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番外編◆初期構想の世界のBOX 31 ※微R18

【初期構想の世界のBOX 31】 ▼堰き止められていた成長 茶太郎(32) シュート(27)  いつの間にか寝てたみたいだ。暑くて目を覚ますと、アジトの3階の部屋でソファに寝転がってた。何してたんだっけ……。 「あち」  シャツの首元をパタパタさせながら立ち上がって、窓を開ける。でも風なんか吹いてなくて、どっちみち暑いだけだった。下に降りよう。 「……」  アイツらはまだ帰ってないのか。シュートの調子が戻ったばっかだから、なんとなく心配だな。まあ考えてても仕方ねえから、晩メシの準備に取り掛かることにした。  ***  無事に大捕物を終えたらしいオーサーたちが上機嫌で帰ってきたからチキンスープを出してやると、珍しくくだらねえコトをワイワイと喋りながら食べてた。 「明日はなにするの?」 「俺は少し片付けたい事がある。 3階に篭る」 「兄さんって、いつもお部屋でなにしてるの?」 「楽しい遊びだ」 「ふうん」  大人しくスープを飲んでるシュートの横顔を見てると癒される。ちゃんと治ってよかった。 「シュート、もう眠いか?」 「……ん」  目がトロンとしてる。もう目も耳も治ったとはいえ、しばらく療養してたし、体力が減ってるのかもな。 「俺、シャワー浴びさせてもう寝かすよ。 片付け頼んでいいか?」 「いいよー!」 「明日は動かないから、ゆっくり休ませておけ」  礼を言って立ち上がり、シュートを脱衣所に誘導する。  服を脱がしてやろうとすると、首筋に鼻を埋められて、そのまま壁に押し付けられた。 「こら、疲れてンだろ」 「……」 「こらシュート」  フンフンと鼻息が耳にかかる。さっき3階ですげえ寝汗かいたから、普通に臭いと思う。 「やめろって、汗かいたんだよ」 「ちゃた」 「えっ」  頭で考えるより先に、反射的に、めちゃくちゃ間抜けな声が出た。いや、出るだろ。さすがに無反応ではいられない。今の、唇と舌を鳴らして発音するいつもの無声音じゃなかった。 「な、なに……」 「ちゃた」  もう一回、今度はもっとハッキリした声で呼ばれて、思わず腰が抜けた。へなへなと崩れ落ちるのを抱き抱えるように支えられて、また耳元で……。 「ちゃた」 「まっ、まて、まて!」  抱き合ったまま座り込んで俯く。  ――やばい。勃った。  いや、その、ビックリしたから。名前を呼ばれて勃ったとかじゃなくて。もしそうなら今後、困る。これからだって、呼んでほしいんだから。少し体を離して「いや?」と言いたげに覗き込まれた。 「いやじゃない、ぜんぜん、いやじゃないんだけど」  動悸が激しくて、舌も回らない。顔が真っ赤になってると思う。驚いて、嬉しくて……愛おしすぎて。 「ちゃた……」 「あ、やばいって、やば……っ」  俺の様子に気付いたのか、デカい手が伸びてきて、ズボン越しに掴まれる。んで……「すき」って、囁かれた。そんな言葉、いつの間に練習してたんだ。 「あ、イッ……」 「ちゃた、すき」 「ん……! はぁっ、あ、あ」  ほとんど何もされてねえのに、ズボンの中でイッちまった。ああ、最悪。下着が濡れて気持ち悪い。余韻が消えなくて、ガクガク震えてると抱き込まれる。 「はぁっ、はぁ、はぁ……っ」  頬を持ち上げられて、顔中にキスが降ってきて、俺もその首に腕を回そうとしたら、なんか硬いモンで頭を叩かれた。 「いい加減にしろ」 「す、すんません」  視線を上げたらレードルを持ったオーサーが立ってた。  ***  先にシュートを洗ってやって、先に寝てろとバスルームから追い出して、汚しちまった下着とズボンを手洗いする。情けねえ……。もう、気が動転して、すげえ声出してた気がする。オーサーはどうでもいいけど、リディアにも聞かれたよな、絶対。 「……」  でも、死ぬほど嬉しかった。まさかこんな日がくるなんて、夢にも思わなかった……ワケじゃない。だって最近のシュートは無声音でなら俺の名前を呼んでくれることも増えてたし、「ん」ならオーサーたちの前でも言うようになってたし、もしかしたらそのうち……とは思ってた。  落ちないように気をつけながら屋上の物干しに洗ったモンをひっかけて、上機嫌で地下へ向かう。なにしろ、「ちゃた」は期待してたけど、さらに「すき」までもらっちまったんだから、間違いなく人生で一番嬉しいサプライズだった。 「もしかして、またリディアと練習してたのか?」  ランタンの灯りを頼りにマットレスに潜り込んで、シュートの腕に包まれながら聞いてみる。嬉しかったよ、俺も大好きだと伝えたら心なしか喜んでるように見えた。 「俺に伝えたい気持ちがあったら……なんだって教えてくれよ」  そう加えたら「ん」と言いながら頬にキスしてくれた。シュートの感情がわかる。う……嬉しい。なんなんだ今日は。成長って、こんな急にするモンなのか?まるで今まで押さえ込んで無理やり詰め込まれてた綿が、袋が破けて飛び出したって感じだ。 「ずっと……お前の中にあったんだな」  俺の名前を呼びたい気持ち、好きだって伝えたい気持ち、嬉しい時に喜んだり、これからは悲しい時に落ち込んだ顔も見せてくれるのかもしれない。 「シュート……愛してる。 これも覚えてくれよ、愛してる……お前を愛してるよ」

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