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番外編◆初期構想の世界のBOX 13
【初期構想の世界のBOX 13】
▼心の傷痕
工場での仕事中、頭上で突然ガタガタ派手な音がして反射的に頭を庇った。「危ない!!」って叫び声も聞こえたけど、咄嗟のことで体が動かなかった。
「うわっ!」
バチッと何かが左の頬と首筋に当たって、左肩にガツッと衝撃が走る。状況が飲み込めなくて目を白黒させてたら同僚に抱き起こされた。
「茶太郎、大丈夫か!?」
「ああ、死んではない」
あちこち痛くてどうなってんのか分かんねえ。左腕に触れると血がついた。
「誰かすぐ車出せるか?病院連れて行くぞ」
「え、俺そんなヤバい?」
「割とヤバい」
とりあえず立てるから自分の足で社用車まで歩いて、俺は病院に連れ込まれた。
***
どうも撤去予定だった古い機材のビスだけが外されてて、そいつが真横に降ってきたらしい。危うく300kg近くある機械の下敷きになって死ぬトコだった。
千切れたワイヤーにしばかれた頬と首は見事な青あざになって、機材の角がぶつかった左肩から肘にかけては裂傷になってたから縫い合わせるコトになった。
工場に電話をかけて労災使えるか聞いてみたけど「知らねえ、社長に聞けよ」って言われた。腕の骨も折れてたから、しばらく仕事は休みだな。
「……はぁ……」
参った。こんな姿を見せたらシュートがまた不安定になんじゃねえか。顔の腫れが引くまでは会いに行くのを控えるか……って考えたけど、とりあえず電話してみることにした。
オーサーに預けてる携帯に電話すると留守電だったから、ケガしちまったコトと折り返して欲しいってことをメッセージしておく。仕事してんのかな。
メシを済ませて痛み止めでぼーっとしてると電話が鳴ったから応答する。
「おう、悪いな」
『どの程度の怪我だ?』
「左腕が折れたのと、あと顔面が腫れてるから、シュートが見たら気にするかなって」
『代わるか』
「ああ」
スピーカーモードにして机に置いてくれたらしい。ゴトッて音がして、少し離れた位置で「茶太郎だ」って言ってんのが聞こえた。
『……』
「あのさ、シュート……全然心配ねえんだけど、今日、実は仕事中にケガしちまって」
心配ねえんだけどな!と念押しする。
「でも顔がさ、腫れてるから、言っとかねえとビックリするかなって思ってよ」
今週末はまだアザになってるかも、でも心配すんなよって何回も言い聞かせた。
『生活は問題なさそうか』
「おう、右利きだからメシも食えるし、大丈夫だよ」
『何か必要な物があれば連絡しろ』
電話の向こうでリディアが「ちゃたろーケガしたの?腕とれちゃったの?」とか騒いでるのが聞こえてくる。あんま不安を煽らせんなよってオーサーに頼んで通話を切った。
さて、とはいえしばらく片手生活になると不便なのは事実だし、明日は数日分の食材でも買い込んで週末まで引きこもり生活としけこむか。
***
そんなこんなでまだ顔と首にアザは残ってるけど、週末はシュートに会いに行くことにした。そしたら今日は全員で待ってくれてて嬉しかった。
「ちゃたろー!」
「よお、みんなで来てくれたのか」
重症に見えそうだったから、左腕はギブスだけで首から吊るさずに来た。こっちケガしてるから触んなよってリディアに言うと「なんで?」って聞いてくるから不安だ。
「確かに酷い顔だな」
「放っとけ」
痛みと不便な養生生活で溜まった鬱憤もシュートの顔を見ると癒される。心配そうに頬のアザに触れられて、「ケガしてごめんな」って謎の謝罪をした。
「おい、荷物持ってやれ」
「はあい」
「ありがとな」
我ながら不謹慎ではあるけど、なんか"こういうの"自体は悪くないなって思っちまう。
でもその夜、シャワーを浴びようとしてシャツを脱ぐとシュートが俺の左腕の傷とギブスを目の当たりにして固まっちまった。
「見た目ほど酷くねえから、心配すんなよ」
そう言ったのに、悲しそうな顔をする。
「シュート、大丈夫だってば」
手を握って言い聞かせると抱きしめられた。左腕の傷が痛いけど、やめろとは言えない。
「う……」
首のアザに舌が這って、軽く歯を立てられる。
「……シュート、なに……」
もしかして、怒ってんのか?そう聞くとグッと腰を抱き寄せられた。そのまま首を噛む力が強くなって、息が苦しくなる。
「い、いてぇって……」
それでも抵抗せずにいるとリディアに肩車されたオーサーが脱衣所に来て「よせ、怪我人だぞ」と言いながらレードルでシュートの頭を叩いた。
「こら、叩くな!」
「お前も多少は抵抗しろ、馬鹿が」
怒られて冷静になったのか、シュートは俺から離れてリディアに手を引かれてリビングに帰ってった。
ああいう反応は初めて見たな。やっぱり怒ってた気がする。ネガティブな反応とはいえ、シュートの内面が表出したコトがちょっと嬉しい。
それからケガがすっかり良くなるまでシュートに首筋に吸いつかれまくるのが習慣になって、俺の首はしばらくアザなんだか噛み跡なんだかわからねえような状態になった。
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