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番外編◆初期構想の世界のBOX 15

【初期構想の世界のBOX 15】 ▼寝不足の代償  イライラする。別に何かあったってワケでもないのに、うまく気持ちが切り替えられない。俺はストレスに強い自覚があるけど、たまにはこんな日もある。まあ多分、疲れとか天気とか、バイオリズムっていうのか、そういうのが重なってるんだろう。  そう自己認識してみても、腹の中がモヤモヤして些細な出来事がチクチクと気になっちまうのはもう仕方がねえ。 「あー、くそ……」  買い直したスクーターのガソリンが切れそうで、寄ろうと思ったガソリンスタンドが臨時休業だったコトにも無性にむしゃくしゃする。早くシュートの顔を見て癒されたいってのに。  わざわざ遠回りしてセルフ給油を済ませてから、腹立ち紛れに地面に落ちてた缶を蹴り飛ばした。  *** 「あ!シュートもう食べちゃったの?」  アジトに着いてからも、いつもは微笑ましく思うリディアのデカい声にまでイラついちまう。俺、結構疲れてんのかもな。気晴らしになるかと思ったジオラマ作りを中断して、ソファに座り込んだ。 「食い終わったか?皿はシンクに置いとけよ」 「いいよ、洗うよ!」 「ありがとな……」  コイツらはただいつも通りに振る舞ってるだけなのに、こんな風に感じてなんか悪いな。自己嫌悪も上乗せされて、更に気分は最悪だ。 「悪い、ちょっと寝てくる」  このまま一緒にリビングにいると、理不尽な文句が口をついて出そうだと思った。階段を降りようとしたらシュートが当然のようについてくるから、「リディアと遊んでろ」って言ったけどついてくる。 「……な、まだ寝る時間じゃねえだろ?俺もすぐ戻るからさ。ちょっとだけ一人にしてくれ」  ちょっと突き放すような言い方になっちまったなって心配したけど、シュートはきょとんとしてリビングの中に戻ってった。 「ごめんな、その、疲れててさ」  言い訳みたいにその背中に声をかけたけど、リディアに誘われて二人で遊ぶみたいだからホッとして地下へ向かった。  ***  スッキリした気分で目が覚めた。疲れっていうか、寝不足だったのかな。どれくらい寝ちまったんだろう、結構な時間が経った気がする。 「……いや、30分くらいか」  よかった。夜中かと思ってビビった。そうだとするとシュートが隣にいないとおかしいから。  こんな少しの仮眠でカラッと機嫌が治っちまうなんて、人間ってのは単純なんだか複雑なんだか、変なモンだな。  シュートに悪いことした……なんて思いながらリビングに戻るために寝室を出ると、扉のすぐ目の前にリディアが立ってた。 「うわっ!なんだよ、ビックリすんだろ!」 「えへ、ちゃたろー、よく寝てるのかもって思って!」 「別に起こしてもいいよ。何かあったのか?」  そう尋ねるとパッと腕を取られて、イヤな予感がした。 「シュートが動かないの」  来て!と言われるより先に俺は階段を駆け上がってリビングに向かった。 「シュート!!」  窓の近くにあるソファに横たわって、シュートは大人しく寝てるみたいに見えた。追いかけてきたリディアを振り返る。 「寝てるんじゃないのか?」 「うーん、何しても起きないよ」  すぐにソファの横に膝をついてシュートの頬に手を当てる。呼吸がゆっくりで深い。やっぱり眠ってるみたいだけど、確かに何度か名前を呼んでも起きそうになかった。 「倒れたのか?」 「しらない、床でねてたから、ここにのせてあげたよ」 「……シュート」  さっき俺が冷たい態度を取ったコトが関係してんのか?それとも、俺の「寝てくる」に共感して眠りについたのか?とにかく、ただの眠りじゃない。 「シュート、起きれるか」  眠りの様子がおかしい時、暴走する可能性があるからってオーサーはシュートを拘束するか閉じ込めようとする。それが長年の共同生活の中で培った最善の対処法なんだろうけど、せめて俺がここにいる間には"それ"をさせたくない。 「なあ、起きろよ」  脱力してる手を握ってしつこく声をかけ続けてると、ほんの少し握り返されるような感触があった。 「おへやにつれてく?」 「いや……」  その方が二人きりになれて落ち着くかもしれねえけど、移動させるストレスの方が心配だ。 「シュート、起きてくれ」  不意にシュートがふっと息を漏らして、咄嗟にリディアが俺を引き離そうと動いたけど「大丈夫だから」って制止した。 「あぶないよお」  目を覚ました時に混乱してたら攻撃される可能性もある。でも、さすがに初手で殺されはしないだろう。一発くらい殴られて骨が折れたとしてもいい。 「さっきはごめんな、俺、疲れてたんだ」  自意識過剰かもしんねえけど、やっぱりシュートが"こう"なってんのは、さっきの俺の態度のせいな気がする。普段から俺の感情にすげぇ敏感だし、あんな風にピリピリした所を見せちまったのは初めてだったから。 「さっき?」 「一人にしてくれ、なんて突き放しちまった」 「えー?気にしすぎだよお」  ハッキリと手が握り返されたのが分かってホッとする。意識が戻ってきたみたいだ。 「そうかな……」 「私も、やだなーってとき、あっち行ってて!って言うもん。シュートへいきだよ」  不思議とリディアが「あっち行って!」なんて言っても、そんなに威圧感がねえんだよな。普段のキャラってのも関係すんだろうか。俺が言ったらマジになっちまう。  なんて話してるとシュートが薄く目を開けたから、そっと頭を撫でた。 「シュート、大丈夫か?」 「……」 「さっきはごめんな、お前は何も悪くないから」  オーサーが仕事部屋から戻ってくるまでに起こせて良かった。このことがバレると危ない橋を渡るなって怒られそうだけど。 「ね!ちゃたろーもあそぶ?」 「いや、晩メシの支度するよ」  まだぼんやりしてるシュートの頭や背をしばらくさすってやって、キッチンに向かった。  まじ、気をつけねえとな……って反省しながらじゃがいもを切ってると、目が覚めたのかシュートが背中にくっついてきた。 「気をつけろよ、火使ってるから」  振り返ると頬を舐められる。いつも通りのスキンシップが嬉しくて、リディアに見られてないコトを確認してからキスをした。

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