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番外編◆初期構想の世界のBOX 17

【初期構想の世界のBOX 17】 ▼この街のルール 「よお、1週間ぶり」 「きょうはみんなで来たよ!」 「ありがとな」  金曜の夜、いつもの待ち合わせ場所に着いてリディアたちと話す。オーサーが俺のスクーターの後ろに座って「ちょっと走ってみろ」なんて言うから危ねえよって渋ってると、突然バイクに乗った何人かのガキに囲まれた。どうも金目当てらしい。 「ちゃたろーのおともだち?」 「とてもそうは見えないな。アジトに戻るぞ」  出せって言われて戸惑ってたらリディアとシュートが目の前の二人を突き飛ばして駆け出した。 「やつらを追え」 「ま、まじかよ!」  この街の奴らは威嚇じゃなく、本気で人を撃てちまうってコトはもう知ってる。とにかくハンドルを握りしめてリディアが作ってくれた隙間から走り出した。  背後で何発か発砲音が響いてビクッと肩をすくめたけど、オーサーが撃ったみたいだった。 「おい、ガキだぞ!」 「殺してはない。タイヤを撃っただけだ」  後ろでガシャガシャとバイクがぶつかり合う音が聞こえる。 「ついて来れないと思うが、念のために迂回ルートで帰るぞ。誘導してやれ」 「はあい!シュート、こっちだよ!」  あんまクネクネ曲がらないでくれよと祈りながらガタガタの路地裏を二人の後に従って走る。 「ってか、速ぇ!!」  さすがにフルアクセルではないけど、細い路地で曲がり道も多いから、普通について行くのが精一杯だ。 「30キロ近く出てるぞ」  このままアジトまで行くのかと思ったけど、しばらく片手に銃を構えて後ろを見てたらしいオーサーの両手が腰に回されて「少し速度を落とせ」って指示された。 「シュートはこの速度で走り続けられない。呼吸に難ありだからな」  そうだった、シュートは喉に傷を負ってるんだ。それを思い出して慌てて速度を落とす。後ろを振り返ると誰もついてきてなかった。 「リディア!もういいよ、歩いて帰ろう!!」 「いや、小走りくらいにしておけ」 「なんでだよ!」  後をつけられたらアジトの場所がバレるっていうけど、そのために外からじゃ分からねえようにしてあんだろ。お前もスクーターを壊されるかもしれないぞ、なんて言ってきたけど天秤にかけられるワケねえ。 「壊されたって惜しくないように安いボロを買ってんだからいいよ!シュート、無茶すんな!」  でも前に俺が撃たれたからか、リディアもシュートも足を止めようとはしない。さっきよりは遅くなったけど、それでも20キロくらい出てた。こんなの、運動不足の俺が必死で走るくらいの速度だ。 「この速度なら平気だ」 「速いって!」  アジトの近くまで来るとリディアが先に行って1階の扉を開けてくれたから、俺はそのまま中に突入して雑に駐車する。壁に手をついてけっけっと咳き込んでるシュートに駆け寄って背中に手を添えた。 「シュート!大丈夫か!?」 「やれやれ、心配性に余計なことを吹き込んだな」  いつも通りの無表情だけどまだ肩で浅く速い息をしてる。1階は廃墟に見えるようにガラスや瓦礫が散乱したままになってるから、とにかく休もうと肩を貸して2階に向かった。  *** 「この街にいて俺に楯突く人間がまだいたとはな」  オーサーはそう言いながらシャツやズボンを見回してスクーターの油がついてないか確かめる。俺はシュートをソファに座らせて呼吸の乱れが落ち着くのを見守ってたら、どこかで擦ったのか腕から血が出てるのにも気が付いた。 「手当てしてやるから待ってろよ」  リディアはケガしてないか?って振り返るとケロッとしてアイスを食べてやがる。まじで規格外の瞬発力と持久力だな。体が軽いからってのもあるかもしんねーけど。  救急箱を取りに行くとオーサーが手渡してくれる。過剰に心配するなよって言い残して、埃を落としたいのか脱衣所に消えてった。 「シュート、横になるか?」 「あれくらいだいじょーぶだよ!ね!」  普段の外での様子をあんまり知らねえし、そもそもあんなに速く動く姿を初めて見た。力が強いのは知ってたけど、身体能力そのものが高いんだな。そりゃそうか。  でも改めて実感したっていうか……とか考えながら手当てする道具を持ってシュートの前に膝をつくとコテッと肩に頭を乗せられてビックリした。 「おわっ、シュート?おい、大丈夫か?」 「……」  まだちょっとふうふう言ってるけど、ただ抱きついてきただけだったみたいだ。 「……心配したのか?俺は大丈夫だよ」  俺が自分で身を守れないコトをシュートは分かってる。あんな風に囲まれて、もしも何か起きたら……なんて考えたのかもしれない。非力でごめんなって呟くと首元を軽く舐めて吸いつかれた。 「ほら、手当てするから」  こうしてることで安心するならいくらでも好きにさせてやりたいけど、まずはケガが気になる。後で好きなだけ噛ませてやろう。 「それにしてもお前ら二人とも、あんなに速く走れるなんてマジすげぇよ」  そう言いながら傷口を綺麗にして乾燥防止にラップを巻いてると、リディアもシュートもなんとなく誇らしそうにしてるのが微笑ましかった。

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