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番外編◆初期構想の世界のBOX 22

【初期構想の世界のBOX 22】 ▼大切な妹分  土曜の昼間、アジトで過ごしながら「そろそろメシの準備するか」なんて考えてるとオーサーからメールが入った。 「……え」  治療道具と清潔なタオルを用意しておけって。その文面を見た瞬間、手に嫌な汗が滲んだ。動揺で頭が働かなかったけど、とにかく体を動かす。  慌てて救急箱やタオルを準備して水を汲んでるとガタガタ物音がして血だらけで意識のないシュートを背負ったリディアが入ってきた。 「ただいまぁ」 「シュート!」  駆け寄ろうとしたけどオーサーに「邪魔だ、どけ」と手で制される。 「汚してもいいからソファに寝かせろ」  リディアが歩くたびに床にボタボタ血が落ちて気が遠くなった。 「どこケガしたんだ?リディア、お前は平気か?」 「私はどこもケガしてないよぉ」  ソファにシュートを下ろしながらそう言うリディアは手も服も血だらけだ。じゃあこれ全部シュートの血ってことかよ。 「シュート、シュート」  息はしてる。顔にも血はついてるけど、頭にケガはしてなさそうだ。泣きそうになりながら体のケガを確認しようとすると手を洗ってきたオーサーが「腹部と足だ」って呟いた。 「俺が処置をする。お前は手でも握っててやれ」  どうせ取り乱すんだから傷は見るなって言われて押し退けられたけど、はいそうですかと引き下がれるワケがねえ。 「俺も手伝う」 「内臓に損傷は無い。大した怪我じゃないから下手に手を出すな」 「じゃあなんで気絶してんだよ!」 「頭を打っただけだ、静かにしろ」  オーサーがシュートの服を捲り上げると背中から脇腹に深い切り傷が見えてゾッとした。 「……っ」  離れてろって怒られたけど、せめて足の止血だけでもしようと裂けてるズボンの裾をハサミで切っていく。 「足の方が酷いかもしれないぞ」 「いい、俺がやる」  ザックリ切れてる痛々しい傷を水で流す。床が水浸しになるけど、気にしてる余裕もない。リディアはオーサーに指示されてシュートの服を破いて脱がせてた。 「あとは捨てておけ」 「はぁい。ちゃたろー、何かいる?」 「今は大丈夫だから、流してから着替えてこい」  しょんぼりしたリディアが自分の部屋に行ったのを横目で見て、オーサーに何があったのか聞いてみる。 「たまたまバラックが崩れてきただけだ。あいつのせいじゃない」  でもあの能天気なリディアが責任を感じてるってことは、きっとシュートが庇ったんだろう。 「オーサーは?」 「俺は無傷だ」 「頭を打ったって……大丈夫なのかよ」 「ストレスを感じるとシャットダウンする癖があるだけだ。大人しく寝ている方が治療しやすくて助かる」  綺麗にした傷口にタオルを押し当てて圧迫する。オーサーは手際良くテープで腹の傷をくっつけ合わせるみたいに塞いでた。 「それ針と糸の代わりか?」 「ああ、自分で剥がさないよう監視しておけ」  病院に行けないシュートのために色々用意してくれてんだなと思う。 「これでも巻いておけ」  手渡されたバンドを足に巻いてから、濡れタオルでシュートの手や顔を拭いてやった。血で汚れた手を洗いながら気分が沈む。この街で暮らす危険性は治安だけじゃないんだと再認識した。 「……シュート」  ソファに戻って、早く目を覚ましてくれって祈りながら閉じられたままの瞼に触れる。他にケガしてねえか、首や腕を確認してるとオーサーが立ち上がった。 「俺は着替えてくる」 「……」  返事をする気力も無くて、小さく頷いて返した。  ***  床を掃除してからリディアにマットレスを持って上がってきてもらって、しばらく様子を見守ってるとシュートが目を覚まして起き上がった。包帯が気持ち悪いのかぼんやりしたまま早速剥がそうとするから手を掴んで止める。 「お前ケガしてんだ。あんま触るなよ」 「……」 「ん、どうした」  鈍感だから痛みはあまり感じてないハズだってオーサーが言ってたけど、念のために痛み止めは手元にある。 「どっか痛いか?薬飲むか?」  でも俺が話しかけても無反応なまま視線を動かすから、リディアを探してんのかなってふと気がついた。 「リディア、こっち来てくれるか」 「なあに?おみず?」 「シュートが心配してる」  そう言うとキッチンにいたリディアはパタパタ走ってシュートの隣まで来た。けどどうすればいいのか悩んで突っ立ってるから、促すとようやくペタリと床に膝をついておずおずと口を開く。 「シュート……私、どこもケガしなかったよ」  そう言うリディアはいつもと違ってシュンと元気がないから、シュートはまだ心配みたいで珍しくじっとその目を見つめてた。リディアも正面から黙って視線を受け止める。 「……えへ、シュートの目、きれいだね」  ようやくリディアがいつもの笑顔を見せると、シュートも安心したみたいにふいと視線を逸らした。声がデカくて気にならねえのかなって思ったこともあったけど、シュートにとってリディアはちゃんと、大切な妹分なのかもな。 「ねえ、いっしょにあそぶ?」 「ケガが良くなってからな」  見ててくれと頼んでシュートの着替えを用意してたら背後でリディアの楽しそうな話し声が聞こえてきてホッとした。このアジトであいつまで喋らなくなったらあまりにも静かすぎるからな。  ***  それからしばらくは安静にしろって言ってもシュートが無闇に歩き回るからなかなか足の傷が治らなかったりして大変だった。血が滲んでても本人は至ってケロリとしてて、精神的なダメージと打って変わって肉体的なダメージは大した問題じゃないらしい。 「さすがにもう塞がったな」  週末、アジトについてまず傷の確認をする。オーサーが「大丈夫だから仕事に行け」って言うものの、引っ掻いて悪化したりしてないか気が気じゃなかった。 「ちゃたろー、何してるの?」  リビングの真ん中でシュートの服を捲り上げてたからリディアに変な目で見られた。失礼だな。 「ケガの確認してんだよ」 「もうだいじょーぶだよ!たくさんお肉あげてるから!」 「食欲があンのは良いことだ。野菜も食えよ、バランス良くな」  意味わかってんだかどうだか、話しかけると嬉しそうにするのが妙に愛しくて、リディアがいるってのに、思わず頬にキスをした。

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