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番外編◆同級生の世界のBOX 後日談

 部屋でテッドとキスしてたら、姉貴に見られた。 「……お母さーん!」 「おいこら!やめろ!!」 【同級生の世界のBOX 後日談】 ▼茶太郎 テッド 共に18歳  リビングに行くと朝メシの準備をしてる母さんに姉貴が何事か耳打ちしてやがる。誤解のないよう言っておくと、別に俺はテッドと"そういう"関係であること自体は恥とも変ともなんとも思ってない。ただ、恋愛事情を親に知られる気恥ずかしさは人並みにある。 「言うなよ!」 「だってズルいもん」 「何がだよ!」  あとから追いついてきたテッドが背中に張り付いてきた。頭に顎を乗せてグリグリされる。去年から一気に身長が伸びてすっかり俺より大きくなったんだ。 「茶太郎あんた大学は? 朝ごはん食べる時間ある?」 「1限から……食べる、ありがと」  このクソ姉貴はマジで言いやがっただろう。でも母さんに動揺は見られない。気付いてたのか、気にしてないのか、どっちもか。 「私もテッドとちゅーしたぁい」 「やめろ、触んな!」  テッドの頬に触れようとする姉貴の手を容赦なく叩き落とす。何歳になったと思ってンだ。そうでなくとも、本人の同意なくプライベートゾーンに触れるなんて言語道断すぎる。 「何よ! 可愛い弟といちゃいちゃしたいのはアンタだって一緒でしょ!」 「そんな風に言えばセクハラが許容されると思うなよ」  部屋に戻ってろってテッドを追いやると母さんはカラカラと笑いながら「赤ちゃんができる心配は無くても、きちんとコンドームは使いなさいよ」って言ってきた。 「んな、何言って…っ!!」  平然とそんなことを言われて身体中がカッと熱くなった。顔が真っ赤になってる自信がある。 「大事な話でしょ。 あんたもよ」 「はぁい」  姉貴は面倒そうに唇を尖らせてるものの、照れてる様子はない。普通なのか?親とこんな会話、気まずいだろ。 「ま、ま、まっ……"まだ"そんな関係じゃねえから!」  そりゃ考えた事がないワケじゃない。好きで、キスもして、毎日一緒のベッドで寝てたら、そりゃ……俺だって……。 「やだ本気にならないでよ、キモ、リアルに想像したくなーい」 「想像すンな!! バカ!!」  あんまり騒ぐから心配したのか、テッドが戻ってきて抱きついてきた。ケンカしてると思ったのかな。大丈夫だって言い聞かせてテーブルにつく。 「メシ食うから。 この話は終わり」  テッドに箸を持たせてやって食べようか、と笑いかけたところで父さんがリビングに来た。平日の朝なのに珍しい。休みだったのかな。 「やあおはよう」 「ねえ、茶太郎がテッドとちゅーしてたんだよ!」 「おいテメェ!!」  思わず怒鳴りつけたらテッドの手がビクッと跳ねて箸が転がり落ちた。慌てて謝る。 「相変わらず仲がいいね」 「……」 「あ、俺も朝ごはんいただこうかな」  あまりにも自然に受け入れられすぎて、動揺してる俺の方がおかしいのかとすら思えてきた。少なくとも一般的じゃねえよな?一緒に暮らしてる義理の弟と、男同士で……。 「お父さん、今日は休みなの?」 「午前休。 法務局に行ってきたんだ」 「ああ、今日だったんだ」  法務局?なんでか姉貴はニコニコしてる。 「? 何の話?」  まだ早いけど、テッドの在留資格の延長関係かな。そう思ってたんだけど、父さんが含みのある視線を向けてくる。 「……何?」 「いや、"そういうこと"ならいいサプライズになったかなと思って」  サプライズ?なんなんだと思ってると、母さんが机にデカいホールケーキを置いた。な……なんなんだ? 「ハッピーバースデートゥーユー」 「は?え?」  そしてノリノリで姉貴も父さんも歌い始めたから頭の中がハテナでいっぱいになる。とりあえずテッドが怖がるといけないから手を繋いでやった。 「ディア、テッドちゃーん」 「はあ? テッドの誕生日は今日じゃ……」 「ハッピーバースデートゥーユー」  いや、聞けよ。まじでワケわかんねえ。姉貴に消して消して!と言われて、テッドは指で摘んでロウソクの火を消した。 「イェーイ!!」 「おいおいっ、ふーってするんだ、ふーって」  やけどしてないか確認してると父さんが何かA4くらいの紙を渡してきたから反射的に受け取った。やけにしっかりしてて、何かの賞状みたいだ。 「……え……」 「ずっと内緒でテッドの帰化申請を進めてたんだ。 先週、無事に官報に載って、テッドは日本人になったんだよ」  日本国籍を認められた日が"日本人としての誕生日"になるらしい。渡された紙にはテッドの名前と、元々の出生日と……国籍と、その取得日が書かれていた。 「じゃあ……もう在留資格を延長する手続きも?」 「しなくていいよ」  嬉しいことなのに涙が出てきて、咄嗟に俯いたらテッドが頬を擦り寄せてくる。嬉しい。在留資格の延長が必要だって話が出る度に、テッドは|日本《ここ》にいる為に国から許可をもらわなきゃならねえんだって事が、とてつもなく、寂しかった。 「……ちゃた、ないてる」 「嬉しいんだ……おめでとう、テッド」  親たちの前だけど、構わず抱きついた。いいんだ。みんな、認めてくれてるから。

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