丈夫?私が抱っこしようか」  心配したお母さんが反対側のドアからテッドを抱き上げて手が離れかけた。 「あ、待って!」 「ちゃた、ちゃたっ!ちゃたぁ!!」  離れたら俺と二度と会えなくなるとでも思ってるのか、パニックになって泣き叫ぶから駐車場内に声が響いて視線が集まる。すぐ手を伸ばすと力いっぱいしがみつかれて爪が食い込んだ。 「ひっ、ひ、うっ」 「テッド、怒ってないよ」  泣きすぎて息がひきつってる。落ち着かせなきゃ。俺がテッドから離れるつもりなんかないって分かってほしいけど、熱もあるから余計に不安なのかも。 「……このまま一緒におうちに行ってもいい?」 「でも、風邪がうつっちゃったら……」 「いいよ!冬休みだし!」  今のテッドと離れ離れになるのは心配だった。うちの親に確認するって言って車を離れたお母さんを見送って、後部座席に戻る。 「う、う……」 「ずっと一緒にいるから、泣かないでいいよ」  一緒にいる、離れないって繰り返してると少しずつ落ち着いてきたみたいだけど、小さい肩がずっとひくひく痙攣してて痛々しかった。  ***  それからテッドの体調と気持ちが落ち着くまで俺はお泊まりさせてもらえることになったんだけど、トイレに行くだけでも不安そうにするから大変だった。  3日目の今日はもうだいぶ落ち着いたけど、俺に「いや」って言っちゃったことをずっと後悔してるのか、絵本を読んでてもご飯を食べてても急に泣き出したりする。  だから俺は「仲直りとこれからもずっと一緒の証」として着てたパーカーをあげた。俺の匂いがするモノがあれば、安心できるかなと思ったし。 「テッド、俺そろそろ帰らなきゃだけど、いっつも大好きだからね」 「……ん」  もし"恋人"だったら、こんな風にちょっとケンカしたくらいでこんなに不安にさせないで済むのかな。大人になっても好きでいてくれたら恋人になろうねって約束してるけど、今すぐなりたいって思った。でもテッドはまだ10歳にもなってないんだし、そんなのきっと早すぎる。 「大好きだよ」  だからせめて、ほっぺにも手にも何回もキスした。大好きなんだってことがちゃんと伝わるように。

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