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番外編◆初期構想の世界のBOX 20
【初期構想の世界のBOX 20】
▼愛を伝える方法
起きたらひとりだった。めちゃくちゃ寝てたみたいだ。いつの間に出て行ったんだか。リビングに行くと『狩り』ってメモが残されてた。物騒だな。
俺も何か手伝えたらいいけど……なんて考える日もあるが、銃なんか手にしたこともねえし、逃げ足も遅いし。またケガなんかしちまったらシュートがイヤがるしな。
「ま、洗濯やらメシやら、それもサポートのひとつだよな」
疲れて帰ってくるだろうから、清潔な空間と美味いメシで出迎えてやろう。そう考えてまずは洗濯から取り掛かることにした。
ひと段落ついてテーブルで工場の仕事のメールを見たりしてるといつの間にか寝てたみたいで、ガタガタと物音で目を覚ました。
「お……寝てた。おかえり」
「ただいまー!」
真っ先に入ってきたリディアは髪が湿ってた。
「雨だ。天気を確認するのを忘れていたな」
オーサーはぶつぶつ言いながら不機嫌そうに入り口近くにあるデシケーターに銃を突っ込む。シャワーを浴びてから分解して乾かすつもりなんだろう。
リディアにタオルを渡してやってるとシュートが遅れて入ってきたからタオルを持って近寄る。
「お前も濡れたろ」
「……」
頭を拭いて、ついでに軽く頬をくすぐると目を細めるから笑いかけた。
「いちゃいちゃしてる」
「あ!洗濯物!」
うっかりしてた。もう結構濡れちまったかな。
慌てて屋上に上がるとなぜかリディアとシュートもついてきた。
「下で待ってろよ、また濡れるぞ」
俺がドタバタしてるからかリディアは落ち着かない感じでピョンピョン走り回ってて、シュートはそわそわと後ろをずっとついてくる。
「えへえへ、シーツ洗ってたの?」
「ほらもう遊ぶなら下行け!いるなら手伝え!」
お前も風邪引くぞってシュートを振り返ると額にキスされて押し黙った。
「ぐうう、可愛いコトしやがって……」
「これ下にもってけばいいの?」
手伝おうとしてくれたリディアがグイッとシーツを引っ張ると、物干し台が引っかかってグラついた。
「わあ」
「おい、危ないって!」
咄嗟に転びかけたリディアを抱き止めようとしたけど、全然踏ん張れなくて屋上のヘリから落ちそうになった。
「あ、やべ」
人間ピンチの時って世界がスローになって超反射神経が働くなんて言うけど、俺は「やばい落ちる」って思いながら何の対処もできずに体が傾く感覚だけをゆっくり感じてた。
リディアを庇うべきか、いや、むしろ離した方が自分で身を守ってくれるのか、その二択の答えを考えることでいっぱいだった。
「うげっ!」
本当に一瞬の出来事だったと思う。首元を掴まれて潰れた声が出た。珍しくシュートが焦ったような顔をしてるのが目に飛び込んできて、次の瞬間には屋上の床に投げ飛ばされてた。
そのまま受け身も取れずに濡れた床に倒れ込んで、慌てて顔を上げるとリディアを小脇に抱えたシュートが駆け寄ってきた。
「わり、助かった」
ガバッと抱きつかれてまた転ぶ。放り出されて立ち上がったリディアは「みんなぬれちゃったね!」って呑気に笑ってるけど、シュートはちょっと震えてた。
「ごめんな、不注意だった」
もうすっかり濡れちまってる洗濯物をひとまずまとめてリビングに降りると、シュートに腕を引かれて洗面台に連れて行かれた。
「ん、なんだ?」
「……」
袖をまくられて水道で手を洗われるとピリッと痛みが走る。手の側面が擦り傷になってたみたいだ。いっつもシュートがケガをして帰ってきた時、こうして俺が傷口を洗ってやるのを覚えてくれてたのかも。
「ありがとな」
綺麗にして水を止めたらうっすら血がにじんできて、シュートが舐めてきたから焦った。
「こらこら!おい!」
そんなコトは教えてない。でも離れそうにないから諦めて吸わせたままソファで休むことにした。前にケガした時も噛みつかれたし、これがシュートなりの心配の表現なのかな。それとも、もしかして独占欲だろうか。
「俺の手うまいか?」
「……」
「またいちゃいちゃしてる」
リディアが何か言ってるけど、シュートの機嫌を取るのが最優先事項だ。
***
その日の夜、そろそろ寝ようかって寝室に行くと膝の上に向かい合わせで座らされて、じっと見つめてくるから軽くキスをして「今日は助かったよ、まじありがとうな」と言ってみた。それでもただじっと見つめてくる。
「どうした?」
「……」
綺麗な青緑色の瞳にぼんやり見惚れてると、しばらくして不意にシュートが動いた。
「ん?」
トンと胸元に軽く拳が当てられて驚く。何かこんな風にシュートが"明らかに何かを伝える意図のある動き"を見せることは今までほとんどなかった。
「シュート?」
その手の動きに視線を移すと、シュートは俺を見つめたまま『好き』のジェスチャーをした。
「……え」
俺が何の反応も返せずにいると、今度は口元で「ちゃた」と言いながら、またしてくれた。
「っシュート……!」
思わず泣いちまうかと思った。感動しすぎて何も言葉にならなくて、握られたままの手を掴むとちょっと震えてたから両手で包み込んだ。
「ありがとうシュート、俺も好きだよ……大好きだ」
キスをすると覆い被さるみたいに抱きつかれて、そのまま抱きしめあって眠った。
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