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番外編◆初期構想の世界のBOX 12
【初期構想の世界のBOX 12】
▼静かな存在感
シュートとスラムを散歩してると、結構話しかけられるコトが多い。
「よおシュート、ケバブ食うか?」
ここらはガラは悪いけど、気は悪くないヤツらが多い。反応は薄いけど素直で穏やかなシュートは意外と可愛がられてるらしい。
「ほら、茶太郎の分も」
「ありがとな。お代は?」
「いいよ、持っていけ」
まあコイツらが普段から転がり込んできた犯罪者を始末して治安維持に一役買ってるコトも、受け入れられてる要因なのかも。
「ちゃんと持てよ」
そう言いながらケバブを差し出されて、シュートは黙って受け取ってた。
「じゃあ噴水のトコで食うか」
改めて礼を伝えてから噴水広場の方に足を向ける。
噴水広場なんて言ったって水は枯れてるし、芝生も枯れてるし、地面のコンクリートもレンガもボロボロだし、壁はラクガキだらけ。心休まる場所ってワケじゃない。
まあでもなんとなく広場って感じがするから、やっぱ落ち着いて腰を下ろすってなるとここに来るコトが多い。
「さて、食うか」
噴水の淵に腰掛けて香ばしいチキンに齧り付くとシュートも隣に座って食べ始める。
「食ったらアジトに戻って、メシの準備するか。俺、来週末は日曜しか来れねえからさ……冷凍保存できる美味いモン、作り置きしておいてやるからな」
そう言いながらシュートの方を見ると急にズイッと顔が近付いてきてビビった。
「な、なに……わっ」
周囲に人はいないとはいえ、こんな往来でキスするつもりかと慌てた。けど、鼻の頭をペロリと舐められただけだった。いや、"だけ"じゃねえけど。
「……なんか付いてたか?ソース?」
聞いてもフイと視線を逸らされちまって、シュートは自分の分をモソモソと食べ進めてく。でも多分、なんか付いてたのかも。
「はは、いつもと逆だな」
お前に世話されちまう日が来るとは……と笑えばチラリと目だけでこっちを見て、座る位置を近付けてピッタリくっついてきた。もう既に肩が当たってるってのに。
「あんま押すなよ、落ちるだろ」
ほとんど同時に食べ終えたからゴミをポケットに突っ込んで、そろそろ帰ろうかと立ち上がる。そしたら近くのバラックの上からリディアが飛び降りてきた。
「シュート、ちゃたろー!」
「おう、どっか行ってたのか?」
「おさんぽしてた!帰るの?いっしょに帰ろ!」
晩メシが何なのか聞くから「玉ねぎ丸ごとスープとドリア」って答えたけど、聞いときながら興味なくなったのか道端の花を見てた。
「摘んで帰るか?」
「いいの!お花はそこにあるのがいいから」
「良いコト言うじゃねえか」
リディアってたまにこういう発言をする。家族と仲良く暮らしてた時期もあるっぽいし、なんでスラムにいるんだろうな。まあ人間生きてりゃいろんなコトがあるか。
***
アジトに戻ってメシを作ってると圧を感じたからキッチンの入り口に視線をやる。リディアとシュートが揃って覗き込んでた。
「なんだよ、あっちで遊んでろ」
まだ出来ねえからって言ってもじーっと見てくる。
「……面白いか?」
「えへ、うん!」
大人しくしててもなんかうるさいんだよな、コイツら。なんていうか、存在が。
「リンゴ食べるか?」
「うん」
両手に切ったリンゴのピースをひとつずつ持ってそれぞれの口元に持って行くと食べる。
「小鳥にエサでもやってるみたいだな」
「ねえちゃたろーもあそぼ!」
「メシ作ってんだって」
メシ抜きでもいいのか?って言ったらようやく二人ともどっか行った。というか、リディアがシュートを引っ張ってった。
スープの味見をしながら、あいつら普段なにして"あそんで"んだろうなって考える。退屈してンなら、今度トランプでも持って来てやるか。|ババ抜き《Old Maid》くらいならできるだろ。
3階で仕事をしてるらしいオーサーから『水』ってメールが入ったから、俺は召使かって文句言いながらご所望の品を持って行った。
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