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番外編◆もしもの世界のBOX テッドのプロム 2/3

【もしもの世界のBOX テッドのプロム 2/3】  夏がきて、テッドの通信制高校の卒業証書が郵送で送られてきた。その日はテッドの両親、祖父母に茶太郎の家族も加わり、皆でお祝いパーティーを開いた。その時、母親組はテッドが眠った後に茶太郎を呼びつけて何やら熱心に話し込ゆでいるようだった。深夜までかけて当人の意気込み以上に念入りで綿密なプロポーズ計画を立てたのである。  プロムの当日、こんな雰囲気に飾り付けて、音楽はアレで、こんなことをしてから、あの場所で、立ち位置はあそこで、動画も撮って……。茶太郎はもうなるようになれと二人の提案に頷いて返すだけだった。 「……はぁ……」  そしていよいよ、ブラッドレイ家にて茶太郎とテッド、二人の為のプロムが開催される日がやってきた。あんまりフォーマルじゃなくていい、と言われていた茶太郎は綺麗めの黒のパンツに白い襟付きのシャツを合わせただけの、ほとんど普段と変わらない格好だ。  ディナーの時間帯、ソワソワと落ち着かない心持ちで慣れた駐車スペースに車を停め、バックミラーで「変な顔してないかな」と最終チェックをする。そのエンジン音を聞きつけたテッドが家から出てきて、嬉しそうに近寄ってきた。 「ちゃた」 「テッド、お待たせ」  とは言っても約束通りだ。両親たちは先に集まって準備をしている。テッドは車から降りた茶太郎の手を取り、その甲にキスをする。 「ちゃた、きてくれて……ありがとう」 「……」  その服装は茶太郎と全く同じだった。親たちがそうしたのだろう。堪えきれず俯く。もうすでに羞恥とときめきで爆発しそうだった。 「ちゃた?」 「いや……いや、なんでもない」  家の中は華美な装飾はされていないものの、キャンドルがあちこちに灯り、穏やかな音楽が流され、ロマンチックな雰囲気に演出されていた。 「どうぞ」  "こういうの"が苦手な茶太郎は思わず逃げ出したくなったが、誇らしげにエスコートをするテッドが愛おしくて、羞恥心など忘てしまう事にした。 「ありがとう」  素直にテッドに付き添い、リビングへ入る。 「きたきた」 「ほらお揃いにしてよかった!」 「おめでとう」  親たちが口々に祝いの言葉を二人へ投げかけてくるのを、茶太郎は照れ笑いながら受け入れた。そうしてまずは食事にしようと声をかけられ、机の上の料理に目をやる。 「え、俺の好きなモンばっかじゃん。 テッドのは?」 「ちゃたすきなの、すき」  そう言いながら椅子を引かれて、いつもと逆だな、と笑った。いつの間にこんなにもスマートにエスコートが出来るようになっていたのだろうか。練習している姿を想像して茶太郎はニヤける顔を腕で隠した。 「それにあとでケーキ出すからね。 甘いのあればテッドは嬉しいでしょ」 「うん」  それからは特に仰々しくすることもなく朗らかに食事が済み、食後のケーキも食べ終えた所で「そろそろダンスでいかが?」とテッドの母親がBGMをミドルテンポなものに変えた。 「ええ? さすがに恥ずかしいんだけど」 「ちゃんと言ってあったでしょ」 「あはっ! ホントにプロムじゃん! 踊りなよ茶太郎!」  ワインのアルコールがほどよく回っているのか、姉が上機嫌で囃し立てる。すると茶太郎の両親が先に立ち上がって、肩を並べてゆらゆらと揺れてみせた。 「私たちダンスなんて何にも知らないけど」 「あまり派手じゃないインターナショナルスクールだったし、プロム自体初参加だ」  学生時代をやり直してるみたいで楽しいよ、と笑う父親。テッドの両親も席を立って、緩やかに踊り始めた。 「適当でいいのよ、誰にも審査されるわけじゃないんだから」 「ほらテッド」 「ん」  するとテッドも立ち上がって、茶太郎に軽くお辞儀をしてから手を差し出す。 「……」 「……」  急かさず言葉が出てくるのを待ったが、困ったような目で見つめられて茶太郎は破顔した。肝心の所でカッコつかないでいてくれて、むしろ助かったとまで。 「テッド……俺と、踊ってくれますか?」 「……うん」  姉が何やら冷やかしているが、気にしないことにした茶太郎はテッドだけを見つめて立ち上がる。二人はそのまま辿々しく踊り、お互いの足を踏んで転んだりして、ディナーの後の愉快なひと時を楽しんだ。  さて、すっかり夜も更け、そろそろパーティーは終わりに近付いている。ダンスの後は皆でテラスへ移動し、楕円に設置したベンチでしばし会話を楽しんでいた。  まだ19歳のテッド、帰りの運転がある茶太郎とその父親はシラフで、他の面々はワイン片手にほろ酔いである。主役の二人は当然、隣同士に座り、見つめ合って何事か囁き合っていた。 「テッド、改めて卒業おめでとう」 「ん」 「今日はありがとうな」 「ん」 「その格好、よく似合ってるよ。 いつものラフな服装だって……俺は好きだけど」 「ん」  完全に二人の世界に入り込んでいる彼らに姉が「アンタら酔ってんの?」と口を挟む。 「茶太郎」  それぞれの楽しげな様子をニコニコと眺めていた茶太郎の父親は不意に息子を呼び寄せて、髪の毛とシャツの襟をそっと整えた。 「これでよし」 「や、やめろよ」  ただでさえ"その時"が近付いてドキドキしていた茶太郎は頬を赤くして視線を足元に落とす。そして無意識に、ポケットの中で隠し持った指輪の箱をギュウと握りしめた。 「……テッド」  その真剣な声にテッドはキョトンと視線を向け、母親たちは手を取り合ってきゃあと色めき立つ。 「なに」 「こっちに来てくれるか」  デッキの端に立ち、愛おしい恋人を呼び寄せる。 「……なに」 「大丈夫だから」  テッドは空気の変化を感じ取って緊張している様子だったが、柔らかく微笑みかけられてふらりと茶太郎の方へ歩みを寄せた。 「テッド、いつも俺と一緒にいてくれてありがとう」 「うん」  両手を取って、胸元で握り合う。 「泣いてる時……いつも慰めてくれて、ありがとう」 「うん」  二人は見つめ合い、戯れるように鼻先を擦り合わせる。 「お前が辛い時……いっつも俺の方がダメになっちまって、ごめんな」 「……」  テッドは茶太郎の目をじっと見つめたまま、ちゅ、と少しだけ唇を重ねた。 「俺、頑張るから……これからも、ずっと、隣にいてほしいんだ」 「うん」  茶太郎がそう話しながら繋いでいた右手を外して、ポケットから指輪の箱を出そうとしたが、それより先にテッドが茶太郎の腰を抱き、覆い被さる体勢で情熱的に口付けた。母親たちが湧き、姉は呆れ、父親たちは各々笑顔で動画を撮っている。 「んっ!? っぷ、わ、あっ、待て」  後ろに転びそうになった茶太郎は反射的に目の前のものに手を伸ばし、思わずテッドのシャツに縋るような体勢になった。 「ちゃたろ……おれと、けっこんして」 「おい! 言うなよ!!」 「してください」 「するよ!!」  キャンドルに照らされたオレンジ色の光の中、家族に見守られながら二人は抱きしめ合った。

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