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番外編◆初期構想の世界のBOX 24

【初期構想の世界のBOX 24】 ▼新しい感情、知らない姿  ウトウトしてると扉が開かれてオーサーが入ってきた。 「おい、そのまま寝るなよ」 「うわーっ!!」  布団は被ってるものの俺もシュートも素っ裸だし、色んな汁であちこち濡れてるし。 「怪我は無いか」 「平然と入って来んなよ!」  裸なんだって言っても気にした様子はない。まあ、聞こえてただろうしな……。 「シュートが寝ちまったんだよ、後でちゃんとするから!」 「|喧《やかま》しい」  以前、オーサーは自分には性愛の感情が無いって言ってた。論理主義で合理主義で、冷静に全ての物事を客観的に捉えてるだけ。俺がみっともなく必死で喘ぐ声を隣の部屋で聞いても気まずそうな顔ひとつしない。フリじゃなくて、マジで微塵も気にしてないんだと思う。 「こういうのは聞こえなかったフリをすンのが礼儀だろ!」 「もしそいつが力加減を間違えてお前を殺してしまいそうになれば制止する責任が俺にはある」  そのために隣の部屋で、無事に終わるまでしっかり全部を聞いてたっつーのかよ。 「聞きたくないとか前に言ってたくせに」 「当たり前だろう。聞きたいわけがない。だが今回は初めてだったからな」 「そこまで把握すンな!」 「ねえどうしたの?」  ギャーギャー騒いでるとリディアまで入ってきたから、慌てて布団を肩まで被る。デリカシーの無いガキ共め。そしたらシュートがモゾモゾ動いて、目を覚ましたみたいだった。さすがに騒がしかったか。 「シュート、待て、まだ動くな」  布団の中でタオルをシュートの下半身に巻きつけてやる。とりあえずこれで最低限の尊厳は守られるだろう。俺の尊厳は守られてないけど。 「茶太郎、傷を見せろ。 頭か?」 「え?」  そう言いながらオーサーが近寄ってきた。多分噛まれた首から出た血が顔に付いちまってたんだろう。 「ああ、こんなの大したこと……」  オーサーが手を伸ばした瞬間、寝ぼけてるっぽかったシュートの纏う空気が急激に険しくなる。危ない。咄嗟に叫ぼうとしたけど、それより早くオーサーは即座にバックステップで距離をとった。直後にシュートが跳ね起きて俺を背に隠すように膝をつくと、威嚇するようにフーッと息を吐く。その手には力が籠っていて、まるで敵を引っ掻こうとしてるみたいだ。 「おい、何してんだ、シュート」  なるべく優しく声をかけてみるけど反応しない。ホルスターに手を掛けて警戒していたオーサーは目を逸らさないまま部屋の入り口まで下がっていく。 「オーサー、撃たないでくれ、頼む」 「そいつ次第だ」 「シュートおこってるの?」  こんな姿は初めて見る。触れていいのか、落ち着くのを待った方がいいのか、分からねえ。とにかく暴走させるわけにはいかない。オーサーは間違いなく撃つ。実際、そうするしかねぇし。殺す気は無いだろうけど、行動不能にさせられるのは間違いない。そうなっちまったら……シュートを医者に見せるのも見せないのも地獄の選択だ。 「おい馬鹿、静かにゆっくり下がって部屋に戻れ」 「なんで?シュートめってする?」 「そうだ。 お前も奴と進んで喧嘩をしたくはないだろう」  ブーイングしながらリディアは自分の部屋に戻っていった。オーサーも銃から手を離さないまま距離を取っていく。 「……ふ、困った奴だな」  意外にもその口元に笑みが浮かんだ。 「どういうことだ?」  この暴走に心当たりがあるんだろうか。俺はもうさっきから心臓が破裂しそうだ。シュートが撃たれたらどうしようって、そればっかりが頭を埋め尽くしてる。 「お前と体を繋げれば精神的に安定すると考えたが、むしろ執着心を刺激してしまったらしい。 まあ、おそらく一時的なものだろう」 「執着心って……バカ」  力の抜けてきたシュートの手に触れると抱きついて顔を舐められた。 「ビックリさせんなよ……」  あんな風に怒ったりするんだな。何年一緒にいても驚かされることばっかで、確かに、"困ったヤツ"。でもよかった。本気で攻撃しにいってたら、どっちかは無事じゃ済まなかったハズだ。シュートは丸腰だったから、多分オーサーが勝ってたかな。 「目が覚めたなら丁度いい。 シャワーを浴びてから寝ろ」 「ああ、そうする」 「邪魔をしたな」  扉が閉じられて真っ暗になる。枕元のランタンを手探りで点けて、シュートの顔を覗き込むと心なしか嬉しそうに抱きつかれた。 「うわっ」  気のせいか?なんか……いや、気のせいじゃない。明らかに感情が読み取りやすくなってる。また俺の悪いクセで、シュートに何か異常が起きてンじゃねえかって心配する自分もいるけど……多分、これは成長だ。今は特に事後で気分が昂揚してるせいもあるのかな。それでも、こんなにハッキリと自己主張するなんて。 「……俺も嬉しいよ」  ずっとお前と"繋がり"たかった……って呟くと優しくキスされた。 「ん……」  別にシュートとの関係性に不安も不満もねえけど、ひとつの節目というか。言葉が無い分、俺たちには触れ合いが何よりも大事なんだ。だから、出来てよかった。おかげで情緒不安定になっちまってンなら、それも甘んじて受け入れるしかねえよな。 「さっさと慣れろよ。 この一回きりで終わらせるつもりはねぇんだからな」  それから一緒にシャワーを浴びて新しいシーツに取り替えて、サッパリする頃にはすっかり真夜中になっちまったけど、俺たちは嬉しい気持ちを抱きしめ合うようにして眠りについた。

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