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番外編◆初期構想の世界のBOX 16

【初期構想の世界のBOX 16】 ▼拾った命の責任を取る  工場に出勤すると、同僚から「よお有名人」なんてからかわれた。 「なんの話だ?」 「見ろよ」  ネットニュースを見せられてドキッとする。『ヤベェやつ見つけた』という文章と共に投稿されたSNSのポストだ。スラムの壊れた噴水に腰掛けてるシュートの背景に俺が写ってて、いろんなコメントがつけられてた。  やっぱりスラムにいるんだとか、警察はなんで野放しにしてるんだとか。それを機に、あいつの"過去"についてのニュース記事が改めてまとめられたりして。 「……まじかよ」 「ほら、『この通行人、殺されてんじゃねーの』とか書かれてるぜ」  無事に生きてますって投稿するか、なんてふざけてカメラを向けてくるから手でレンズを隠した。困ったな、これで世論に煽られた警察がスラムに踏み込んできたりしたら……。 「なあコイツ捕まえたらしばらく働かなくて済むくらいの賞金なんだろ、次に見かけたら挑戦してみろよ」 「やめろ、仕事すんぞ」  しつこく絡んでくる同僚の後頭部を引っ叩きながら、ふと「なんでオーサーはシュートを警察に突き出さなかったんだろう」って不思議になった。  ***  週末、シュートがシャワーを浴びてるタイミングでオーサーにさっそく尋ねてみた。 「|あの馬鹿《リディア》が拾ってきたんだ」  そう言われてリディアは「なあに?」って首を傾げてる。 「シュートと初めて会った時のコトを聞いてんだ」 「あっちの方にね、たおれてたから!」  そう言いながら壁の向こうを指差す。この街で倒れてる人間なんか珍しくない。でも、何かが琴線に触れて連れて帰ってきたんだとか。 「元いた場所に返してこいと言ったんだがな」 「ノラネコかよ」  結局オーサーは面倒見がいいから、リディアの後押しもあって放っとけず保護したんだろうな。それは簡単に想像がつく。 「その後に奴の指名手配が発表されたが、どう考えても冤罪だろう」  まあ人を傷つけたことが一度もないとは思えないけど……"大規模脱獄事件の首謀者"っていう部分は俺も信じてない。そんなコトをする奴じゃない。絶対に誰かに罪を押し付けられたんだ。 「"そういうの"は俺の趣味じゃないんでな」  だからって警察に連れて行かなかった上に、こうして何年も仲間として一緒に暮らすだなんて、コイツも割と変わってんな。 「先に言っておくが、俺は頭が良い」 「急になんなんだよ」 「この世の大抵のことは想定内なんだ」  そう言いながらオーサーはリディアをチラリと見た。 「そいつも、あいつも、毎日"想定外"なんでな」  理由はどうあれ、オーサーはシュートを守ってくれてる。 「……つまり、実はちゃんと利害関係が一致して一緒にいるんだな。随分と高尚なご趣味なことで」 「ふ、凡人には理解できまい」  それでもなんとなくシュートを"面白い見せ物"みたいに言われるのが良い気分じゃなかったから不機嫌な顔を隠さずに返した。 「もう少し素直になれよ、クソガキ」 「過保護め。『あいつらと暮らすのが楽しくてな』とでも言えば満足か?」  そう言われると、それはそれで気持ち悪かった。 「やっぱお前はツンデレでいいよ」 「俺はいつも素直だが」  これ以上無意味な押し問答をする気が無くなったから、脱衣所に向かって「シュート、俺3階にいるからな!」って声をかけてから階段に向かった。

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