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三十一話 繋がる想い

 結論から言うと、晃はオレがやったイタズラに気づいていたらしい。それに乗っかっていたわけである。  完全にやってるなあ? 「いや、朝イチでは寝ぼけてて、マジでやらかしたと思ったんだよ。俺、毎晩葛藤してたし」 「葛藤?」 「だって好きな子が横で寝てるんだぞ」 「あ、はい」  その『好きな子』ってオレっすか。恥ずかし。  顔を赤くして照れているオレに対し、晃は既に開き直っている。 「で、後から『いや、なんかおかしいぞ』と気づいたんだけど。まあ、チャンスかと思って」 「なんのチャンスだよ」 「そりゃあ、お前と付き合うチャンスだろ。実際、無防備だから、キスし放題だったし、触らせてくれるし」 「お前、ヤバイぞ。マジで」 「ごめんて」  ごめんで済ませるな? 済ませるけど。オレだから許すわけで。  あれ。いつの間にかオレが謝る方から謝られる方に変わってんな。まあ良いか。晃が悪い。 「いよいよエッチ出来るかと思ったけど、拒否られたから……。やっぱ、無理なのかと思って……。でも、別れたくない」 「あれは――」  言い掛けて、オレをじっと見る晃に気づく。晃からは『絶対に別れてやるものか』という、強い意思を感じる。  その分、オレが好きなのだと実感するが、やってることは結構ヤバイ。 「お前な……。オレは、お前に真摯に向き合うのに、嘘吐いたままじゃまずいと思って拒否ったのに……」 「嘘から始まる真という言葉があってな」 「晃、お前……」 「ごめんて」  本当に反省しているんだろうか。口だけじゃないだろうな?  晃がオレの髪に触れた。くすぐったくて、ぴくんと肩を震わせる。 「ごめん陽介……。入社してすぐに、お前のこと、好きになったんだ。一緒にバカやれれば、それで良かったのに。親友になれて、満足してたのに」 「あ、晃……」  顔が熱い。思っていたよりずっと、オレのことを好きだったらしい。 「あんなイタズラされて、つい、責任取るって言っちゃって……。お前が、触れさせてくれるから、止まんなくて……」 「っ、お、お前な……」 「お前が嫌なことは、しないから。お願いします。好きなんだ。好きなんです。なんでもするから。別れるなんて言わないで。陽介がいないと、俺っ」  ああ。  コイツ、馬鹿なんだな。  端から見ていると、随分と滑稽で、勝手なヤツだ。だけどさ。それがオレを好きだってことが理由だって。そのくらい、オレを好きだって、解ってしまったから。  本当は、文句を言いたかったけど。一発殴ってやりたかったけど。 (オレも、コイツのこと、好きなんだなあ)  自分でも呆れるくらい、晃が好きすぎて。怒るよりも嬉しいの方が先に立ってしまう。  まあ、しょうがない。  惚れた弱みってやつだ。 「晃」 「はい」 「取り敢えず、目閉じて、歯ァ食いしばれ」 「っ」  晃は青い顔で、目蓋をギュッと閉じた。肩に力を入れ、踏ん張っているように見える。  オレは助走をつけるため、やや後ろに下がった。そのまま、全速力でダッシュする。 「おりゃあああ」 「っ……!」  晃が身構える。オレは地面を蹴って晃に飛び掛かり――。 「え?」  晃が間抜けな声を出すと同時に、オレは触れただけの唇を離した。 「え?」  晃がもう一度、目を瞬かせる。 「お前、ほんっと、馬鹿な」 「っ……。あの、その……」 「馬鹿で、ズルくて、スケベ野郎が」 「よ、陽介……?」 「でも、オレ、真面目に悩むぐらい、お前のこと、好きなんだよ」  端から見ていて、じわりと熱が上がったのが解るくらいに、晃の頬に赤味が射した。瞳が、期待と不安に揺れている。 「それは、友達として、っていう……?」 「ダチとしては100点満点あげたいけど。恋人としては赤点かな、お前」  クッと笑ってやれば、晃は感極まったようにグッと唇を結んで、オレを全力で抱き締めてきた。 「満点取れるように、頑張る」 「ん」  晃の唇が、キスを求めて近づく。ちょっとだけ、調子良いぞ、と思わなくはなかったが、オレもしたかったから、素直に受け入れた。  軽く触れあった唇を離し、じっと見つめ合う。もう一度キスしようとしてきたので、ぎゅっと足を踏みつけた。 「いっ……! 陽介?」 「いや、ここ一応公道だし、店の前だから」 「あ、はい」  先程から、ネカフェの前である。なんなら少し、人通りもある。揉めている様子をチラチラ見ていった人もいるし、イチャつく場所ではないのだ。 「……帰ろうか?」  晃の提案に、オレは一瞬悩んでスマートフォンを確認する。時刻は門限間近。通知に、宮脇からのメッセージが入っていた。 『遅くなるかも知れんから、二人分外泊申請出しとくぞ』  ナイス友情。すっかり門限のことなど頭から抜けていたが、宮脇が処理してくれたらしい。  晃の襟を掴み、顔を寄せて耳元に囁く。 「――この前の、続き、しよ」  自分で言っておいて、盛大に顔を赤らめる。晃はビクッと肩を揺らして、オレを見つめた。不安に揺れる瞳の奥に、微かに期待が色づいている。 「いい、の?」 「何度も言わせんな」  照れ隠しで晃の腹を肘で打ったら、思ったより入ってしまったらしく、晃は「ぐえ」と呻いてしばらく蹲ってしまった。

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