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番外編◆初期構想の世界のBOX 14
【初期構想の世界のBOX 14】
▼体型管理も保護者の仕事
今週はマフィンってヤツを手作りしてやるからなって薄力粉と砂糖や耐熱カップなんかを用意してアジトにやってきた。バターの箱を開けてるとシュートが手元を覗き込んできたから見せてやる。
「これをな、全部混ぜて焼くだけなんだ。甘いからお前好きだと思うよ」
目線が合うと頬を擦り寄せてきたから、頭を撫でた。
でも、出来上がったマフィンを皿に並べて紅茶を淹れながらリディアとオーサーにも声をかけたら、オーサーがわざわざキッチンに来て何か言いたげに見つめてきた。
「ん、なんだよ?マフィン嫌いか?」
「ひとり1つにしておけ」
そう言われて、手に持った皿の上のマフィンを見る。シュートとリディアに3個ずつ、オーサーは1個でいいかなと思ったから、全部で7個ある。
「なんでだよ?」
「太ったぞ。あの馬鹿」
「え!!」
そう言われてみるとそんな気がしてきて、テーブルに大人しく座ってるシュートをキッチンから覗き見た。確かに、初めて会った頃と比べると少し顔が丸くなったような。
「……で、でも、健康そうで良いんじゃ」
「正しい食生活による体重増加ならともかく、お前は甘いものを与えすぎだ」
「甘いモン食べてる時のアイツ、可愛いんだよ……」
「目が腐ってるんじゃないのか」
糖分の摂りすぎは不眠や頭痛に繋がる。お前はシュートをその手で苦しめたいのか?なんて脅されてぐうの音も出ない。
「わかったよ、じゃあ2個……」
「妥協点を探すな」
「だって大体こういうのはいっつも3個用意してるから、今日から急に1個ってのもよ!」
なんて揉めてるとリディアが来て皿を持ってっちまった。
「あ、ちょ……」
そのままいつもの流れでそれぞれの皿に配当しちまうから、時すでに遅し。
「おい待て。今日からひとり1つだ」
「えーっ!なんでなんで!」
怪力のリディアはエネルギー消費率が高いのか体型に変化は無さそうだけど、オーサーは「全員だ」と言い放ってそれぞれの皿から2個マフィンを取り上げた。
「やだ!!」
「じゃあ今日は1.5個にして、残りは明日にしようぜ」
そう提案しながらリディアとシュートの皿にナイフで半分に切ったマフィンを追加する。明日はプリンの予定だったけど、こりゃ中止だな。
「シュート、ゆっくり食えよ」
そうは言ってもいっつもデカい口でバクバク食っちまうのを知ってるから、手で千切りながら少しずつ食べさせた。
「甘い飲み物もしばらくは禁止だ」
オーサーの言葉に二人とも目に見えてシュンとしてる……ように見える。
「あんま厳しくしねぇでやってくれよ、運動量を増やせばいいだろ?」
「運動なら充分にしている。その上で太ったんだと言ってるんだ」
「え!私ふとっちゃった?」
「いや、その……シュートがさ」
そう言うとリディアはパッとシュートを見て、ケラケラ笑い出した。
「ほんと!シュートの顔、ちょっと丸いかんじだね!」
「うっ……やっぱそうなのか」
特に前のシュートはちょっとげっそりしてたくらい顎のラインがシュッとしてたから、その頃の姿を見慣れてるオーサーたちには変化が顕著に感じられるんだろう。
「俺からしたら、健康的にふっくらしてて良いと思うぞ」
お前らあんまり「太った太った」言うなよな、と文句を言うとオーサーが呆れたようにため息を吐く。
「甘やかすなよ」
「にきびできちゃうよ」
リディアがそう言いながら横顔をじっと見つめると、視線がイヤだったのかシュートはガタッと立ち上がってソファの方へ行っちまった。
「あっ、シュート、もう食べないのか?」
「その方がいい」
「じゃあ私のこったの食べる!」
後ろで呑気に喋ってる二人をジロッと睨んでシュートの背中を追いかける。
「ごめんな、俺のせいで」
あいつらイジワルだよな、って話しかけてるとオーサーの背中が呆れてるオーラを放ってたけど、知るか。
一緒の空間にいるとまた絡まれるから、三階の俺たちの部屋でソファに並んで座って「お前がどんな体型になっても好きだからな」って言い聞かせた。
とはいえ不健康なのは良くないから、気を付けようとは思う。シュートは出したモンはなんでも好き嫌いせずに全部食っちまうし、俺が量を気にしといてやらねえとな。
「後で機嫌治ったらジュース出してやるよ。マフィン食べ損なった分な。オーサーには内緒で。な」
そしたらこっちをじっと見つめてたシュートが珍しくニコッと微笑んだから、俺はもう見事に"やられ"ちまって、ソファに倒れ込んだ。
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